なぜワンカット映画は異次元の興奮を生み出すのか?話題作から旧作まで徹底分析

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2020.2.13

映画『1917 命をかけた伝令』_メイン

文=高橋諭治 編集=森田真規
トップ画像=『1917 命をかけた伝令』


単館上映から大ブームを巻き起こした『カメラを止めるな!』の37分のワンカット映像を観て、そのスリリングかつアクロバティックな映像体験に圧倒された方も多いはず。さらに1本の映画全体を通してカットを割らないワンカット映画、というものが存在しています。

ここでは先のアカデミー賞で3部門を受賞した2020年2月14日公開の話題作『1917 命をかけた伝令』から、60分の3Dワンカット映像を体験できるチャイナノワール、さらに過去のワンカット映画の傑作までピックアップ! 遊園地のアトラクションに乗っているような、ほかにはない映画体験が待ち受けています。

編集という魔法の手段を放棄!?異次元の興奮と陶酔を創出する“ワンカット映画”の魅惑

ワンカットの難しさを逆手に取ったクレバーな娯楽作『カメラを止めるな!』

「ゾンビもので、生中継で、ワンカット……いやいやいやいや、そんな無茶な企画、あるわけないでしょ!」

これは社会現象的な大ヒットが記憶に新しい『カメラを止めるな!』(2017年)で、主人公の映像クリエイター・日暮がテレビ局のプロデューサーから「One Cut of the Dead」の企画を持ちかけられたときのセリフ。日暮が滑稽なくらいうろたえるのも無理はない。“ゾンビもの”と“生中継”は、がんばればなんとかなる。しかし3つめの条件“ワンカット”は極めて困難で、あまりにリスクが大きい。おそらく日頃ギリギリの低予算とスケジュールのもと、思い描いた理想のショットなど撮ることもできず、映画の神が授けた“編集”という技法に頼り切って作品を仕上げてきたに違いない日暮にとって、ワンカットのゾンビ・ドラマという企画はそれ自体がホラーのようなものだ。

もしも撮影中に想定外の何かがフレーム内に映り込んだり、俳優が演技をトチったりしても、あとで編集すればなんとかなる。切り返しやカットバック、クローズアップやフラッシュバックの挿入などの巧みな編集テクを使えば、あらゆるドラマチックな効果を生み出すこともできる。これらをすべて放棄し、たったひとつのショット一発で全編を作り上げるワンカット映画はとてつもなく高いハードルだ。

『カメラを止めるな !』予告編

もちろん、そのへんの街角で適当にカメラを回しつづければ、誰でも“ワンカット動画”を撮ることは可能だが、商業映画となると観客に退屈や欲求不満を感じさせてはならない。ワンカットで撮ることを前提にして練りに練った脚本、ステディカムなどの機材や撮影可能なロケーションなどを確保した上で、スタッフ&キャストは普段以上に入念なリハーサルを重ねる必要がある。そもそも映画撮影には、現場における想定外のアクシデントが付きものだ。その度重なる困難を情熱と根性、とっさの機転、偶然の幸運で乗り越えていく人々の奮闘劇『カメラを止めるな!』は、ワンカット映画の難しさを逆手に取り、笑いと感動に転化させた実にクレバーな娯楽作であった。


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