ASMR好き、必聴!サウンドの“質感”で異世界へ誘う3曲(imdkm)
初の著書『リズムから考えるJ-POP史』を2019年10月に上梓して、今最も注目されている音楽ライター、批評家と言っても過言ではないimdkm(イミヂクモ)氏。
今回は「サウンドの“質感”で異世界へ誘う」というテーマで、altopalo「Honey」、Takara Araki「Perfect Revenge」、HYUKOH「Silverhair Express」という新譜3曲をセレクトしました。音の質感に敏感なASMR好きの方にもおすすめできるかもしれません。
ポップミュージックでは歌詞やメロディと同じくらいサウンドは雄弁
人が音の質感から汲み取ってしまう情報というのはかなり大きい。たとえばそれはときに近さや遠さといった空間的な距離感であったり、ある特定の時代と結びついたノスタルジーであったり、また生々しさやエロティシズムであったりする(ここ数年来のASMRの隆盛は、そうした音の質感に対して人々の間に蓄積されてきたフェティシズムの発露と言えよう)。
ポップミュージックにおいても、歌詞やメロディと同じくらいサウンドは雄弁だ。質感のコントロールは、世界をひとつ立ち上げ直してしまうくらいのインパクトがある。今回はそんな質感に着目して、ユニークな新譜を紹介する。
altopalo「Honey」:奇妙なサウンドが導く強烈な没入感
altopaloはブルックリンの4人組。2014年あたりから活動しているようだが、2018年のファーストアルバム『frozenthere』でUSインディ界隈から注目を集めた。初期こそバンド然としていたが、『frozenthere』以降は極限まで削ぎ落とされたアレンジと奇抜なサウンドで、極上の歌ものを連発している。
1月末にリリースされた『Honey』は、ボーカルのラーム・シルバーグレードのけだるく甘い歌声とエモーショナルなシンセの響きが心動かす1曲だ。しかし、一つひとつのサウンドは、あるものは古ぼけていたり、あるいはピッチが落とされていたり、奇妙な距離感で配置されていたりする。この質感の妙によって、耳を通じて五感のすべてを支配してしまうような没入感が生じている。聴くVRというか。altopaloの楽曲はどこをとってもそんな没入感を呼び起こす。4月にはセカンドアルバムも控えている!
Takara Araki「Perfect Revenge」:歌、ノイズ、ビートが溶け合って作り出すダークな情動
ビートメイカーでありシンガーソングライターのTakara Arakiが2月7日にリリースしたシングル。Arakiは2017年ごろから活動を開始、メランコリーを突き抜けてダークに至るような声とビートを紡ぎ、これまでに2枚のEPを発表してきた。
これまではダンスミュージックの文脈からも聴けるエレクトロポップといった趣が強かったが、『Perfect Revenge』で最も雄弁なのはリズムでもメロディでもなく、楽曲の中に配置された耳障りなノイズや環境音、そして聴き取ることのできないささやきだ。精細な表情を見せるボーカルの背後で、日常の風景からフィールドレコーディングしたと思しき素材が、グリッチやスタッターを介してインダストリアルなビートへと姿を変えてゆく4分間。仄暗く不穏な歌詞が醸す情動をさらに濃密にするサウンドがリスナーを引きずり込む。
HYUKOH「Silverhair Express」:「空間」がつくりだすサイケデリア
韓国・ソウルの4人組、ヒョゴの最新作『through love』。R&B、ソウル、ロックを横断するこれまでの作風からするとちょっと意外な、ブラジル音楽を思わせる穏やかなギターとシェイカーのシンプルなフレーズで始まる「Help」から意表を突かれる。どの曲も、ディレイやリバーブといった、残響を強調する「空間系」のエフェクトをふんだんに用いて、シンプルな楽曲を絶妙に異化しているのがおもしろい。
「Silverhair Express」では、各々のサウンドや演奏は控えめで派手な展開もないのに、深い残響が重なり合っていくことでじんわりとしたカタルシスが演出されている。EP全体を通じて、はじめは見慣れていたはずの景色がぐにゃりと歪められていくかのような、穏やかでひそやかな、しかし強烈なサイケデリック体験が待っている。