お笑い界には「歳を取る感覚」がない?<納言・薄幸の酔いどれコラム#20>


月に一度の連載『納言・薄幸の酔いどれコラム』。
先月、誕生日を迎えた幸さん。30歳という節目で心境を綴ってもらいました。

時の流れを感じる隙もない生活

1月24日。私の誕生日。
今年、とうとう私は三十路になった。
余談中の余談ですが、リーダーこと渡辺正行さんと同じ誕生日です。
同じ誕生日の芸能人って調べちゃうよね~。

話は戻るが、10代後半の頃の私は、30歳と聞くと、だいぶ大人。
言葉を選ばず言うのなら、30歳は、おばさんのイメージだった。
もっと遡れば、子供の頃の私は、30歳だったらとっくに結婚していて、子供も居るもんだと思っていた。

果たして今の私はどうだろう。
もちろん独身だし、毎日芸人仲間と飲み歩いて、焼酎の残り香がまだ口に居座っている、残り焼酎口で翌日仕事に行く、という全然大人じゃない生活を送っている。
まあ、焼酎を飲むって所だけ取ると、大人なんだけど。
とにかく、思い描いていた30歳とは程遠い、堕落した生活を送っている。

自分自身も30歳になったという実感が無く、20代半ばの感覚。
どうして20代半ば辺りから時が止まっているのだろうと考えると、多分バイトをせずに芸人の仕事だけで食える様になった20代半ばから30歳になった今まで、全く同じ生活をしているからだと思う。
そりゃあ、時の流れを感じる隙もない。
昨日と同じ今日を、4、5年繰り返しているんだから。
二十歳の集い的なノリで、三十路の集い、みたいなのがあれば痛感するのだろうか。
そんな機会でもないと、歳を感じるきっかけが無い。
今の私は、朝起きた時に20代前半では感じなかった、肩腰の“痛い”でも無い気持ち悪い感覚。言葉で表すと“重い”が一番近い、何とも伝えがたいダルさを感じた時だけ「ちょっと歳を取ったかしら?」と、ふと思うだけだ。

“楽しい”が何年も続く、不思議な世界

この世界が変なのかもしれない。

去年、私が10代の時から面識のあるモグライダーさんと共演した時
「私も、もう(当時)29歳になりました」
そう言うと、モグライダーのお二人は
「へー! 大きくなったねー!」
そう返してくれた。
いや、それもう親戚のじじいじゃん。
安いカップの日本酒飲んで、合間に短い煙草を根本まで吸うタイプの親戚のじじいじゃん。
29歳で大きくなったと言われる世界で、私は日々生きている。

先日たんぽぽの川村(エミコ)さんとロケが一緒だった。
本番前、川村さんに
「今年で30になりましたけど、彼氏も4、5年居ないし、何も楽しくないです」
そんな喜怒哀楽の“哀”しかない恋バナをすると、川村さんは
「30なのにもったいない! こんっなに若いのに! 楽しい年なのに、みゆきちゃん何でなのー?」
こんな嘘みたいに優しい返しが、この世の中にはあるんだ。

“楽しい年なのに”
確か21歳位の時にも、先輩から同じ様な事を言って貰えた気がする。

あれから9年経っている。
私の属しているこの世界は、一体何年楽しい年が続くって言うんだ。

この仕事を続けていると、徐々に年下の後輩と絡む事も増えていく。
その分、テレビでしか見たことの無かった年上の先輩との交流も増えていく。
現に私も年上の先輩方には「まだまだ若い」と言われるし、私も28歳の後輩に「うわ、若いね!」と言っている。
自分の事を、当然めちゃくちゃ若いとは思っていないけど、そこまで「30だからこう!」「30だから結婚も視野に!」とかは一切思っていない。

もしかしたら20代前半、芸人の仕事も無くバイトばかりしていた時の状態のまま30歳になったら、仕事や恋愛について色々考える事もあったのかもしれない。
でも今の私は、26歳辺りからスタートを切った、バイトをせずに好きな仕事だけで食えて、好きな人たちに囲まれる楽しい生活を今年も送る。

“去年みたいな一年を”

それが30歳の目標かもしれない。
その時が充実していれば、きっと、40歳になった時も“39歳の時みたいな一年を”と、同じ事を思っていると思う。

最後にこれだけは覚えておいて欲しい。
1月24日はジュディ・オングさんの誕生日でもあります。

連載納言・薄幸の酔いどれコラムは、毎月1回の更新予定です。

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薄幸(納言)

(すすき・みゆき)お笑い芸人。1993年生まれ、千葉県出身。安部紀克との男女コンビ「納言」のメンバー。「三茶の女は返事が小せえな」「渋谷はもうバイオハザードみてえな街だな」など“街ディス”ネタが人気のコンビ。バラエティでは薄幸のヘビースモーカーっぷりや大酒飲みのやさぐれキャラクターにも注目が集まって..

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