ドラマ『だが、情熱はある』の圧倒的熱量に殴られつづけている

2023.4.28
だが、情熱はある

ロゴ=(c)日本テレビ

文=かんそう 編集=鈴木 梢


4月9日(日)から日本テレビで放送されている『だが、情熱はある』。オードリー若林正恭と南海キャンディーズ山里亮太によるユニット「たりないふたり」の半生を描くドラマだ。まだ放送が始まって間もない時期ではあるが、すでにキャストの演技、脚本、演出など、あらゆる面で話題となっている。

本記事では、ブロガーのかんそうがこれまでの放送を振り返り、各キャストの演技力を中心に、ドラマ全体の魅力について語る。

あまりにも大事件過ぎるドラマが始まった

前クールの日曜22時30分に放送されていたドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ)が気が狂うほど素晴らしく「余韻だけでしばらくは生きていける」と思っていたのだが、同枠で、アズスーンアズでヤバいものが始まってしまった。オードリー若林正恭と南海キャンディーズ山里亮太のユニット「たりないふたり」の半生を描くという、文脈を知らない人間にとってはなんのこっちゃと思うであろう奇妙ドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ)だ。

「たりないふたり」の道のりを振り返る。2012年4月から6月に『たりないふたり』、2014年4月から6月に『もっとたりないふたり』(いずれも日本テレビ)がレギュラー番組として放送され、そして2019年に『さよなら たりないふたり~みなとみらいであいましょう~』、2020年に『たりないふたり2020〜春夏秋冬〜』というライブが開催。2021年に『明日のたりないふたり』(無観客配信ライブ)をもって「たりないふたり」は解散した。

「たりないふたり」を全部観ていた筆者にとって、今回のドラマ化はあまりの大事件で、ニュースを目にしたときは目玉が飛び出るかと思った。しかも、主演を務めるのがKing & Princeの髙橋海人とSixTONESの森本慎太郎。本当に意味がわからない。これを企画した人間はいい意味で「エンタメに狂っている」としか言いようがない。

「これはふたりの物語。惨めでも無様でも逃げ出したくても泣きたくても青春をサバイブし、漫才師として成功を勝ち取っていくふたりの物語。しかし断っておくが、友情物語ではないし、サクセスストーリーでもない。そして、ほとんどの人において、まったく参考にはならない。だが、情熱はある」

水卜麻美アナウンサーによる1話冒頭のナレーションがすべてを物語っていた。演者、脚本、演出、そのすべてがふたりの数奇な人生を完全再現しようとしている。しかも、よくある再現ドラマではない。放送が開始された今でも、夢なのではないかと本当に思っている。

気持ち悪いくらいの“若林正恭”と“山里亮太”

まだドラマの序盤を観終わった段階だが、結論として「あまりにもおもしろ過ぎる」。熱量に殴られるとはこういうことをいうのだろう。ラジオやエッセイで死ぬほど味わってきたエピソードが映像として眼球に飛び込んできて、小便が漏れるほどの興奮と羞恥心が交互に襲ってきて感情がねじ切れそうになってしまった。

なんといっても、キャスティング発表当初は「いくらなんでもそれはないだろ」と思っていた主演ふたりの作り込みが常軌を逸している。髙橋海人が演じる若林正恭は、ビジュアルこそ隠し切ることができない輝きがあり、『ドラえもん』の「きれいなジャイアン」くらいの違和感はずっとあるのだが、とにかく「しゃべり」が気持ち悪いくらいに若林正恭で「え……? 声だけ差し替えてる……?」とすら疑ってしまうほどの再現ぶりだった。1話中盤、高校のクラスで「おもしろい人」は誰かを投票で決めるとき、戸塚純貴演じる春日俊彰とふたりで話している雰囲気は、何百回と聴いてきた“オールナイトニッポンのそれ”で、恐怖すら感じてしまった。

森本慎太郎が演じる山里亮太は、見た目からして完全な山里亮太で、彼のことを知らない人間で彼がジャニーズだと認識できる人間はひとりもいないだろう。肌の質感まで似ていたのはいったいどういうことなんだ……?と思った。目の前の親友にしゃべっていると見せかけてその隣にいる好きな女子にエピソードトークをしているときの、声のかすれ具合や、語尾の上がり方、手の動き、表情、メガネの触り方、その一挙手一投足が「なんの映像をどれだけ観ればここまで近づけるんだよ……?」と怖くなるほどに山里亮太の動きをトレースしており、ほぼ山里亮太のメタモンだった。役に没頭し過ぎた結果、山里亮太の妬み嫉みが実生活に侵食しているらしい。もはやホラーの域。

ふたりを取り巻く人々を演じるキャスト陣の表現力

さらに、ふたりを取り巻くキャスト陣も素晴らしい。春日俊彰の得体の知れない存在感を完璧に演じている戸塚純貴はもちろん、息子のあらゆる行動を「すごいねぇ」と肯定する山里亮太の母親役・ヒコロヒー、命を守るためとはいえ一切の感情の起伏を息子に禁じた若林正恭の父親役・光石研と、ひと癖もふた癖もある登場人物たちをとんでもない表現力で演じ切っていた。

特に、芸人の夢を父親に反対され「俺は自分のことおもしろいと思ってるんです!」と叫んだ山里に対して、それまで聖母マリアのような微笑みで山里を甘やかしつづけていた母親が「すごいねぇ……そんな恥ずかしいことおっきな声で言えて……すごいね」と言ったときの極道の妻のような表情とのギャップがえげつなさ過ぎて危うく漏らしてしまうところだった。

『M-1グランプリ』、『オールナイトニッポン』、『JUNK』、『スッキリ』、『ヒルナンデス!』、日本武道館──。ふたりに訪れる転機は山のようにあり、それと同じだけ山のような数の芸人、芸能人たちとの交流がこれから描かれるのだろう。結婚して某ワイドショー番組にセンスのないテロップを出されたり、後輩とバスケをして大ケガしたりするシーンも描かれるのだろうか。そしてそうなってくると大量の「本人っぽい人」が出てくるに違いない。TAIGAは? 蒼井優は? 想像するだけでヨダレが止まらない。特に、ホームページのキャスト一覧にあった

「ヒップホップユニット…加賀翔(かが屋)、賀屋壮也(かが屋)」

この一文を見た瞬間に笑いが止まらなくなった。い、いったいどの「ヒップホップユニット」なんだ……? 気になる人はぜひ「有吉の壁 かが屋」で検索してみてほしい。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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