「ピアニッシモは解散の味」煙草と歩む納言・薄幸、人生の起点となった一服


人気連載『納言・薄幸の酔いどれコラム』が、リニューアルして再スタートです。

新タイトルは『納言・薄幸の煙たい記憶』。
幸さんに、人生の起点となった一服を綴っていただく“煙草回想録”です。

めっちゃ飯食う元相方

22歳の時、前に組んでいた“朝一番”という女コンビを解散した。
芸人にとって解散というのは年齢芸歴、売れてる売れてない関係なく、言い出す方も言い出される方もかなりしんどいもの。
私は解散を言い出した方だったけど、その時の事は今でも鮮明に覚えている。

解散のきっかけは、元相方が凄いダンスをやっていたから。
そりゃあもう、すっごいダンスやってたのよ。
“何で私がネタ書いてる最中、アイツはボックス踏んでんだよ”
そんなイライラが募って、ネタもコンビ仲も上手くいかなくなってしまい、解散しようと決意した。
ちなみに余談ですが、解散後は元相方とはただの友達に戻って、最近結婚式に出席しました。
乾杯の挨拶を頼まれたけど、「緊張しちゃうから嫌だ」という理由で断ってやった位仲良いです。
おめでとう!

解散しようと決意してからまず悩んだのが、タイミングはいつにしようかという事。
あまりズルズル伸ばしたくはないけど、今すぐ言い出す勇気も無い。
キリがいい時はいつなのかと色々考えた結果、毎月ある事務所ライブのネタ見せ後にしようと決めた。
ネタ見せの前日、元相方に「明日話があるから予定空けておいて」とラインを送る。

翌日のネタ見せが終わり、事務所のある四谷三丁目のサイゼリヤに2人で入る。
まだ喫煙席もあった時代だけど、ネタ合わせの時は、非喫煙者の元相方に合わせて禁煙席に座る。
煙草を吸いたい時だけ店員さんに頭を下げて、喫煙席を借りて吸いに行く、というのが常だった。
私が店員の立場だったら、こんな迷惑な客、呼び出しボタン押された25分後に伺って、全注文間違えた上に、お釣りちょろまかして出禁にしてやる。
こんな迷惑な客でも丁寧な接客して下さったサイゼリヤ四谷三丁目店の店員さん、脱帽です。

店に入り、私は単品ドリンクバーを注文する。
腹は減ってた気がするけど、これから解散の話を切り出さないといけないと思うと、どうも飯を注文する気にはならなかった。
元相方は、私の気を知ってか知らずか、ポップコーンシュリンプと、辛味チキンと、ミラノ風ドリアと、ドリンクバーを頼んでいた。
“めっちゃ飯食うじゃん”
いくらサイゼリヤが安いとは言っても、売れてない芸人の注文とは思えない位飯を頼んでいた。
どうやら、私の気は知らなかった様だ。

流石に飯を食い終わる前に解散の話を切り出すのは申し訳ないから、相方の大量注文が来るまで待つ。
この時間が恐ろしく長く感じた。
ソワソワして落ち着かないので、店員さんに頭を下げて喫煙席に移動し、一服する。

当時ピアニッシモを吸っていた私。
細いピアニッシモはすぐに吸い終わるので、2本程吸って席に戻る。

戻ると元相方の大量注文が届いていて、それはそれは美味しそうに頬張っていた。
元相方は、ミラノ風ドリアの真ん中のミートソースの部分を楽しみに食べる癖があった。
文字にすると何言ってんだか分からないと思うし、私も文字にしてみると何言ってんだか分からない。
何と言ったら良いのだろう。
周りの白いホワイトソースの部分を最初にやっつけて、最後にお待ちかねのミートソースたっぷりの真ん中の部分を一気に食べる、わんぱく食いをするのだ。
その日も変わらず、ミラノ風ドリアをわんぱく食いする元相方。
コンビ仲が悪くなると、不思議なもので、普段の相方のそんな些細な所まで嫌になる。
実際私も常々、元相方のミラノ風ドリアの食い方に対して、何コイツ!腹立つな!と思っていた。
でもその日だけはなぜか、全くムカつきもせず“ほぉ〜、理にかなった食べ方をしているな”と、まったくもって見当違いな感想を抱いていた。

めっちゃ煙草吸う私

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薄幸(納言)

(すすき・みゆき)お笑い芸人。1993年生まれ、千葉県出身。安部紀克との男女コンビ「納言」のメンバー。「三茶の女は返事が小せえな」「渋谷はもうバイオハザードみてえな街だな」など“街ディス”ネタが人気のコンビ。バラエティでは薄幸のヘビースモーカーっぷりや大酒飲みのやさぐれキャラクターにも注目が集まって..

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