のんが引き出した、大女優・三田佳子の本気の芝居。表現者・のんの真髄は、相手に全力を出させる力にあり

2022.10.30


のんが女優たちの本気を引き出した『天間荘の三姉妹』

思うに、のんという表現者のすごさは、ここにあるのではないか。

凄まじい演技で圧倒するのではなく、相手の懐に忍び込んで、本気にさせる。かわいがらせるのではなく、フィフティフィフティの存在になる。威嚇しない度胸。力こぶが見当たらない威風堂々。すがすがしい全力。

それらを、相手によって使い分ける。相手になじむように。相手と自分がなめらかに乳化するように。そうして、相手が本気を出しやすい空気を醸成するのだ。

映画『天間荘の三姉妹』予告②60秒

『天間荘の三姉妹』は一種の女優映画であり、のんと女優たちの総当たり戦でもある。

結果、いかにのんが引き出しの豊富な役者なのかが、よーくわかる。しっかり者の長女・大島優子と相対したとき。のほほんとしている次女・門脇麦と触れ合ったとき。酔っぱらいの母・寺島しのぶと対峙したとき。この世界を司る厳格な柴咲コウと向き合ったとき。その都度、のんは異なるリアクションで、相手との芝居時間を溶かし合わせる。

(左から)門脇麦、大島優子、柴咲コウ
(左から)門脇麦、大島優子、柴咲コウ

あるときは、チーズフォンデュのように。あるときは、チョコレートフォンデュのように。あるときは、アヒージョのように。あるときは、すき焼きのように。
無限の、取りとめのなさ。

芝居の鍋奉行、のん。

のんのすごさは、彼女が彼女であることで、相手が芝居しやすくなること。相手は、自分の持ち味を発揮しやすくなるのだ。

『天間荘の三姉妹』は、言ってみれば、のん鍋の食べ放題映画である。のんも素晴らしいが、女優たちも素晴らしいと実感できる、ピースフルな仕上がり。のんは出汁、女優たちは食材。私たちは、食べつづける。

贅沢極まりない。

2022年、八面六臂の大活躍を見せたのん

2022年ののんは、八面六臂の大活躍であった。

ついに、監督として銀幕デビューを飾った『Ribbon』では、なんとコロナ禍そのものにリボンをかけラッピングするというアーティスティックなメッセージを、あくまでも平常心で、日常の物語として提示した。主演女優としても、共演相手との間に派生する沈黙こそを大切に扱い、そこに世界の真実を宿らせるような、手厚いアプローチを送り届けた。YouTube監督作『おちをつけなんせ』で模索した会話劇の可能性も、鮮やかに昇華している。

【映画「Ribbon」】劇場予告篇120秒

男子を演じた『さかなのこ』では、学生服がお似合いながらも男子でも女子でもなく、ただ、のんという性がそこにあるのだ、とため息をつかせるような、呆気ない普遍をローリングさせていた。ここでは、演じるという行為にまとわりつきがちな劇性という名のアクをとことん除去した丁寧な仕事が光った。あえてお魚な比喩を用いるならば、鯛の昆布〆を思わせる人物造形であった。

【のん&さかなクン 特別コメント付き 予告編】映画『さかなのこ』

のんは、誰にも似ていないが、誰とでも親和性を育むことのできる、突然変異体だ。ひょっとしたら、動物かもしれないし、宇宙人かもしれないし、ゆるキャラかもしれないが、まごうことなき映像芝居の権化である。

我が国に生存していることを誇りに思うし、今さらだが、この存在は特別天然記念物に指定すべきである。

その最新の成果が山盛りで大盤振る舞いされている映画『天間荘の三姉妹』。観れば、あなたも、高倉健や三田佳子になれるゾ。

映画『天間荘の三姉妹』より
映画『天間荘の三姉妹』より

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  • 映画『天間荘の三姉妹』 (c)2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

    『天間荘の三姉妹』

    2022年10月28日(金)全国公開
    原作:髙橋ツトム『天間荘の三姉妹-スカイハイー』(集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL 刊)
    監督:北村龍平
    脚本:嶋田うれ葉
    プロデューサー:真木太郎(『この世界の片隅に』)
    出演:のん、門脇麦、大島優子、高良健吾、山谷花純、萩原利久、平山浩行、柳葉敏郎、中村雅俊(友情出演)、三田佳子(特別出演)、永瀬正敏(友情出演)、寺島しのぶ、柴咲コウ
    (c)2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

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相田冬二

(あいだ・とうじ)ライター、ノベライザー、映画批評家。2020年4月30日、Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』をスタート。国内の稀有な演じ手を毎回ひとりずつ取り上げ、縦横無尽に語っている。ジャズ的な即興による言葉のセッションは6時間以上に及ぶことも。2020年10月、著作『舞台上..

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