岸優太の最大の魅力は何か?『Gメン』で完全に調和したパーソナリティと主人公像

2023.8.26

平成のヤンキー漫画を支えてきた小沢としおの同名作品をもとに、King & Prince元メンバーの岸優太を主演に迎えて映画化した『Gメン』が8月25日より全国公開される。

岸がさまざまな番組で本作のPRをしており、特にフジテレビ系の番組では彼の姿を観ない日がない状態になっている。一部の映画ファンにとっては、あまりに宣伝が積極的にされている作品ほど逆に不安になるかもしれないが、そこは安心してもらいたい。『Gメン』は、今年公開された邦画の中でも、上位に入るような良作だった! 本稿では、岸優太という俳優が持つ魅力が今作によってどのように開花したのかを掘り下げながら、作品の見どころにも迫っていきたい。

岸優太の映画初主演作『Gメン』

(c)2023「Gメン」製作委員会 (c)小沢としお(秋田書店)2015

2015年に放送されたドラマ『お兄ちゃん、ガチャ』(日本テレビ)で『月刊TVnavi』ドラマ・オブ・ザ・イヤー新人賞を受賞した岸優太。『仮面ティーチャー』(日本テレビ)や『ナイト・ドクター』(フジテレビ)などに出演している彼に対し、どちらかといえば映画よりドラマで活躍しているイメージを強く抱いている人も少なくないのではないか。

過去、映画作品にも出演している岸だが、ドラマの映画化である『黒崎くんの言いなりになんてならない』や『ニセコイ』のサブキャラクターだったりするなか、彼にとって映画初主演作となるのがこの『Gメン』だ。

俳優・岸優太が持つ最大の魅力=自然体

(c)2023「Gメン」製作委員会 (c)小沢としお(秋田書店)2015

そんな岸の演技の魅力は、なんといっても自然体なところにある。バラエティ番組に出演している彼の姿を観ていても感じられることだが、本人から醸し出される自然体な印象そのものが演技にも反映されており、裏表のなさや純粋さを受け手に感じさせる。

そしてその魅力は、実は『Gメン』の主人公・門松勝太のキャラクター性と見事に一致しており、岸のイメージを利用したキャラクター構造にも思えるほどである。つまり今作の主人公像は、岸だからこそ実写として成り立つものであり、マンガでもドラマでもお決まりの「甘く見ていたら、実は強かった」というキャラクターイメージの転換に説得力を持たせているのも、岸が演じるからこそとなっている。

(c)2023「Gメン」製作委員会 (c)小沢としお(秋田書店)2015

また今作は、アドリブが多い作品でもある。台本にないセリフと行動は、岸自身が「勝太だったら、どう感じて、どう反応するだろうか」ということを、そのまま反映しているからこそ、勝田というキャラクターは岸そのものの思考として観ることもできてしまう。実際、鑑賞していてもアドリブパートに違和感を覚えないし、岸の演技が作品の世界観と完全に調和しているのだ。

今年に入ってから、主演ドラマ『すきすきワンワン!』(日本テレビ)でも自然体な演技が評価された岸ではあるが、映画のほうでも初主演作にして、いきなり頭角を現している。2023年9月をもってジャニーズ事務所を退所する予定が発表されているなか、俳優としての新たな一歩を踏み出したといえるだろう。

ちなみに今作は、まだまだ多くの要素が描ける余地が残されていることから、シリーズ化の可能性を感じさせる仕上がりになっている。続編が実現するにしても、そこに岸の存在は欠かせないことは間違いない。

“最新ヤンキー映画”には、王道な展開の中に斬新さも! 

(c)2023「Gメン」製作委員会 (c)小沢としお(秋田書店)2015

今作は、主要メンバーがほとんど30歳超えという驚きのキャスティングによるヤンキー映画ではあるが、そこには新沢基栄の『ハイスクール!奇面組』イズムも感じさせる。あるいは『今日から俺は!!』などに通じる部分も多いだろう。

「どう見ても高校生じゃない!」とツッコみたくなるシーンや、学校の屋上から高良健吾演じる伊達薫が無傷で飛び降りるシーンなど、現実的には考えられないマンガ的な要素も多数あるのだが、それらも含め、一周回って作品の空気感や全体を取り巻くギャグとしてうまく取り入れている。それに加えて王道的展開や、コテコテのギャグシーンもいいアクセントとなっている。

(c)2023「Gメン」製作委員会 (c)小沢としお(秋田書店)2015

また、ハイテンションだけで押し通すのではなく、時流の変化によって時代遅れになってしまったヤンキーという存在の社会的立ち位置というものもアップデートされていて、ヤンキーとその他の人々によるパワーバランスが現在と過去では違うことが表現されているあたりもポイントだ。

今作で監督を務めたのは、『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』を手がけた瑠東東一郎。瑠東の前作『バイオレンスアクション』は、全体的な構成のバランスが悪く、テンポの悪い作品となっていたために、結果として“バイオレンス感”がまったくない作品に仕上がってしまっていた。しかし今作においてはバランスもテンポもよく、前回の失敗を完全に挽回している。そこには、作品を盛り上げるスタッフやキャスト陣はもちろん、やはり先述したような岸自身の持つ魅力と主人公像の調和が大きく作用しているといえるだろう。今作を楽しむ際には、そうした点にもぜひ注目していただきたい。

『Gメン』

8月25日(金)全国ロードショー

名門・私立武華男子高校。4つの女子高に囲まれ、入学すれば“彼女できる率120%”はカタいというこの高校に、「彼女を作る!」という理由で転校してきた高校1年生の勝太。しかし勝太のクラスは、校舎も隔離され教師たちも怯える問題児集団=【1年G組】だった。荒れ果てた校舎とクセが強過ぎなクラスメイト達に唖然とする勝太。自らを“校内の肥えだめ”と自虐するクラスメイトたちに、「もっとプライド持てよ! 這い上がってやろうじゃねえか!」と吠える勝太は、彼女が欲しいという一心だけで、転校早々G組をひとつにしていくのだが……。

監督:瑠東東一郎
脚本:加藤正人、丸尾丸一郎
出演:岸 優太、竜星 涼、恒松祐里、矢本悠馬、森本慎太郎、りんたろー。、吉岡里帆、高良健吾、尾上松也、田中 圭

原作:小沢としお『Gメン』(秋田書店「少年チャンピオン・コミックス」刊)

配給:東映

(c)2023「Gメン」製作委員会 (c)小沢としお(秋田書店)2015

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バフィー吉川 

2021年に観た映画は1100本以上。映画とインドに毒された映画評論家(ライター)、ヒンディー・ミュージック評論家。2021年9月に初著書『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房)を出版。Spotifyなどで映画紹介ラジオ『バフィーの映画な話』、映画紹介サイト『Buffys Movie & M..

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