芸人がお笑いを辞める時「辞めないで」とは言わないで。|納言・薄幸の酔いどれコラム#5


「解散を考えた事はありますか?」

雑誌のインタビューなんかで、よくこの質問をされる。

納言を結成して今年で4年目。
お笑いを頑張る事を辞めた相方を持つ私は“何だコイツ、解散したろか”と、何度も思った事がある。


北海道を楽しめない安部に、幸「解散したろか」

一番最近だと、北海道へロケに行かせて貰った時。

ロケのお昼休憩時に、スタッフさんがご飯屋さんに連れて行ってくれた。
そのお店は、イクラ丼やウニ丼、色んな種類の海鮮丼が10種類以上あったり、海老やウニとかがふんだんにトッピングされた海鮮ラーメンがあったりと、まさに北海道ならではのお店だった。

スタッフさんと
「何にしますー? うわー、迷うなー!」
だなんてワイワイ会話をしながら、私は海鮮ラーメンを。
スタッフさんも各々好きな海鮮メニューを注文して、皆で北海道を思う存分楽しんでいた。

そんな中相方の安部は、人知れず、ワカメそばを頼んでいた。
「優しい味だなあ~」
とか言いながら、ライス単品の次に安いワカメそばを食っていた。

それはもう、北海道の人がやる事だ。
イクラやウニなんていつでも食べられる、何ならそれに飽きちゃってるレベルの北海道在住の人がやる事だ。

東京からはるばる北海道まで来た安部は、その後、優しい味のワカメそばを食べちゃったせいで、ロケバスでぐっすりと寝ちゃっていた。

これがここ最近の“何だコイツ、解散したろか”と思った出来事だ。
こういう、突発的に解散したろかと思う小さい出来事は、北海道を皆で楽しむ事すら出来ないショボ相方に対して幾度となくあるけど、本気で解散を切り出す所まで至った事はない。

納言安部
ワカメそばを食し、ロケバスでぐっすり寝ちゃっている安部。撮影は幸

薄幸、自身の「解散」を想起

私は6年前に一度、コンビを解散した経験がある。
17歳の時から組んでいた「朝一番」というコンビで、相方は川口という女の人。

川口は、めちゃくちゃ変な奴だった。

一度、川口が友達と富士急に遊びに行く約束をしていた前日に、番組の観覧の仕事が入ってしまった事がある。
若手芸人は、観覧や手伝いの仕事が急遽入る事なんて珍しくない。
その度に予定をずらしたり、バイトの代わりを探したりするだなんて、よっぽど早く売れない限りは、芸人全員が通って来た道だ。

しかし、どうしても富士急に行きたい川口は
「お願いです。富士急に行かせて下さい。今回だけは、どうかご勘弁を」
と、号泣しながらマネージャーに電話をしていた。

翌日腫れた目で観覧にやって来た川口。
どうやら、ご勘弁ならなかった様だ。

ダンスが趣味の川口は、ダンス教室にめちゃくちゃ通っていた。
“ネタ合わせ明日出来る?”
“明日はダンススクールだから午前中なら出来る”
そんな連絡は日常茶飯事。
こちとら、朝早く起きたくないから芸人になったと言っても過言じゃあない。
目覚ましをかけてネタ合わせに行くという、珍しいコンビだった。

養成所で出会った川口とは同い年だった事もあって、すぐに友達になり、最初の頃は一緒にプリクラを撮ったりする程仲が良かった。
でも、3年目位からこういう「川口はやる気が無いんじゃないか」と思う出来事が重なり、徐々に仲が悪くなっていった。

“ネタ合わせエクセルシオールは高いからって理由で10分も歩かされてベローチェ行ったのに、何で富士急に行く金はあるんだよ”

“私がペンを走らせネタを書いているこの時、川口はボックスを踏んでいるのか”

“ダンススクールじゃなくて、ダンス教室と言え。いっぱい横文字使うな”

そんな些細な事で、腹が立つ様になってしまった。

でも、今なら分かる。
富士急に行く為に泣いて仕事を休もうとするなんて、1つのエピソードになる事。
ダンスだって、どうにでも面白く出来るし、ダンスをしないといけない仕事もある事。
でも、その時の私は仕事が無くて、ライブでも思う様に結果を出せない苛立ちから、6年前の3月に私から解散を切り出し、コンビを解消。

川口はスパッとお笑いを辞めた。

芸人にとって「お笑いを辞める」ということ


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薄幸(納言)

(すすき・みゆき)お笑い芸人。1993年生まれ、千葉県出身。安部紀克との男女コンビ「納言」のメンバー。「三茶の女は返事が小せえな」「渋谷はもうバイオハザードみてえな街だな」など“街ディス”ネタが人気のコンビ。バラエティでは薄幸のヘビースモーカーっぷりや大酒飲みのやさぐれキャラクターにも注目が集まって..

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