人生の半分以上、僕の頭の中には現実にはいない妹がいる<吉野おいなり君の妄想日記#1>

吉野おいなり君

神保町よしもと漫才劇場を中心に活動している吉本興業所属のお笑いコンビ・めぞんの吉野おいなり君による新連載「吉野おいなり君の妄想日記」が今月からスタート。

初回はおいなり君の妄想の原点であり、今もおいなり君の中心である“妹”を紹介してくれるそうです。

14歳で妹を作った話

いつからだろう、妹が欲しかったのは。

僕はずっと妹が欲しい。今でも欲しい。

ひとりっ子の永遠のテーマである「兄妹が欲しい」という気持ちは満たされることなく、今年で29年を迎えた。

いつかこの気持ちはなくなるのだろうと思っていたけど、結果、その勢いは衰えることなくむしろ勢いは増していて、職業柄、方々で「妹が欲しい」と発する機会が多いせいか、衰えるどころか鍛えられていくようで。結果、兄妹はいないままで“妹筋”だけ異様に発達してしまった不思議な形の生き物になってしまった。

30を目前に脂っこいものが食べられなくなるとか、徹夜で何かをするのがキツくなるとか、健康のために運動を始めないといけないとか、そんな感じで自分の中で折り合いをつけていればこの気持ちは薄れていくものだと思っていたけれど、結局何をしていてもふと考えてしまう。

人から妹の話を聞いているときはうれしくて、マンガやアニメで妹のキャラクターが出てくるたびに目で追ってしまう。

初期衝動はあのころのままで、むしろ好きだと発言してきたおかげで羞恥心が消えた。

心はあのころからアップデートされた状態で、強く妹が欲しいと思ったまま「今では仲の悪い妹にまだ懐かれていた小学生のころにタイムリープする妄想」をしながら、焼肉屋でカルビを控えてハラミを食べている。

というか、丁寧に育てていた僕のカルビは何もせずにナムルをつついていた妹に取られてしまって、僕は家族焼肉でダントツ人気のないハラミを食べざるを得なくなるのだ。

僕が初めて妹が欲しいと思ったのはいつだっただろうか。確かぼんやりと「兄妹が欲しい」と思ったのは小学生の低学年ぐらいだったと思う。

ちなみに僕は兄妹どころか、父親もいないのだけれど、なぜか小さいころから一回も「お父さんが欲しい」と思ったことはない。世にある作品の中で、兄妹って美化されて書かれてるけど、父親って嫌がられてることが多いからだろうか。とにかく父親が欲しかったことは一度もない。

だからこんな父親になりたいとかもないし、結婚願望もない。妹は欲しい。29歳。楽しい。

兄でも姉でも弟でもなく妹が欲しい

少し脱線してしまった。そんなことはどうでもいいんだ。

僕が妹を欲しいと思い始めたときのこと、感情、経緯、推移を話したいんだ。

小学生のころ、確か「お姉ちゃんでもいい」と思っていた記憶がぼんやりある。あとは当時、「妹と姉だけが欲しい」と言うのは恥ずかしかったので、「妹かお姉ちゃんかお兄ちゃんが欲しい」と嘘をついていた。自分を守るための嘘を。今考えたらあのときから、お兄ちゃんなんて微塵もいらない。

中学校に上がるころには、この“欲しい兄妹トーナメント”ではお姉ちゃんも脱落し、妹が無事初代王者に輝いていた。このころには“妹が欲しい”は確立していた。

小さいころからアニメは好きだった。「母親働き鍵っ子ひとりっ子」として、ケーブルテレビのアニメが流れるチャンネルにかじりついていた結果だ。

中学生になると、ケーブルテレビでは留まらず、その幅が広がった。新しく開拓したマンガや深夜アニメの地に足を踏み入れる。その影響で「なんだか寂しいしうらやましいから兄妹が欲しい」から「小言や嫌味を言ったり、時には怒ってきたりツンツンするも、結局のところお兄ちゃんのことを大切に思っている妹が欲しい」に成長することができた。

夢を追いかけるときに必要なのはまず明確なビジョンを持つこと。僕はこのビジョンによって大きく“お兄ちゃん”に近づいたのだと思う。

あと、僕が中学ぐらいのころはインターネット時代の幕開けだった。2ちゃんねるが輝いていて、ニコニコ生放送が猛威を振るっていた。そのネットの中で“妹”が神格化され、アニメやそのほかメディアでもコンテンツとして大きくなっていった。その影響をもろに受けたのかもしれない。

「妹が欲しい」「妹が好き」。そう言っていいんだ。自分の気持ちは間違っていなかったんだと胸を打たれた。

夢を追いかけるための明確なビジョン、まわりからのあと押し、それらを手に入れた僕にあと足りないもの、夢を叶えるために足りないものは何か?

それは努力だった。

もうがんばるしかなかった。なりふり構っていられない。

最初にしたのは、母親に頼むこと。簡単だし当たり前というか、原点回帰。もちろん答えはノー。至極真っ当な回答が返ってきた。「黙りなさい」。そんなキツくはなかったかもしれないけど、ノーだったこと以外は覚えてない。だけど、「黙りなさい」ぐらいの圧力を感じた。

お母さんにも人生がある。俺の妹を作るために生きてはいない。

まあ、ハナからあてになどしていない。これは俺の問題なのだ。母親を巻き込むわけにはいかない。

だから、僕に残された選択肢はひとつだった。

頭の中で想像する。

みんなも子供のころなんか寝る前に妄想をして寝たことはあるだろう。スーパーヒーローになって街を救う。ゾンビだらけになった世界で逃げる。

まあ、人それぞれあると思う。それと一緒だ。

僕は寝る前に妹がいる想像をした。

最初はイメージしづらいから、学校のかわいい女の子とか、後輩の女の子とか、そういった子が妹になる、といった想像をした。

この想像をしたときは、本当の兄妹ではないがある日突然、同じ家で暮らすことになり、まわりや家族は自分たちのことを本当の兄妹だと思っている。そしてふたりが兄妹でないことを知っているのは僕とその子だけ。といった少しSFチックな内容になっていた。

つまり、あくまでも本物の兄妹ではなかった。

これはこれでマンガやアニメみたいで楽しいけど、本物じゃない、というのが僕の中で引っかかっていた。じゃあ、やっぱり本物の妹を作るしかない。頭の中でぐらいは。

あらかじめしていた“クラスの女子とある日、兄妹になってしまった俺! どうにかこの状況から抜け出すためにがんばる俺と藤井さん!?”という想像のおかげで準備運動はばっちりだった。

僕は頭の中で妹を一から作ってみた。最初はうまくいかなかったが、アニメやマンガ、兄妹とのことを話すネットの掲示板のスレッド、これらの情報が僕に力を与えてくれた。

当初の僕の妹は、意外に思われてしまうかもしれないが“ガッツリツンデレ妹”だった。名前は当時好きだった女性キャラクター、『ケロロ軍曹』の日向夏美から拝借した。

なつみは当時小学生で、中学2年生の僕より3つ年下だった。(たまに中学1年生になったり、双子の同級生の妹になるときがあった)。

高校生、成人、今に至るまで、元気があるときは寝る前になつみを想像をする習慣がついた。

僕の妹たちを紹介させてくれ

想像の中の妹は、今では高校3年生の長女と高校1年生の双子の次女と三女という最高の妹、“3姉妹編成”にまで成長した。

上からゆうか、ゆめ、うた。

ゆうかが「おにぃ」、ゆめが「おにいちゃん」、うたが「ゆうすけ」と呼んでいる。

3姉妹になったのはわりと最近だった。自分の考える最強の妹を作りたいと思ったらこうなった。

もともと妹を作るときは、明確なキャラクターをイメージせず、どちらかというと妹とのシチュエーションや家の中での他愛もない出来事を想像していた。だって実際の妹に明確なキャラづけなんてないでしょ?

それに、頭の中で完全に妹のキャラクターまで作ってしまったら、万が一、万が一、本当に妹ができたときに、その子が次女になってしまうから。

そういう意味では中学生、高校生のころの僕は母親に断られてもなお、どこかで諦めがついていなかったのだろう。さすがに僕ももうすぐ30歳。現実に折り合いをつけたのだ。

まあ、悲しい表現をしたけれど、僕はゆうかとゆめとうたがとても大好きになっている。

この3人のことを考えているときはとても楽しい。

応援してくださる方にこの3人の絵を描いていただいたときは、冗談抜きで「お笑いをやってきてよかった」と心の底から思った。

10歳ぐらいから夢に見ていた。なんならお笑いよりも先に憧れた。

妹が僕の頭の中から飛び出して、僕の声に乗って、絵を描く人の指に飛び移り、しっかりと輪郭を浮かび上がらせて、僕の前に来てくれたのだ。

ゆうかもゆめもうたも大切だ。大切な妹で家族だ。生まれてきてくれて本当にありがとう。そう思えたんだ。

僕はもう現実世界でお兄ちゃんになることを諦めはしたものの、この夢の虚構の世界で冗談抜きで生きる意味、今の仕事をがんばる意味を見出したのだ。

最後に僕の大好きな妹たちのことを紹介させてほしい。

長女のゆうか

・高校3年生
・呼び方は「おにぃ」
・おっとりしていて優しい性格
・髪型はふわふわのロングでポニーテール多め
・家事全般が得意で、手芸部に入っている
・制服はブレザー

普段は本当にやさしいが、実は怒ると一番怖くて、よく、ゆめうた俺の3人も怒られたりする。すごい怒鳴るとかはないのだけれど、淡々と冷静に怒ってくるから本当に怖い。

3人の妹の中で一番のブラコンだ。そういうふうに見せないけど。いつもはお姉ちゃんとして立ち回るからしっかりしているけど、ふたりのときに一番甘えてくるのはこいつだ。かわいい。

今まで恋愛経験はない。というか俺は聞いたこたとがない。でもゆうかの性格上、恋したりしたら俺には言ってくるか。わかりやすい反応をしそう。

あと、オカルト的なものはあんまり信じないけど、お化け屋敷とか驚かしてくるものに対してはめっぽう弱くて、一緒に行くとしがみついてくる。

次女のゆめ

・高校1年生(双子、ゆめのほうが一応お姉ちゃん)
・呼び方は「お兄ちゃん」
・いたずらっ子
・家事はわりと得意。ゆうかからよく教わっている
・運動音痴
・HIPHOPが好き。お兄ちゃんの影響をもろに受けている

家ではふざけていることが多く、俺のことをからかってくる。が、内弁慶。仲いい友達の前以外だととたんにしゃべらなくなる。

何かをお願いするときや、からかうときにのみ「お兄ちゃん好きー」の感じを出す。

恋愛経験はもちろんなく、基本的に男子が苦手、趣味があったりして仲よすぎる男子はたまにいるが、恋はしていない。たまにファッション的に先輩のことを好きになったりするがそこまで本気ではない。よく好きな先輩の話をしては俺と比較して「お兄ちゃんとは大違い」といって俺の反応を窺う。

オカルト全般信じやすく、オバケがすごい苦手だが、よく怖いものを家族の誰かに付き合ってもらって見ようとする。

三女のうた

・高校1年生(ゆめのほうがお姉ちゃんではあるが、なぜか自分がお姉ちゃんだと思っている)
・呼び方は「ゆうすけ」
・性格はハキハキしていて、しっかりしている。
・家事全般できず、部屋はわりとちらかっている。家ではだらしないタイプ
・運動神経がいい。よく部活の助っ人を頼まれていて、体育祭でも活躍している
・成績優秀
・HIPHOPが嫌い

社交的で友達が多い。男女分け隔てなく誰とでも仲よくできて、よく告白をされているが未だに彼氏はいたことがなく、まだ恋愛感情がなんなのかあまりピンときていない。

基本的に兄のことをなめている。でもゆめほどではなく、ゆめと一緒になってからかってくるイメージ。外でたまたま会ったりしたときによそよそしい感じを出してきたりする。

HIPHOPは嫌いだが、多趣味でよく何かにハマる。好きなものや好きな作品のときだけスイッチが入りすごく饒舌になる。

マンガの話でたまに俺とケンカするときがある。が、次の日にはふたりで家で映画を観ていたりする。

それではまた!

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吉野おいなり君(めぞん)

1994年生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人で、原一刻とのコンビ「めぞん」のメンバー。コンビとして神保町よしもと漫才劇場を中心に活躍するほか、シェアハウスの同居人と共に始めたYouTubeチャンネル『板橋ハウス』の登録者数は56万人に迫る(2023年6月現在)。妹が欲しいと常々願っている。

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