5年で20倍以上? 爆発的人気の『ウェザーニュースLiVE』100万人突破で注目される、オアシスと信念
2023年7月、東京・六本木のEX THEATER ROPPONGIにて、気象情報番組『ウェザーニュースLiVE』のファンミーティングが行われた。
気象情報番組のファンミーティングという響きに違和感を覚える人もいるだろうが、この日のチケットは発売後即完売。これを受けて急遽開催が決定した同日夜の追加公演も即完売。当日は2公演合わせて約1800人が参加して本公演はYouTubeでも生配信が行われ、アーカイブ動画も30万回以上再生されるほどの注目を集めた。
なぜ多くのファンと熱狂的な現場が生まれるのか、その魅力やおもしろさはどこにあるのかを解説する。
目次
100万人突破でうちわやペンライトも輝くファンミに
今回のファンミーティングは「Youtubeフォロワー100万人突破記念サポーター大感謝祭」と銘打たれていたとおり、登録者が100万人に到達したことを記念して開催されたもの。リアルでのイベントは約5年ぶりで、番組に出演するキャスター陣をはじめ、解説員を務める気象予報士なども参加。普段は画面越しでの付き合いとなる視聴者たちと久しぶりの対面を果たした。
本公演は100万人の証である「金の盾」開封式に始まり、前半は番組ではキャスターふたりで行っているクロストークを3人の特別バージョンで披露したり、気象予報士による生気象解説があったり、番組の延長的なコーナーを展開。後半はうちわやペンライトを使った観客参加型のクイズ、キャスター陣によるジェスチャーゲームなど、いかにもファンミーティングらしい企画が行われた。
2時間超にわたって行われたファンミーティングは、終演後にアンコールの拍手が沸き起こるほどの盛り上がりを見せ、大盛況のうちに終了。観客の多くは男性だったが、若い女性やカップル、親子連れの姿もあり、キャスターのファンというだけでは説明できない人気ぶりを示すかたちとなった。
伊集院光も絶賛する、番組の中毒性
気象情報番組である『ウェザーニュースLiVE』が、なぜこれほど人気になっているのか。
『ウェザーニュースLiVE』は24時間365日、YouTubeやニコニコ生放送などさまざまな媒体で同時生配信されており、キャスターが全国の視聴者から届くリポートやチャットとコミュニケーションしながら進行されることが特徴だ。そのため天気予報だけでなくリアルタイムの情報も即反映され、台風や地震などの災害時には特に強さを発揮する番組となっている。
その一方で、人気の理由のひとつになっているのが、気象情報の合間に挟まれるキャスターのフリートークだ。ほのぼのとしたトーク、癒やされるトークなどと評されることも多いが、その中毒性は“ラジオの帝王”ともいわれる伊集院光が、今年4月にTBSラジオ『深夜の馬鹿力』内で「麻薬的」と評したほど。
キャスターが登場するのは毎日5時から23時まで。特番時など例外はあるが、基本3時間おきに担当は交替する。逆にいえば、その3時間はひとりのキャスターが担当しており、番組中に読まれる原稿はキャスター自身が用意している。しかも『ウェザーニュースLiVE』はリアルタイムの天気を扱う特性上、キャスターがアドリブで進行しなければならない場面も多々発生する。
その結果、どうなるのか。思わぬところで素の部分が出たり、日常生活が垣間見られたり、至るところでキャスターの人間性がダダ漏れになるのだ。
檜山沙耶、大島璃音、小川千奈など人気キャスターの魅力
アニメの話題になるとオタクスイッチが入りとたんに早口になる檜山沙耶キャスター、F1について語り出すとフルスロットルでしゃべりつづけてしまう大島璃音キャスター、華奢なスタイルからは想像もつかない野生児トークを連発する小川千奈キャスターなど、挙げ始めればキリはないが、こうした様子に親しみやすさを感じて“沼”にハマる視聴者が続出している。
それは解説員を務める気象予報士たちも同様だ。隙あらばひいきの鹿島アントラーズについて熱く語る宇野沢達也解説員、日本の気象を解説するのにインドやヨーロッパの気象から話し始めて頻繁に予定時間をオーバーしてしまう森田清輝解説員など、それぞれが個性を発揮して視聴者から愛されている。
そのなかでも山口剛央解説員は、データ収集のスペシャリストとして知られており、セミが鳴き始めた日やダンゴムシを見つけた日まで記録。過去には気象衛星「ひまわり」の受信機を200万円かけて個人購入するなど桁外れの気象愛を持ち、ファンミーティングでもキャスター以上に大きな歓声を浴びていたほどの人気者となっている。
殺伐としたネット空間での、糾弾なきオアシス
そして3時間の長丁場では、たびたび言い間違いなどのミスも起こるが、そうした場面も『ウェザーニュースLiVE』の魅力となっている。誤解しないでいただきたいが、誰かがミスする様子がおもしろいなどといった次元の話ではない。ミスしたあとの視聴者の反応を含めた空気感が非常に魅力的なのだ。
その最たる例が、2022年3月に起きた“ダンゴムシ事件”。番組中、大島キャスターがちょっとした言い間違いで山口解説員をダンゴムシ扱いしてしまったのだが、笑顔で否定する山口解説員と絵に描いたように崩れ落ちる大島キャスターのかけ合いがほっこりすると話題に。ファンによって切り抜かれたYouTube動画は1200万回以上も再生され、コメント欄は「みんながこんな優しい世界ならいいのにな」「ニュースって堅苦しくて見るの億劫だけど、こんな楽しいニュースなら毎日見たい」など、ポジティブな反応であふれかえっている。
近年はちょっとしたミスでも、すぐに揚げ足を取られ、徹底的に糾弾されることも珍しくないが、『ウェザーニュースLiVE』においてミスを咎める視聴者は皆無に等しい。むしろチャット欄には「ええんやで」の言葉が飛び交い、初めて見る人はカルチャーショックさえ受けるかもしれない。
このような文化が形成された背景には、素を隠さずに視聴者と向き合うキャスターたちの存在や、人間の意図が及ばない自然現象を扱っていることなど、さまざまな要因が考えられるが、結果として『ウェザーニュースLiVE』は、殺伐としたネット空間に疲れた人たちが辿り着くオアシスのような存在となっているのだ。
しかし、これも誤解しないでいただきたいが、キャスターたちはいつもほのぼのとしているわけではない。特に台風や大雨、地震発生時などは、ひとつ情報を間違えれば人命に関わることもあるため、番組の空気は一気に緊張感に包まれる。こうした緊急時はキャスターたちの本領が発揮される場面でもあり、その代表例が緊急地震速報が入った際の対応だ。
その中でも2021年2月に檜山キャスターが緊急地震速報を伝えたシーンは、『ウェザーニュースLiVE』の名を大きく広めた出来事として知られている。それまでは最近ハマっているという将棋について笑顔で話していた檜山キャスターだったが、画面上に緊急地震速報が映し出されると表情が一変。即座に「念のため海岸から離れてください」と呼びかけた冷静な対応が話題となり、ファンによって切り抜かれたYouTube動画は3000万回以上も再生されている。ちなみに動画は海外にも拡散され、コメント欄には様々な言語で彼女への称賛が寄せられている。
人気加速のきっかけとなった「切り抜き動画」
このダンゴムシや緊急地震速報の例でもわかるとおり、番組の魅力の拡散に大きな役割を果たしているのが切り抜き動画の存在だ。『ウェザーニュースLiVE』の映像はガイドラインに従えば、自由に切り抜いて二次配信することが許可されており、2021年8月からはYouTubeを通じた収益化も可能となっている。
これは「「シェアする」という文化が広がれば、いざという時、誰かのためになるという「減災」に繋がると信じています」(ガイドラインより抜粋)という方針に基づくもので、近年始まったことではなく、切り抜き動画は2009年から2018年まで配信されていた前身番組『SOLiVE24』時代から有志の手によって作られていた。そのため2016年にはクロマキーで透明になってしまったガチャピンと松雪彩花キャスターの切り抜き動画が話題になるなど、たびたびネット上を騒がせていたが、ここ数年の切り抜きブームやコロナ禍によるステイホームで勢いが加速。YouTubeでは『ウェザーニュースLiVE』を扱う切り抜きチャンネルが急増している。
番組は24時間365日配信されつづけていることに加え、並行して季節に応じた特番が行われたり、キャスターがインスタライブで生配信を行ったりすることもある。そのため新たな切り抜きネタが日々供給されつづけており、過去の膨大なアーカイブも残されている。
現在は、いわゆる“箱推し”的なチャンネルをはじめ、特定のキャスターを追いかけるチャンネル、過去の名(迷)場面を拾い上げるチャンネル、“ポン子”の愛称で親しまれるVTuberキャスター「WEATHEROID Type A Airi」に特化したチャンネルなど、それぞれが工夫を凝らして切り抜き動画を制作。そして何かのきっかけで切り抜き動画に接した人が、次々と表示される関連動画を見ていくうちに、リアルタイムの配信に辿り着き、最終的にはファンミーティングにまで足を運ぶようになったのだろう。
ちなみに、ウェザーニュースの公式YouTubeチャンネルは2006年5月にスタートしているが、筆者の記録では2021年6月時点でのチャンネル登録者数は52万人だった。2023年8月現在は108万人となっているので、この2年で倍増したことになる。もっといえば2公演で1800人を集めた今回のファンミーティングも、5年前の前回は100人規模のライブハウスで行われており、チケットが即ソールドアウトしたことを踏まえると、コアファンだけでも5年で20倍以上になったと考えられる。
「1年目から変わらない」大切にしている信念
こうした人気の拡大を受け、最近はキャスター陣がウェザーニュース外で活躍する機会も増えている。直近では「auスマートパスプレミアム」や「au PAY マーケット」、集英社「春マン!! 2023」などでコラボ企画が行われ、檜山沙耶と駒木結衣の両キャスターはそれぞれエッセイ本も発売。檜山キャスターは昨年9月に地元・茨城県から「いばらき大使」にも任命されている。
このように番組およびキャスター陣を取り巻く環境は、ここ数年だけでも大きく変わっていることは明らかで、活躍の場は今後ますます広がっていくと予想される。しかしながら『ウェザーニュースLiVE』は、あくまで気象情報番組。2008年から在籍する山岸愛梨キャスターは、ファンミーティング後に行われたメディアの取材で「今も昔も変わらず大切にしていることは?」という質問に対して、次のように答えている。
「天気だったり、切り抜き動画だったり、いろんなきっかけで番組を見ていただいてますが、この番組が一番チカラを発揮するのは災害時なんです。特にここ数年は、台風や地震が起きたときのアクセスが大きいと感じています。普段は楽しいことをしたり、今日のようなイベントをしたり、みなさんに笑顔になっていただけることをたくさんしていきたいですが、やはりみなさんが不安に思うような災害時には、安心していただけるメディアを目指していきたい。これは1年目からずっと変わりません」
そのチカラが発揮される台風シーズンが訪れている。この機会に『ウェザーニュースLiVE』で最新の気象情報を手に入れつつ、本記事で触れた番組の魅力も堪能してほしい。
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