劇団ひとり×花沢健吾が語る、芸人と漫画家が勝ち抜く方法。『THE TOKIWA』審査員対談

2022.12.18

文=上垣内舜介 撮影=吉場正和 編集=田島太陽 菅原史稀


漫画家発掘ドキュメントバラエティー『THE TOKIWA』(日本テレビ)が2022年10月からスタートした。厳しいオーディションを勝ち抜いた優勝者は、劇団ひとりの原作をもとにマンガを制作する権利を獲得する。

今回は、共に最終オーディションの審査員を務める芸人・劇団ひとりと漫画家・花沢健吾の異業種対談が実現。“マンガ好き”で知られる徳島えりかアナウンサー進行のもと、小説家・映画監督としても高い評価を得る劇団ひとりと、漫画界のトップランナーとして作品づくりをつづける花沢健吾に、互いの創作の裏側と番組に期待することを語ってもらった。

劇団ひとり
(げきだんひとり)1977年、千葉県生まれ。1993年に芸人としてデビュー。2006年に初の小説『陰日向に咲く』(幻冬舎)を発売、2021年に監督・脚本を務めた映画『浅草キッド』がNetflixで配信されるなど、マルチな才能を発揮し活躍の幅を広げる。

花沢健吾 
(はなざわ・けんご)1974年、青森県生まれ。2004年に『ビッグコミックスピリッツ』にて漫画家デビュー。著作に『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(小学館)『アイアムアヒーロー』(小学館)など。現在は『週刊ヤングマガジン』にて『アンダーニンジャ』(講談社)を連載中。

ツイッターの反応は気にしますか?

徳島えりか(以下、徳島) ひとりさんと花沢先生は本日が初対面とのことですが、実際にお会いしてみて印象はいかがでしょう?

劇団ひとり(以下、ひとり) なかなか漫画家の方と仕事でお会いすることがないので新鮮です。芸能界で一緒になる漫画家って蛭子(能収)さんくらいですからね(笑)。花沢先生も、タレントとの仕事はほとんどないんじゃないですか?

花沢健吾 (以下、花沢) そうですね、全然ないです。作品が実写化したときに出演者の方にご挨拶する程度ですね。

ひとり 漫画家さん同士の交流はあるんですか? 最近はコンプライアンスとか、テレビへの風当たりが強いこともあって、僕ら芸人は集まると愚痴ばっかり言ってるんですけど……。漫画家さんたちは集まってどんな話をするのか興味があって。

花沢 僕らもほとんど愚痴しか言ってないですよ(笑)。でも、コンプライアンスという点では、漫画家の場合は「作品」というフィルターがあるので、芸人さんよりは意識していないかもしれないですね。

ひとり ツイッターの反応は気にしますか? SNSをみんなが使うようになってから、漫画業界はどんどんファンの声が強くなってる印象があるんですが。

花沢 あまり気にしませんね。昔はインターネット掲示板とかをチェックしてたんですけど、どれだけいい評価があっても、ひとつ悪い評価があるとすごく落ち込んじゃうから、極力見ないようになりました。

ひとり ネットの言葉って強いですからね。「顔も知らない人の悪口だから気にするな」って自分に言い聞かせるんですけど、シャワー浴びてるときに思い出して嫌な気持ちになったり……。だから僕もなるべく見ないです。でも、自分がネットニュースになったときにアンチコメントがあると、「そう思わない」をクリックしちゃうことはありますね。

自分が書いたプロットを、裏切りたくなっちゃう

徳島 ひとりさんは小説、花沢先生はマンガと、形式は違いますが「本」を作られているというところがおふたりの共通点ですね。

ひとり 先ほど資料を確認したんですが、花沢先生のマンガ、とんでもない部数売れたんですね! 小説とは桁が違いますよ、うらやましい。ただ、小説は自分が書きたいタイミングで書けますが、連載のマンガはそういうわけにいかないですもんね。そこがしんどそうです。

花沢 締め切りがありますからね。でも、それがないと描けないです。

ひとり 連載作品を描くときは、ざっくりと全体的なあらすじを考えておくんですか?

花沢 最初に大枠は決めておくんですが、描いているうちにどんどん変わっていきますね。ゴールがどうなるか自分にもわからない、それが連載の醍醐味だと思っています。むしろ、変わっていくときのほうがおもしろいですね。

ひとり わかります。僕も小説や脚本を書くときは一応プロットを作るんですが、そのとおりに完成したことがないです。次の展開がわかってると飽きちゃうんですよね。自分が書いたくせにそれを裏切りたくなってくるというか。

そのせいでキャラクターの性格とかがガラッと変わって、最初の設定と矛盾することもあるんですけど。でも、小説とか脚本はページを戻って書き直せるんですよ。連載作品だとそれができないじゃないですか。

花沢 できないですね。だから、5年とか連載してると最初とは全然違うキャラクターになっていたり……。それはどの漫画家でもあるんじゃないですかね。

ひとり 「そろそろ伏線回収しないと!」とか考えるタイミングもあるんですか?

花沢 終わりに向けてそろそろ準備しないといけないな、というのはありますね。人気次第でいつ終わるかわからないというのも過酷で、僕はある程度の巻数で自分から終わらせたくなります(笑)。

映画監督と漫画家、それぞれの制作背景

徳島 花沢先生はひとりさんの作品をご覧になったことはありますか?

花沢 ついこの間『浅草キッド』を拝見したんですが、レベルが高過ぎて驚きましたね。あれは現代の(ビート)たけしさんの役も柳楽(優弥)さんが演じられているんですか?

ひとり そうです。特殊メイクで。声は松村(邦洋)さんが吹き替えてるんですけど。あのシーンはけっこう迷ったんです。やっぱり特殊メイクって少し違和感あるし。テレビの再現ドラマみたいに、あえてあまり似ていない人を使う無難な方法もあったんですが……。

でも、それだと自分がワクワクしないなと思って。小説でも脚本でもバラエティでも、自分がワクワクするかどうかっていうのを一番大事な指針にしてますね。楽しくないとつまらないじゃないですか、仕事って。

花沢 それが一番ですよね。僕も飽きてくると「早く次に行きたい!」ってなっちゃいます。

ひとり 一方で、経験を積めば積むほどハードルが高くなることもあります。ちょっとやそっとじゃ自分がワクワクしなくなってくるから。バラエティとかずっとやってると、経験だけでなんとかなる部分が増えてくるんですよね。別の番組で使ったようなコメントを言っても、その場は成立するっちゃするんです。でも、そういう日は帰り道に「本当にあれでよかったのか」って自問自答することもあって。

花沢 「あそこはもっと冒険してもよかったな」みたいな?

ひとり もちろん全部が大冒険というわけにはいかないですけど、仕事の9割は経験値でうまくやって、せめて1割は自分のやったことないことに挑戦したいと思ってるんです。

『浅草キッド』も、タップダンスのシーンを撮るのは初めてで相当ワクワクしたから、いろんなダンスをPVなんかで観たりして。「こういうカット割りを使うんだ」とか「こういうリズムでつなぐんだ」とか、すごくドキドキして楽しい作業でしたね。実際にタップダンスの学校に通ったりもしました。全然できませんでしたけど(笑)。

徳島 ひとりさんの作品づくりの裏側を垣間見ることができましたが、花沢先生にもお伺いしたいです。先生は作品をつくる際、登場人物のキャラクター像をどのようにつくられるのですか?

花沢 初期の作品は、基本的に自分を投影した登場人物が多かったですね。そうしないと感情移入できなくて。でも、それがつづくと同じようなキャラクターばかりになるので、最近はなるべく自分から切り離した設定にしています。

ひとり 登場人物も過去の経験値で割り振りできちゃうところがありますよね。主人公が内気だったら、隣にいるのは負けん気の強い性格の子とか。簡単に設定することもできるんですけど、やっぱりそればかりだと嫌になるんです。僕の理想は、「なぜここにこの人がいる必要があるんだろう」とか、自分でも説明できないキャラクター設定をすることですね。

花沢 それは共感できます。キャラクターを置く目的を自分の中で作ってしまうんですよね。そこからいかにズラせるかがオリジナリティにつながっていく気がします。

ひとり これもまた難しいんですが、「新しいことをしなきゃダメだ」と思ってやる新しいことも嫌いなんです。奇をてらっただけで浅はかになることが多いから。やっぱり、苦しみながら考えた先に新しいものが出てくる瞬間が気持ちいいんですよね。

『THE TOKIWA』では感情を作品にぶつけてほしい

徳島 一般応募者から次世代のスター漫画家を発掘する番組『THE TOKIWA』では、おふたりが最終オーディションの審査員をされるとのことですが、花沢先生はこの番組の話を聞いたときどう思われましたか?

花沢 正直、最初はちょっと懐疑的でした(笑)。というのも、最近は個人のSNSで自由に作品を発信できるじゃないですか。そんな時代にわざわざスターを発掘する必要があるのかなって。でも、そんな数ある方法のひとつとして、こういう番組があってもいいんじゃないかと思い直して、審査員を引き受けることにしました。

ひとり 誰もがSNSでマンガを発信できるようになると、単純に作品のクオリティだけじゃなくて、プロデュース能力みたいなものも必要になるから大変だと思うんですよね。

花沢 自分にとっては未知の領域です。僕のころは、賞に応募するか出版社に持ち込むかの2通りくらいしかなかったので……。でも、最近はSNSでバズってそのままプロになった漫画家もたくさん活躍してますよね。

ひとり どうすれば作品を多くの人に見てもらえるのか、マーケティングみたいなことを自分でやっていかないと厳しい時代ですよね。それをある程度テレビがやってくれるのが『THE TOKIWA』に参加するひとつのメリットだと思います。

徳島 『THE TOKIWA』の参加者には、どのような作品づくりを期待されていますか?

花沢 物語のおもしろさや絵の上手さはもちろん重要ですが、それ以上に自分の感情を作品にぶつけてほしいと思っています。多少ドロドロした内容になってもいいんじゃないでしょうか。

ひとり 花沢先生のようなプロの漫画家の方と、僕みたいな素人が見ているポイントは違うと思うんです。僕はプロの芸人ですが、セオリーどおりのキレイにまとまった「上手なネタ」を作る芸人よりも、荒削りだけど「それは自分には思いつかなかったわ」っていうネタをつくった芸人のほうに票を入れたくなるんですよね。それはマンガも同じなのかなと思います。

花沢 わかります。キレイ過ぎちゃうと味気ないんですよね。当然、読者があっての商売なので読みやすさは保ちつつ、いかに自分のオリジナリティを出せるかというところがポイントです。

徳島 ひとりさんは番組内で、マンガの原作にも初めて挑戦されたんですよね。手応えはありますか?

ひとり マンガにしやすいかどうかはまったく考えず、かなり好き勝手に書いたので、単純にやってて楽しかったです。マンガにする人は大変だと思いますが……。もし自分で映像化するなら、全然違う脚本になっていたと思いますね(笑)。だからこそ、マンガにする人にも自由に描いてもらいたいと思っています。納得いかないところがあれば、どんどん原作を変えてもらってもいいです。

徳島 花沢先生も原作をご覧になったとのことですが、いかがでしょう?

花沢 会話劇が中心だったので、プロの漫画家の目から見てもマンガにするのがかなり難しい原作だと感じました。僕は原作からマンガを描いたことはないんですが、それでも読んだときにイメージが浮かんだので、相当いい脚本なんじゃないかなと。喜怒哀楽以外の複雑な感情を表現できるかどうか、そのあたりが漫画家の腕の見せどころになると思います。

漫画家」を名乗れば、誰もが漫画家になれる時代

徳島 花沢先生から、漫画家を目指す方へのメッセージはありますか?

花沢 マンガを発表できる場所は増えたので、あとは描くだけです。誰でも描けます。何かを表現したいと思ったらとりあえず紙に描いて、それで漫画家を名乗れば漫画家になれる時代なんです。それくらい自由な発想でやってみれば、とんでもない才能が出てくるかもしれません。少人数かつ低予算で、手っ取り早く自分の頭の中を表現できるのがマンガの魅力ですね。

ひとり 映画でロケットを飛ばすってなったら、とんでもない金額になりますからね。CGとかでもびっくりするくらいお金がかかるんだから! それを紙とペンだけでできるマンガはすごいですよね。

徳島 ひとりさんからもメッセージをいただけますか?

ひとり 僕が、漫画家を目指す人にメッセージを送るんですか? 絶対いらないでしょ(笑)。

ひとつ言えるとすれば、これはマンガに限った話じゃありませんが、やり切るってことが大事です。マンガにしても小説にしても、挫折した人っていっぱいいると思うんですけど、最後までやり切らなかったっていうのが一番大きい要因ですよね。

小説を2、30ページ書いてやめた人って山ほどいると思うんです。でも、とりあえず最後までやり切れば、評価の有無に関わらず、必ず自分の糧になるはずです。やる気と時間さえあれば、お金はかからないのでノーリスクですからね。こんなにいい趣味はほかにないと思いますよ。それで手応えを感じれば、ぜひプロを目指してがんばってみてください!

天才から苦労人まで、『THE TOKIWA』出場者11名のラインナップはこちらから!
また劇団ひとりさんが『THE TOKIWA』オーディション用に書き下ろした原作3話分をQJWebにて公開中。第1話はこちら

『THE TOKIWA』番組情報

THE TOKIWA

2022年10月30日(日)から『シューイチ』(毎週日曜午前7時30分~)内のコーナーとして毎週放送(全8回)。『まんが王国』サイト内では『THE TOKIWA』第2弾の特設ページも公開中。

『THE TOKIWA』第2弾特設ページ

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  • THE TOKIWA

    『THE TOKIWA』

    放送日時:10月30日(日)から『シューイチ』内のコーナーとして毎週展開予定(全8回予定)
    『シューイチ』は毎週日曜午前7時30分~放送中!

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上垣内舜介

(かみがいと・しゅんすけ)ライター・編集など。1994年生まれ、和歌山県出身。音楽、漫画、映画、お笑いなどカルチャー全般が好き。雑誌やWEB媒体を中心に執筆を行う。

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