2022年10月からスタートした漫画家発掘ドキュメントバラエティー『THE TOKIWA』(日本テレビ)。11名の漫画家たちが熾烈な競争を繰り広げる本オーディションの優勝者は、劇団ひとりがこの企画のために書き下ろした原作をマンガにして、電子コミックサイト『まんが王国』で連載する権利を獲得する。
原作を書き下ろすにあたり、父方の故郷・高知県土佐市をその舞台に選んだひとりは、1日かけて自らロケハンを敢行。推敲を重ね、第5稿まで書き直しを行った。ひとりが約3カ月をかけ完成させた、ハートフルな青春ラブコメ『ようこそ!パラダイス劇場へ』原作3話分を、QJWebにて公開。
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第1話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第2話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第3話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』
○宇佐大橋
自転車に乗る制服姿の北村夏海(16)。
声「夏海ー!」
夏海「?」
橋の下をくぐる漁船。船の上には年配の漁師。
漁師「太いシイラが取れたきよ、後で持って行っちゃるきね」
夏海「はーい! お母さんに言うとくー!」
○北村家
外観。港町にある庶民的な家。
玄関の前には夏海の自転車。
○同・食卓
ご飯をかき込んでいる夏美。目の前で見ている弟の和樹(11)。
和樹「もっとゆっくり食べや」
夏海「時間ないがちや」
夏海「いっぱい食べんと体が持たん」
家のチャイムが鳴る。
夏海「やばい! 来た」
○同・階段〜玄関
玄関に夏海の母・寿江(38)と玄関で滝川賢太(16)。
寿江「お母さん、首の調子はどうなが?」
男「うん、おばちゃんに貰った湿布が効きゆうって」
急いでくる夏海。
夏海「ごめん、お待たせ」
奥の居間から覗く夏海の父・正平(42)。
正平「おぉ、賢太。おまん麻雀覚えたかにゃあ?」
賢太「いや、まだよ。今度、教えて」
正平「今度じゃなくて、いま教えちゃるきよ。ほら、来いや」
賢太「いや、今日は……」
寿江「賢太はこれから夏海とバイトやき、言うちょったやろ」
正平「あ、そうか。今日までやったかにゃあ?」
賢太「はい」
寿江「あ、そうだ。今朝、山菜採れたき良かったら持っていかんかね……」
夏海「ちょっと、お母さん! 時間無いがやき」
夏海「ほら賢太、早く行こ!」
出ていく夏海と賢太。×××家の外。愛車のKLX125に乗る賢太。後ろに座る夏海。
和樹「夏海、お土産にタコ焼き買うてきて」
夏海「わかった!」
○高知城〜夏の夜のお城まつり会場(夜)
ライトアップされた高知城。のぼりや提灯で飾られた櫓で太鼓が叩かれている。賑やかな縁日の風景。肉の串焼き屋の店先に賢太と夏海。奥には三好と三好の父。
三好父「カルビ3本、焼けちゅうよ!」
受け取って客に渡す夏美。
夏美「お待たせしました。カルビです」
夏美「賢太! ビールまだ⁉」
ビールサーバーで紙コップに注いでいる賢太。
賢太「はい、今すぐ」
三好「それ終わったら一旦ゴミまとめちょって」
賢太「はい」
夏美「いらっしゃいませ!」
客「豚トロとカルビ」
夏美「豚トロ、カルビお願いします!」
三好父「はいよー」
時間経過。縁日の客足もまばら。後片付けを始めている出店。封筒を賢太と夏海に渡す三好父。
三好父「三日間、お疲れ様」
三好「ありがとうな。助かったよ」
夏海「楽しかったです!また来年も誘ってください」
三好父「かぁ〜。こじゃんとうれしいこと言ってくれるちや」
財布から二千円を出して賢太と夏海に渡す。
三好父「ほら、これバイト代とは別に」
三好父「まだやりゆう店あるき、ちったぁ遊んでから帰りや」
賢太「いや、そんな……」
夏海「本当に⁉︎ やったー!」
三好「俺も行っていい?」
三好父「おまんは片付けやろが」
三好「えー」
フランクフルトを食べながら歩いている夏海と賢太。緊張した面持ちの賢太。
夏海「焼きそば食べる?」
賢太「いや、もう大丈夫」
夏海「お! クレープもある! 食べようよ」
夏海「あっ、でも賢太、甘いもの苦手か」
賢太「えっ? あ、うん、まぁ、けど別に……」
夏海「射的だ! 射的やろうよ!」
賢太「……」
射的の出店。棚に景品が並んでいる。
賢太「……」
夏海「たまごっちあるじゃん」
夏海「あれ取ってや!」
賢太「いや、ちょっとあれは難しそう……」
テキ屋「がんばりよ、彼氏。彼女にえいとこ見せんとにゃあ」
賢太「え……あ……いや」
夏海「違うから! そんなんじゃないって」
テキ屋「え、そうながかえ? えいやん、お似合いながやき」
顔を赤らめる賢太。弾がたまごっちに弾かれ、床に転がる。
○国道
田んぼが広がる国道。バイクを運転する賢太、後ろに夏海。賢太はジェットヘル、夏海はフルフェイス。赤信号で止まる。
夏海「そんなふうに見えゆうがやね?」
賢太「な、何が?」
夏海「あの人、ウチらのこと彼氏と彼女って」
賢太「えっ? あっ、あー。そ、そんなこと言いよったね?」
夏海「そう見えるのかな? 私たち」
緊張する賢太。
賢太「じゃ……お、俺たち……」
夏海「信号青だよ」
賢太「……」
バイクが発進する。×××国道を走っているバイク。
夏海「気持ちいいー!」
夏海「ねー、寄り道してこうよ!」
賢太「え?(聞こえない)」
夏海「よ!り!み!ち」
賢太「ど、どこに⁉」
夏海「展望台! 波介山!」
賢太「……」
○波介山展望台
バイクが停まっている。展望台に立つ夏海と賢太。多少だが夜景が見える。
夏海「意外と久しぶりかも。もう何年も来てなかったきよ」
賢太「うん。俺も」
沈黙が流れる。
賢太「あ、あの、夏海さ……」
夏海「ん?」
賢太「あの、なんて言うか、えっと……」
賢太「……ちょっと小便」
夏海「うん。わかった」
夏美「?」
藪の中へ立ち小便をしている賢太。
賢太「もう二度と来ん、こんな状況は……」
薮の中の何かの鼻に小便が当たっている。
賢太「なのに何しゆん俺……これが最後だぞ」
薮からガサと音がする。
賢太「?」
藪の奥に目が光る。
賢太「⁉」
夏海「あ、そうだ。お土産のタコ焼き食べちゃおう」
夏海「一個ぐらい食べても……」
タコ焼きを口に入れようとする夏海。
賢太の声「ゔわぁーーー‼」
夏海「⁉」
走ってくる賢太。
夏海「えっ? 何?」
駆け寄る夏海。
夏海「賢太、どうしたの⁉」
賢太「来ちゃダメ!」
賢太「逃げろーーー!」
夏海「逃げるって?」
賢太の後ろから巨大なイノシシが突進してくる。イノシシの牙は一本折れている。
夏海「はぁ‼‼??」
展望台をイノシシに追われて逃げる賢太と夏海。逃げる。追う。追う。逃げる。手すりに追い詰められる賢太と夏海。そしてドン!!!とイノシシがふたりに体当たりする。夏海、賢太、イノシシが投げ飛ばされる。宙を落ちていく夏海。絶望的な夏海の表情。スローモーションのように。ブラックアウト。
○パラダイス劇場・前
ブラックアウトした流れで、闇の中から夏海の足元。恐る恐る歩いてくる。古いアメリカ的な映画館の前。パラダイス劇場の看板。
夏海「……どこなが?」
チケット売り場に店員。
夏海「あの、すいません」
店員「いらっしゃいませ。大人、1名様でよろしいでしょうか?」
夏海「あ、そうじゃなく。ここは一体……」
店員「もう間もなく上映になりますので、こちらのチケットを持ってお入りください」
チケットを渡される夏海。
夏海「いや、ですから……?」
チケットに『北村夏海物語』
夏海「何これ? 北村夏海……私の物語?」
店員「さぁ、どうぞ」
○パラダイス劇場のロビー
壁には北村夏海物語の映画風のポスター。映画のプロモーション用の等身大パネルなど。
展示されている自転車や学校の制服、ランドセル(実際に撮影で使われました的なもの)など。
夏海「なんなの、これ」
◯同・劇場内
扉を開けて入ってくる夏海。舞台上、下手にプレゼン台。そこで作業をしているタキシード姿の支配人・峯岸(40)。メガネを掛けながら書類を確認している峯岸。夏海に気がついてメガネを外す。
峯岸「あ、どうぞどうぞ。もう準備はできてますから」
峯岸「では座席番号の所へ」
言われるがままチケットの座席番号を確認して、座る夏海。
夏海「あの、ここって?」
峯岸「まぁまぁ、焦らない。あとでしっかり説明しますから。まずはオープニングアクトを」
夏海「オープニング?」
峯岸「申し遅れました。私、当劇場の支配人をやっております、峯岸です」
峯岸「それでは早速参りましょう」
夏海「あの、それでここは……」ブーと開演のブザーがなる。
夏海「え?」
劇場が真っ暗になり、センターのスポットライトに峯岸。
峯岸「レイディースエーンジェントゥルメェン。今宵、繰り広げられる束の間のショータイム。最後までごゆっくりお楽しみください」
夏海「……」
峯岸「あ、ワン、あ、ツー、あ、ワンツースリーフォー♪」
後ろの垂れ幕が上がり、ビッグバンドの激しい演奏。
峯岸「楽しかったあの日々♪」
峯岸「悲しかったあの日々♪」
峯岸「どんな日々があったか思い出そうよ♪」
舞台へラインダンサー。峯岸と一緒に歌い踊るダンサー達。
峯岸「ほら胸に手を当ててみて♪」
峯岸「あの場所へ♪あの時へ♪あの人と♪」
舞台上に象が現れる。その背中に峯岸。
峯岸「セピア色の日々♪」
舞台が静まり返る。天井からぶら下がったブランコにポツンと峯岸。
峯岸「もしも思い出せなくても♪」
峯岸「なにも心配ないよ♪」
峯岸「そのために♪」
峯岸「ここがあるのさ♪」
再び盛り上がる。演者が舞台に勢揃い。花びらが舞い散る。ピーターパンのようにワイヤーで吊るされて飛び回る峯岸。
峯岸「ようこそ♪」
舞台のセンターへ峯岸。
峯岸「パラダイス劇場へーーー♪」
ジャン!全演者で決めポーズ。
夏海「……」
沈黙の中、チラチラと夏海を見る峯岸。気を遣ってパチパチと拍手をする夏海。満足気な峯岸。
峯岸「はい、オッケー。みんな、お疲れ」
舞台上から演者がはけていく。
峯岸「みんな、良かったよ。ちょっと象のタイミングが遅かったかな」
象「パオン」
誰もいなくなった舞台。
峯岸「……ということ」
夏海「いや『・・・ということ』って言われても全然わからんがやけど」
峯岸「うーん、そうか。(メモ)次から、もう少し歌詞で説明した方がいいかな。けど、そうすると尺が長くなっちゃうなぁ……」
夏海「ちょっと、何をぶつくさ言ってんの?」
夏海「早く教えてもらえます? ここはどこなんですか?」
峯岸「走馬灯って聞いたことある?」
夏海「……死ぬ前に見るやつ?」
峯岸「そう! それまでの思い出が一瞬にしてバババッと蘇るっていう」
峯岸「君には、それを今から見てもらう」
夏海「え、それってつまり?」
夏海「わたし……死ぬの⁉」
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第1話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第2話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第3話
『THE TOKIWA』番組情報
2022年10月30日(日)から『シューイチ』(毎週日曜午前7時30分~)内のコーナーとして毎週放送(全8回)。『まんが王国』サイト内では『THE TOKIWA』第2弾の特設ページも公開中。
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