仕事への飽き、家事の分担…星野源&オードリー若林『LIGHTHOUSE』で明かす40代の呪いと解放

2023.8.26
『LIGHTHOUSE』

文=竹島ルイ 編集=梅山織愛


星野源とオードリー若林正恭。片やトップ・ミュージシャン兼俳優、片やMC番組をいくつもこなす超人気芸人。そんなふたりがガチトークを繰り広げる『LIGHTHOUSE』(全6エピソード)が、8月22日よりNetflixで配信中だ。

悩めるふたりが6カ月間、月に一度集まって対話していく本作。それぞれの悩みについてただただ話していく、というシンプルな内容ながら、“今”という時代について考えさせられる何かがあった。そんな新しいトークショーともいえる本作についてライターの竹島ルイが考察する。

悩める人々の明かりを照らす灯台

フィールドの異なるふたりの出会いは、2011年にまで遡る。若林がMCを務める下北沢の大喜利ライブに星野源が出場し、清水ミチコ、ピース又吉直樹、よゐこ有野晋哉ら、並みいる芸人を抑えて優勝。そこからは、若林が『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)にゲスト出演して彼の曲をラップしたり、星野が若林の番組にゲスト出演したり、交流を深めていく。

星野が『あちこちオードリー』(テレビ東京)に出演したときには、「世界すべてを憎んでいるみたいなときが、阿佐ヶ谷時代」とか、「心の中にすごく太い銃を持っている」とか、心の内にドロドロ渦巻いているものがあることを告白。さらには、若林がうまく番組で立ち回りできず号泣した場面を観て、自分も思わず泣いたと語っていた。若林の言葉を借りるなら、ふたりは互いに<シンクロ>する存在なのである。

それぞれがそれぞれのジャンルでトップランナーをひた走る存在でありながら、深い悩みを抱えつづけている彼ら。そこに、総合演出の佐久間宣行は目をつけた。テレビ界きっての戦略家である彼が産み出したのは、「ふたりが1カ月に一度集まって、悩みをテーマにトークしていく」というシンプル過ぎる企画。しかもそのテーマに即した歌を、星野が毎回、書き下ろして歌うという構成にもなっている。いやいや、星野源の労力ハンパなくないですか?

単なるトークバラエティではない。人生相談でもない。なんとも不思議な手触りの、それでいて“今”という時代にジャストマッチしたコンテンツ。『LIGHTHOUSE』という彼らのユニット名は、「悩める人々の明かりを照らす灯台でありながら、星野・若林の足元は暗そう」という意味が込められている。まさにこの番組は、自分たちの黒い部分を隠すことなく、むしろ開示することによって、彼ら自身が治癒され、解放されていくまでのプロセスを描いているのだ。

星野源のヒーラー構造

高円寺のカフェ、東京が一望できるホテルのペントハウス、暖かい居間、観客を入れたステージ、そして海辺までのドライブ。場所を次々に変えながら、ふたりは会話を重ねていく。そして、1カ月の間に考えた悩みや日常の出来事を短くしたためた“1行日記”をお互い発表し、共有し、共感し合うことで、ふたりの心の奥底に溜まっていたオリを吐き出していく。

だがこの番組を注意深く観ていると、星野が聞き手に回ることが多い。若林の苦悩を受け止めて浄化へと導くという、<星野源ヒーラー構造>になっている。最も象徴的なのが、エピソード3で若林が「幸せは幸せなんですよ。でも毎日がつまらない」と心の内を吐露すると、星野が「ひと言で言うと、飽きたんじゃないかな」と返す場面だろう。

仕事への責任、スタッフへの責任、家族への責任。それにきちんと報いたいと思う気持ちがあるからこそ、口が裂けても「飽きた」とは言えない(結果的に言ってしまってるけど)。その葛藤に苦しんできた若林に対して、星野は自分も同じジレンマに陥っていたことを告白。彼もまた、ルーティンの仕事でスケジュールが埋め尽くされ、「新しい場所へ行けない要素でどんどん固められていく」ことに苦しさを感じていた。

もがき苦しんだ星野が導き出した答えが、「私の居場所は作るもの」。それは星野源が2022年にリリースした「喜劇」という楽曲の歌詞でもある。

仕事に疲弊した自分を素直に認めて、新しい場所に向かっていく勇気。その言葉に若林は励まされ、車でラップのレコーディングに向かう道中はワクワクしていた、と目を輝かせて語る。

もしくはエピソード2で、若林が「なぜそんなに家事を分担しているかを聞くカンペを出すのだろう?」という問いを投げかける場面。この質問のゴールは、「分担している」と答えてみんなから拍手喝采を浴びるか、「家事をしない」と答えてフルボッコにされるかの二択しかない。多様性の時代にあって、選択肢があまりにも少ないことに彼は憤りを感じていた。

すると星野は、「実際に夫婦の家事が5:5って、すごく難しいと思います。5:5って言っている人はたぶん嘘だと思う」と語りかける。この思いがけない発言に若林は思わず「ありがとうございます」と謝意を示し、心の底からホッとしたような笑顔を見せる。この時代にあって、ひょっとしたら適切ではないかもしれない発言を星野があえて引き受けることで、若林の心と身体を解放してみせたのだ。

『バービー』ケンと同趣の、マチズモの肥大化

エピソード4で若林は、「自分のお笑いの価値観や教科書をほかの芸人に押しつける強さがなければ、上にいけないのでは?」という切迫感があったことを告白。なぜか物理的に強くなろうとして、総合格闘技を習い始めたという驚愕エピソードを披露する。オスとしての強さを求めたのだ。実際に男性ホルモンが分泌されることで、気が強くなる感覚を覚えたという。

だが、それまでは相手のトークに共感し、寄り添っていたはずの自分が、突然「もっと気合い入れろよ!」と上から目線になってしまうことに気づく。曰く、「強くなると、人と寄り添えなくなる」。己に潜むマチズモを肥大化させてしまった彼は、それは自分のスタイルではないと、慌てて軌道修正した。

筆者はこのエピソードを聞いたとき、現在上映中の映画『バービー』を思い出した。本作は、マーゴット・ロビー演じる“ブロンド美女”としてのバービーが、そのジェンダーロールを自ら引き剥がしていく物語。そしてライアン・ゴズリング演じるボーイフレンドのケンは、現実の世界に感化されてバービーランドを父権社会に塗り替えようとするも、最終的にはトキシックマスキュリニティ(有害な男らしさ)を自覚し、男性性から解放されていく。図らずも若林は、『バービー』のケンと同じようなプロセスを経ていたのだ。

『LIGHTHOUSE』が、“今”という時代にジャストマッチしたコンテンツだと筆者が考える理由は、そこにある。番組の中で、思わず感情が高まってしまうたびに、星野と若林は何度も「泣きそう」という発言をする。弱みを見せ、涙を見せること。それは即ち「男らしさの呪縛」からの解放にほかならない。しかも彼らは、時代に合わせたポーズとしてではなく、極めて自然体に男性らしさを解体している。そのアティチュードが、極めて現代的なのだ。

四十にして惑いまくりのふたり

エピソード4の舞台は、有観客のステージ。客前でしゃべるふたりの姿を観て、なんとなく筆者は1987年から1998年まで放送されていた『鶴瓶・上岡パペポTV』(読売テレビ)を思い出してしまった。笑福亭鶴瓶と上岡龍太郎が一切の打ち合わせなしでステージに立ち、約1時間しゃべくりを繰り広げるこの番組は、今や伝説として語り継がれているトーク・バラエティ。舌鋒鋭い上岡の毒舌に、やんわりと鶴瓶がツッコミを入れるのが王道のパターンだった。

かくいう筆者も、その研ぎ澄まされた切っ先で社会問題を斬りまくる上岡龍太郎のトークに、この上ない快感を覚えた視聴者のひとり。そのキレッキレな話芸は、他の芸人の追随を許さない。あえて暴論とも思える説をブチかまし、鶴瓶にツッコミを与える余白を作ることで、観客を巻き込む熱狂を作り出していた。その手法をシュールな方向でシフトチェンジさせたのが、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)におけるフリートーク・コーナーといえるだろう。

もちろん、星野・若林はそのスタイルとは根本的に異なる。断定口調で物事の白黒をハッキリさせていく上岡の手法に対し(もちろんそれは、彼の意識的な芸ではあるのだが)、ふたりはお互いを慮りながら、最適解を探っていく。観客はトークに圧倒されて感心するのではなく、真摯な姿勢に共感を覚え、次第に自分たちも治癒されていくのだ。鶴瓶・上岡が創り上げた話芸が、ダウンタウンによってシュールに転換され、星野・若林によってさらにシンパシーへと転換される。語りの時代の変化を感じずにはいられない。

番組のラストで、若林は「(我々は)ずっともがきつづけるんでしょうけど」と語り、星野は「僕たちは、ずっと繰り返していくんでしょうね」と応える。1981年生まれの星野源、1978年生まれの若林正恭は、すでに“不惑”の四十歳を迎えているが、どうやら永遠に「四十にして惑わず」の境地に辿り着くことはない様子。四十にして惑いまくりのふたり。そこに焦点を当て、今という時代を補足し、Netflixという巨大資本をバックにコンテンツを仕立て上げた佐久間宣行の慧眼と戦略には、改めて舌を巻く。

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  • 『LIGHTHOUSE』

    Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』

    Netflixで配信中

    出演:星野源、若林正恭

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竹島ルイ

映画・音楽・テレビを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン『POP MASTER』主宰。

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