深夜ラジオのサブスク『オールナイトニッポンJAM』が革新的な理由とは?歴史の転換点になり得る可能性

2022.8.26


「過去の発言・企画をどう捉えるか?」問題

音楽に加えて問題になるのが、「過去の発言・企画をどう捉えるか?」という点。かつてANNのパーソナリティだった伊集院光が『深夜の馬鹿力』(TBSラジオ)で指摘していたのも、まさにこの部分だ。過去の発言や企画が今の基準で取り上げられて問題になったとき、果たして誰が責任を取るのか。とても難しい命題だ。

勝手ながらやっていこうと思っているのは、「これはあくまでもその時代、その瞬間だからこそ生まれたことで、今とは関係ない」というスタンスをリスナーとしてしっかり提示していくこと。たとえ、揚げ足を取るようなネットニュース記事が出てきても、リスナーが毅然とした態度を取ることが将来的な環境作りにつながるのではないだろうか。あくまで有料で、なおかつ理解ある人が聴くコンテンツだから、こたつ記事ライターがそこから揚げ足を取るのはハードルが高いのではないかと同業者としては考えている。

ただ、『ANN JAM』の企画が発表された際には、当然のように80年代、90年代のANNを配信してほしいという声が巻き起こったが、個人的には無理に触れなくてもいいのではないかと思う。

手元に90年代にお笑い芸人が担当しが番組のネタコーナー本があるが、改めて読んでみると、タレントや有名人の身体的特徴を揶揄するネタ、スキャンダルを過剰なほどイジるネタが多数見られる。当時はそれを聴いて腹がよじれるほど爆笑していたが、今の感覚だと正直引いてしまったのが素直な感想だ。

今につづく深夜の長寿番組の中にも、「あの当時はおもしろかったけど、今だったら問題になるなあ」という表現はかなり多い。過激な企画であれば「当時はOKだった」で聴き流せるかもしれないが、発言は「当時はOKだった」ですべて許容するのは難しい。だから、2000年以降の番組を中心にしているのは妥当な線引きだと思う。

とはいえ、「それでも古い音源が聴きたい!」という思いがあるのもまた事実。難しい舵取りが求められるが、「傑作選」「神回」などに限定して配信するなんて手段に期待したい。

「過去の音源が放送局にどこまで保管されているのか?」という問題もあるが、前述した『野沢那智と白石冬美のパックインミュージック』のCDはリスナーが保管していたテープを有志がかき集めてTBSラジオに寄贈し、その音源がもとになって制作されている。『ANN JAM』が活性化していけば、「古いANNの音源収集・保存」という側面すら出てくるかもしれない。

深夜ラジオの歴史を語る上で欠かせない転換点になり得る『ANN JAM』

いろいろ掘り下げてみると難しい問題はいくつもあるが、大事なのは「それでも進めていくこと」。過去を遡ることに限界はあるが、このサービスが着実につづいていけば、今後放送されるANNはしっかりとストックされ、未来に残されていくことになる。10年後、20年後には「過去放送も含めて楽しむのがANN」という考え方が常識になっているかもしれない。

今のANNは縦や横の結びつきが強くなっているが、そこに「過去の歴史」との関係性まで加わると、リスナーも新しい楽しみ方もできるようになる。『佐久間宣行のANN0』を紐解いていくと、その始まりは『アルコ&ピースのANN0』乱入に行き着くことは以前コラムに書いた。現状、『アルコ&ピースのANN』シリーズは配信されていないが、似たような振り返り方はサービス内で簡単にできるようになるだろう。「あの些細なトークが未来につながっていた」「実はあのときがラジオ初出演だった」「売れる前にあの番組に出ていた」なんて出来事にもすぐにアクセスできる。

これは勝手な願望込みの妄想だが、「10年前の番組がリバイバルブームに」「当時は1年で終わってしまったが、『ANN JAM』で人気が爆発して地上波で復活」なんて現象だって起きるかもしれない。

また、当事者には「そんなところに注目しないでくれ」と言われるかもしれないが、「あの構成作家さんがハガキ職人としてネタコーナーに投稿していた」とか、「この回があのディレクターさんが初めてANNの現場についたのか」とか、スタッフサイドの歴史を掘り下げるのもマニアックな楽しみ方のひとつ。9月には55周年を記念した公式本『深解釈オールナイトニッポン ~10人の放送作家から読み解くラジオの今~』(扶桑社)が発売されるが、それを読みながら話題に挙がった過去の音源を聴くのもおもしろいかもしれない。

『深解釈オールナイトニッポン ~10人の放送作家から読み解くラジオの今』
『深解釈オールナイトニッポン ~10人の放送作家から読み解くラジオの今~』扶桑社/2022年9月9日発売

現在のANNは盛況だが、ラジオ界全体を考えると、広告費や聴取率はよく言っても現状維持。コロナ禍の影響を受け、厳しい状態はなおもつづいている。そんななかで、言わば「リスナーがスポンサー」というかたちで成果が出れば、ラジオ界の未来につながる。収益がパーソナリティやスタッフに還元されるようになれば、リスナーとしてもうれしい。

『ANN JAM』が成功すれば、ほかの時間帯、ほかの放送局にも広がり、ラジオのアーカイブをサブスクで配信するのが当たり前の時代がやってくるかもしれない。そうなれば、我々ラジオリスナーは一生暇潰しに困らない。これで老後も安泰だと私は勝手に考えている。

そのためにも大事なのは『ANN JAM』の継続だ。「このサブスクが広がれば、『芸人ラジオ ANN JAM Ver.』なんて本も作れるのでは……」という個人的な打算がないわけではないが、いちリスナーとしては、有料会員数が着実に増え、このサービスが未来永劫つづいてほしいと切に願わずにはいられない。

そのぐらい『ANN JAM』は深夜ラジオの歴史を語る上で欠かせない転換点になり得る存在だし、また歴史の分かれ目にもなるだろう。“深夜のラジオっ子”としては、一つひとつの過去音源を精査しながらアップしているスタッフの方々に敬意を表しつつ、今後も『ANN JAM』に注目していきたい。

『ANN JAM』のロゴ
『ANN JAM』のロゴ

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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)、『いつものラジオ リスナーに聞いた16の..

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