お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、本日は晴天なり。
10月になると各所でハロウィンイベントが開催されるが、彼女が勤務していたキャバクラでもキャバ嬢がコスプレをするイベントが毎年開催されていたという。さらにキャバクラではハロウィンだけでなく、さまざまな恒例イベントが存在するそうだ。今回はそんなキャバクラでのイベントについて、本日は晴天なりが体験した悲劇と共に振り返る。
“誰得?”なコスプレイベント
キャバクラでは季節ごとのイベントを必ず行う。どこのキャバクラに勤めているときも季節のイベントは開催された。キャバ嬢たちは「今日はいつもと違う格好だから見に来てね!」と、お客様に声をかけやすくなる。イベントをやることで来店を促す口実になるのだ。
季節のイベントといえばハロウィンだ。しかし、私が勤めていた店ではハロウィンのコスプレ需要が驚くほどなかった。50代が若手に分類されるような年齢の客層。そもそもそういうのが好きじゃない年代の人が来ているのだ。
ハロウィンのイベント期間だと知らずに来店して「なんでコスプレしてんだよ! 俺はチャイナドレスが好きなんだよ! チャイナドレスを見に来てるんだよ!」と文句を言っているお客様も毎年いた。
そもそも、この店の制服であるチャイナドレスもコスプレといえばコスプレ。年に1回しか使わないコスプレ衣装をわざわざ自腹で購入し、そこまで文句を言われたら“誰得?”の悲しいイベントである。
私は毎年、その年に使わなくなった……いや、ウケなくて封印したお笑いの衣装を店のハロウィンに回していた。ミニスカポリスでフリップネタをやった年はミニスカポリスになり、筋肉メイド喫茶ネタをやった年はメイド服を着た。インスタに載せているのでよかったらいいねしてほしい。
女芸人なら、一度は女子学生ネタをやったことがある人間も多いと思う。もちろんセーラー服も数多のネタで活躍してきたので、当たり前のように店で使用した。ほかにも、ミュージカルの『キャッツ』のようなヒョウ柄全身タイツや、手作りの女ターザン衣装(これもヒョウ柄)もあったが、さすがにそれはやめておいた。ネタで使ったものが、キャバクラで使えるかどうかはまた別の話だ。
そう考えると、ミニスカポリスネタをやったときなんかは「この衣装はキャバクラのハロウィンで使えるかも!」と、潜在的にキャバクラ主体で考えていたのかもしれない。
キャバクラなのでセクシー系のコスプレが求められていたが、中には着ぐるみのコスプレをするキャバ嬢や、ウィッグまで用意して本気アニメコスをするキャバ嬢もいた。
店内がコスプレだらけだと、会話には困らなかった。自分が着てるコスプレの説明や余談。まわりのキャバ嬢のコスプレに関しての話題。だいたいそんな話をしていたら次の子にバトンタッチする時間になっている。
長く接客する場合もそこから派生して、ハロウィン恒例の渋谷スクランブル交差点の話題「こんなコスプレ見かけました」「定点カメラでずっと眺めてました」。そこからまた派生して「日本っていつからこんなハロウィンが流行り出したんですかね~?」「15年前は六本木で外国人の方しかコスプレしてなかったのに~」。そこからまたまた派生して「ってか、バレンタインって子供のころからありました? チョコもらいました?」「私、バレンタインに元カレと待ち合わせしてて~」と、別のイベントの話題へ。ハロウィンがあるだけで会話が無限に広がっていく。
お客様が求めているかどうかは別として、毎回天気の話をするよりはいいと個人的には思っている。
ハロウィンと同じ理由でサンタコスも需要はなかったが、なぜか夏の浴衣姿は毎年なかなかの反応だった。何度も言うが、50代が若手に分類されるような年齢の客層なのだから、そういうのが好きなのだろう。
浴衣は無料貸し出し。500円で着つけもしてくれた。着用しなくても特に怒られはしないが、イベントに意欲を見せたほうがオーナーや店長への心証がいいので、積極的に着用した。指名のお客様がろくにいなかった私は、季節ごとのイベントに意欲的だという一点で、かなりポイントを稼いでいたと思う。
店に入って初めて浴衣イベントに参加した際は、浴衣はただ羽織って帯で止めるだけの柔道着のようなものと捉えていたので500円をケチって自分で着つけをした。しかし、仕上がりを見たお姉様や着つけの方に軽く怒られ、結局、着つけをやってもらった。当然500円は給料から天引き。異論はない。
なのに、その日はたまたま店が暇で、浴衣を着ているにもかかわらず一度も接客しないまま業務終了。もの悲しいというか、なんだがめちゃくちゃ恥ずかしい気持ちになった。1時間くらい早めに出勤して500円払って浴衣を着せてもらい、帯もかわいく結んでもらったのに、誰も接客しないで帰る……。己を慰めるかのように、せめてもの想いで写真を撮りインスタに上げた。こちらもぜひ、いいねしてほしい。
コスプレだけじゃない恒例イベント
12月はクリスマスと年末年始があるため、毎年、最大規模の名物イベントが開催される。
うちの店は特にサラリーマンのお客様が多かったせいか、忘年会の2~5次会ラッシュでとんでもない忙しさになる。毎年、店内はギュウギュウに埋まり、ひとつのソファーに山手線の帰宅ラッシュか?ってくらいギチギチに座る。入店待ちのお客様が外で並ぶほど。
そこで開催されるのが、天井一面に500個ほど風船だらけにする、通称「風船イベント」。ハロウィンや夏祭りイベントはだいたい1週間くらいの開催期間なのだが、このイベントは1か月半くらいの長期開催。お客様に1年間の感謝を込めて行われるものであり、1回1000円でくじが入った風船を割ることができるというシンプルなイベントだ。
これは毎年、意外と盛り上がり、どれどれ1個くらい割ってみようかなという興味本位のお客様もいれば、仲間内の運だめし的な感じで誰が一番いい景品を当てられるかを勝負するお客様もいた。
景品の内容もちゃんと豪華だった。1等はアップルウォッチや折りたたみ自転車、2等はダイソンの掃除機、空気清浄機、高級ボトル、3等は電子タバコ、ドライブレコーダーや鰻屋のお食事券など。それ以降も徐々にランクは下がるがそれなりにいいものばかりで、一番ハズレの商品でもおつまみサービス券や1ドリンク券と1000円という値段相応のものであった。
イベント開始時は天井一面が風船で埋め尽くされ、なんとも幻想的な店内になるのだが、クリスマスを過ぎ、年末を過ぎ、三が日の休みを経て新年になると、割られた風船の残骸としぼんできた風船たちで廃墟のようになっていた。年内に風船が完売するのがベストだが、毎年なかなか終わらない。しかも、目に留まりやすい派手な色の風船は先に割られてしまい、色が地味な風船ばかり残るので、廃墟感に拍車がかかっていた。
指名のキャバ嬢が「欲しい景品がある!」と言ってチャレンジを促すパターンもある。何個も何個も風船を割らせ、お目当てのものが出たらキャバ嬢がもらっていく。お客さんはそのために風船を割っているのだから合意の上なのだが、延長やボトルを入れてもらうわけではなく、間接的にお会計の総額を上げにいく姿がなんとも勇ましかった。
ほかの席で風船を割る音が聞こえてくると、「風船やってみます?」と自分も営業しやすくなった。店の天井中に風船があるため、あちこち動き回って風船を割りに行ったり、たびたび鳴る大きな音にお客様もキャバ嬢もびっくりしたとキャッキャ言い合ったりと、店中がいつもより明るくなった。
女の子に風船を選ばせるお客様も少なくない。「これで来年の運勢決まるからね」と、1000円で勝手に人の運命を決め始めるお客様もいた。くじ運の悪い私はハズレを引きまくっては、両手を上げ声高に「当たりです!!」と叫び「どこがだよ!」とツッコまれていた。中には、「だからダメなんだよ」とか「(芸人として)来年も売れないね」と言ってくる人もいたが、この罵声が店の売り上げにつながるんだ……!と考え辛抱した。
ある年の年末、陽キャ社長風のお客様が「よ~し! 残ってる風船、全部割るぞ!」と意気込んだことがあった。正確には記憶していないが、だぶん100個くらいは残っていたと思う。別の席のお客様がすぐ隣のキャバ嬢とろくに会話できないくらいパンパンと、風船を割る音が延々と響いていた。
イベントを開催する真意とは
イベントをやることでその期間中の売り上げが上がっているのかは定かではない。わりとちゃんとした豪華景品を用意しているし、風船代もバカにならないはずだ。
しかし、最初に書いたとおり、キャバ嬢たちはお客様に声をかけやすくなる。普段あまり足を運んでくれないお客様や、最近あまり連絡を取っていないお客様にも「お久しぶりです!」と連絡を再開するチャンスにもなる。
私は久しぶりのお客様に連絡をする行為を「掘り起こし」と呼んでいた。LINEのやりとりリストの中から、スタンプで終わらせた何カ月も前の埋もれた会話を掘り起こすからだ。
イベントは「店に来てほしい」と直接言われることを嫌がるめんどくさいお客様にも効果抜群。
以下のようなパターンがある。
「コスプレしたから見てほしいな」
“来てほしい”ではなく“見てほしい”と伝えることが重要だ。自分がカモにされているかもしれない、色恋営業されているかもしれないと不安に感じているお客様の気持ちを少しでも和らげつつ誘うことができる。少し考えれば、全然直球なお誘いだと気がつくが、恋する脳は都合よく解釈してくれる。
「せっかくコスプレしたのに暇だよ~」
暇じゃなくてもとにかく片っ端から暇だよ~と伝える。いざお客様が来て「なんだ。忙しそうじゃん」と言われても、「たった今、急に混み始めたの! 〇〇さんが福の神なのかも!」とでも言えば次回から混んでるときは必ず「俺って福の神だからさ」と上機嫌のドヤ顔をかましてくるようになる。
「コスプレ姿恥ずかしくてあんまり人に見られたくないよ~」
これが個人的には一番秀逸な誘い方だと思う。かくまってほしい、助けに来てほしいという誘い方である。頼られると弱い男性たちはすぐに駆けつけてくれる。お客様は王子様だ。
この文章は忘年会のシーズンに「忙しくてお酒たくさん飲まされちゃいそうでピンチだよ~」と応用編としても使える。(むしろこっちが主流)
私の数少ないお客様は上記のどのパターンで試しても「写真送ってよ」と無賃でコスプレを堪能しようとする輩ばかりだったが、もしイベント開催期間中に足を運べなくても「この前連絡くれたから、久しぶりに顔出してみようかな」と思ってもらえたらそれで万々歳だ。
別のコスプレをすることによって次回はチャイナ姿に会いたくなる。風船イベントで高級ボトルが当たれば、また店に足を運ぶ。
そう考えると季節のイベントは目先の売り上げではなく、少し未来に投資しているのかもしれない。
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