「松浦亜弥、13年ぶり新曲発表」という衝撃的な朗報。平成アイドルの伝説“あやや”はなぜ、時代を超えて愛されるのか

2022.11.25

トップ画像=松浦亜弥『ファーストKISS』より
文=キクチカムサ 編集=菅原史稀


松浦亜弥が新曲を発表する、というニュースを目撃したのは10月27日のこと。

「2022.11.25デジタルリリースします。楽曲の冒頭公開。」とのツイートでこの朗報を知らせたのは、同楽曲のプロデュースを手がけた張本人であり、松浦の配偶者であるw-inds.の橘慶太だった。仕事の合間の息抜きとして流し見していたツイッターだったのに、予期せぬ新情報に理解が追いつかず、しばらく呆然としていた。なんせ松浦が新曲を出すのは、13年ぶりのことなのだ。

「松浦亜弥が、今新曲を出すの⁉」という驚きの声もあるだろう。アイドル活動時期より彼女の作品を愛聴していた筆者も、一周回ってそのような気持ちを抱いている。まさかこんな日がくるなんて!


平成を代表するソロアイドル、松浦亜弥

松浦亜弥は2001年に、ハロー!プロジェクトの一員としてデビュー。「桃色片想い」「LOVE涙色」「Yeah!めっちゃホリディ」などを代表曲に持ち、6回にわたる『NHK紅白歌合戦』への出場など歌手活動のほか、「プリッツ」や「午後の紅茶」「ティセラ」といった商品のCMに出演、ドラマへの出演など幅広く活躍した、まさに平成を代表するソロアイドルだ。

2022年に放送された『ネスカフェ エクセラ 「はずむ気持ち」』は、松浦にとって11年半ぶりのテレビCM出演作品となった

2013年末に行われたハロー!プロジェクトの合同ライブ出演をもって無期限活動休止、活動休止前のラストシングル作品が2009年2月リリースの『チョコレート魂』なのだから、活動再開を心待ちにしていたファンも少なくないだろう。筆者もそのうちのひとりとして、あの歌声に魅了されたことのあるすべての人に、そしてこのたびリリースされる新曲「Addicted」で松浦と出会う人のために、彼女の魅力、そのすごさを改めて紹介したい。

衝撃のデビュー作「ドッキドキ!LOVEメール」

「アイドル史に残る名盤は?」「ハロプロがサブスク配信を始めたら何から聴く?」……これらはファン同士での飲み会で時折話題に上がるようなとりとめもない質問だが、私は迷わず「松浦亜弥の1stアルバム!」と答える。聴いた回数も数知れないし、それがゆえにそれぞれの曲に聴いていたときの情景がこもる一作なのだ。

そんな松浦亜弥1stアルバム『ファーストKISS』の1曲目を飾り、そして2001年にリリースされた彼女のデビューシングルとして知られるのが、この「ドッキドキ!LOVEメール」である。

『ドッキドキ!LOVEメール』松浦亜弥/zetima

Gパン履くのに慣れた 地下鉄もコツをつかんだ

ファミレスにも入った 一人でコーヒー頼んだ

「ドッキドキ!LOVEメール」

同曲で歌われるこれらの歌詞を聴くたびに、自分自身が上京したときに見えていた世界、街の匂いがフラッシュバックするかのようだ。“THEデビューシングル”といった趣のフレッシュな表現、そしてやや荒々しく抑揚が強い松浦の歌声からは、若さゆえの無敵感が感じられる。しかしこの点はディレクションの妙でありながら、ビート感が強いトラックを乗りこなす弱冠14歳の新人とは思えない彼女のリズム感があってこそ。サビ歌い出しの「このドキドキはなぜ止まらない」というフレーズすら、この曲においてはまだ導入。すべてはサビを締め括る「何度も同じメール 見ちゃってる この感じ Oh!Wow Wow Wow 会いたくなった」というフレーズが生み出すカタルシスのため。あまりにも衝撃的なデビュー作、当時人々はこの一曲で松浦亜弥の虜になった。


聴けば聴くほどに奥深い歌声「I know」

2002年リリースのシングル『The 美学』カップリング曲。複数人で構成されボーカルがリレーになるグループアイドルとは異なり、ひとりで飽きさせずに楽曲を聴かせられることがソロアイドルの条件であり、難しいところだ。歌い方の個性が強いと聴く人を選んでしまうし、逆に癖がないと誰にも引っかかることのない、ガイドボーカルのような歌になってしまう。その点松浦は自分の気持ちがいいと感じる方法でその両方を使い分けているようだ。

『The 美学』松浦亜弥/zetima

でっかく OH YEAH! 恐がらずに 思いっきリ OH YEAH! この街で 心よ繋がれ! OH!YEAH!WOW WOW WO YEAH!

「I know」

サビで歌われる歌詞の一節からはただ明るいだけではない、もの悲しさもどことなく感じられる。緊張と解放、声色の使い分けによって1フレーズの中でも細かく表情を変える歌はまるで生き物のよう。そしてそれらを可能にする音感、リズム感、発声の安定感……。わかりやすくも、聴けば聴くほどにその奥深さに気づかされるような歌声が、20年以上経った今でも人々を魅了しつづけるのだ。

モリモリアレンジ×あややのポテンシャルの化学反応「GOOD BYE 夏男」

『×3』松浦亜弥/zetima

2003年シングルリリース、2004年リリースの3rdアルバム『×3』収録。やたら速いBPMとシンセ・オーケストラヒットの音が織りなす躁気味のトラック、過剰なほどのコーラス・合いの手(ずっとうしろで誰か歌っている)。誤解を恐れずにいうならば、「(いい意味で)うるせえ」曲だ。

この曲を聴くたびに、昔インドカレー屋のシェフから聞いた「インド人って食べ物が辛過ぎるとき、バランスを取るために塩をドサドサ入れるんですよ」という話を思い出す。あまりにも大きな松浦のポテンシャルを活かすためにモリモリのアレンジになったのか、あるいはハロプロの元総合プロデューサー・つんく♂作曲の一番アクが強い部分を制して歌いこなすことができたのが松浦だったのか。きっとその両方なのだろう。かくしてでき上がったこの曲は他の楽曲鑑賞では得られない唯一無二の感覚を聴き手にもたらす。

つんく♂から離れたことで表れた“歌心”「ダブル レインボウ」

『ダブル レインボウ』松浦亜弥/zetima

2007年リリースの4thアルバム『ダブル レインボウ』の表題曲。あえて“ぶりっ子”をすることもない、ド直球のバラード。グッと大人びた、伸びやかで力強い歌声からは、いわゆるアイドル楽曲を歌っている松浦亜弥像とは大きく異なった印象を受けることだろう。本作は楽曲クレジットに「つんく♂」の表記がない、今までのイメージを大きく塗り替える一作となった。

前項でも触れたとおり、つんく♂の楽曲と松浦亜弥の歌唱のタッグには、圧倒的な個性を生み出す力がある。その唯一無二の存在感に惹かれたファンも少なくない。松浦がプロデューサー・つんく♂の手を離れることは、自身の武器、魅力を手放すことのようにも思われただろう。しかしこの曲、このアルバムを通して示されたのはけっして揺らぐことのない、むしろさらに輝きを増すような歌心だった。神経が細部まで行き届いているかのような機微を見せる歌声は数年前より遥かに進化しているし、サビのロングトーンの気持ちよさも、勢いや爽快感を感じさせていたころとは別のもの、大きな説得力を持ってリスナーを圧倒する。

人生を映し出す傑作「みんなひとり」

『Click you Link me』松浦亜弥/zetima

2010年リリースの企画アルバム『Click you Link me』より。もともとは竹内まりやが松たか子に提供した曲だが、松浦が主演を務めた『竹内まりやソングミュージカル 本気でオンリーユー』で歌い込み、「この曲、もう私の曲だと思っているから……」と語るほど、本人にとっても思い入れのある曲だ。

この曲を初めて聴いたときには大学生だった筆者も、今はこのアルバムをリリースしたときの松浦の年齢をとうに追い越してしまった。自分も好きなアイドルも、例外なく年を取る。松浦亜弥しかり、さまざまなアイドルの活動休止や引退を何度となく見送ってきた。それでも作品は残りつづける。色褪せることない“傑作”は評価の隙すら与えず、聴くと思わず自分自身の人生を思い返してしまう、鏡のような存在になる。そっと寄り添い、道を示してくれる、人生におけるチェックポイント。私にとって「みんなひとり」はそんな曲だ。

松浦が活動休止するというニュースを聞いたときは寂しかったが、この曲に出会えたことが自分にとって幸せなことだった。リリースキャリア後期(と言っても当時弱冠24歳)の松浦亜弥は、流行曲を歌ういちアイドルとしての枠を超え、リスナーの人生に影響を与える歌手になるまでのレベルに到達していた。

話は本稿冒頭に戻る。松浦亜弥の新曲のリリースが楽しみで仕方ない。きっと今、松浦亜弥による13年ぶりの新作に胸躍らせているファンは多いことだろう。橘慶太は「友人からの評価だけで判断し辛いんですが名曲らしいんです。天才的な歌声の私の奥さんが歌っている曲なのです」と語るが、この長きにわたるブランクがあってもいまだ彼女の作品が親しまれ、そして新作が心待ちにされるのは、その「天才的な歌声」あってこそだろう。久しぶりに松浦亜弥の曲を聴く人も初めての人も、これを機にその魅力を存分に感じてほしい。


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