さまざまな施策の先にあった『ANN JAM』
最近こそANNもポッドキャストで配信されるようになったが、数年前までは深夜ラジオの公式なアーカイブは皆無に等しい状況で、それゆえに、YouTubeやニコニコ動画などにある違法アップロードされた音源が結果的にアーカイブを担うという歪な状況になっていた。若いリスナーの話を聞いていると、この違法音源をきっかけにラジオを知った層は一定数いるが、あとあとになって「違法なものを聴いてしまっていたのか……」と罪悪感に駆られる人も少なからずいるようだ。
かつての深夜ラジオは若者向けで、リスナーもパーソナリティも入れ代わるサイクルは速かった。しかし、今やリスナー層は幅広く、“卒業”せずに何年も聴きつづけるスタイルが一般的。同じパーソナリティが長期間番組を持ちつづける傾向も強まっている。
歴年の中年リスナーは昔を懐かしみたくなるし、新規リスナーは自分が聴いている番組の過去に触れたいと思うのは必然。ネット上には過去の情報があふれているぶん、よけいに飢餓感に駆られるのは仕方ない。でも、その思いに応えてくれるのは違法アップロードだけ。放送局やパーソナリティの権利侵害になるからなるべく触れたくないが、どうしても聴きたい……。そんな堂々巡りに頭を悩ませたリスナーも多いはずだ。
ニッポン放送側も一時期、ANN0のダイジェスト版をYouTubeに公式でアップするなど対策を取ってきたが、簡単に状況は変わらない。問題の違法アップロードを正式な手つづきを経て消去しても無限に増えていき、いたちごっこになってしまう。放送局サイドにも深い苦悩があったのは想像に難くない。それでも『三四郎のANN』のファンクラブ設立や現行ANNのポッドキャスト配信など、リスナーとしてありがたい施策がつづき、さらなる大きな一歩を踏み出したのが『ANN JAM』なのだ。
“音源分離”が可能にした耳心地のよさ
配信された番組を聴くにあたって気になるのが、「実際の音源をどこまでそのまま配信できるのか?」という点。『ANN JAM』に限らず、音楽が関わるコンテンツ配信は権利面で壁にぶつかる。他ジャンルを例に出せば、アニメ『機動戦士Zガンダム』の配信版は一時期オープニング、エンディングテーマが流せなかった。プロレスの映像配信では、権利がクリアできなかった入場テーマ曲は無音や差し替えで対応されている。
当然、それは『ANN JAM』にも当てはまるのだが、リスナーとしてうれしいのは「ビタースイートサンバ」の許諾が得られている点。ANNの代名詞である曲はオープニング、エンディングのいずれか一方で必ず使用されているだけに、耳になじんだあのメロディが流れるだけでANNらしさがグッと高まる。またその時代のANN全体のジングルも使用されており、懐かしさも感じられる仕様となっている。それ以外で権利をクリアできない曲は差し替えなどで対応されているが、“音源分離”という技術のおかげで、想像していた以上にトークが聴きやすい自然な音声になっているのがうれしいところ。
『くりぃむしちゅーのANN』を例に出すと、人気コーナー「ツッコミ道場!たとえてガッテン!」やリスナーが登場するジングル、エンディングトークはすべて別の曲に差し替わった状態で配信されている。技術の進歩も『ANN JAM』が実現した要因だろう。ニッポン放送に保存されたマスター音源を使用しているため、radiko誕生以前の番組……それこそ『くりぃむしちゅーのANN』は当時の放送よりもクリアな音声で聴くことができる。
当初は有田哲平がリスナーのリクエストに応えて、福山雅治よろしく生歌を披露する「有田哲平の魂のリクエスト」はカットされていたが、最近の更新分はカラオケなしのアカペラとして配信されている。
『Creepy NutsのANN』シリーズには、エド・シーランの代表曲「Shape of You」のリズムに合わせて歌詞を考える人気コーナー「大江戸シーラン」があるが、『ANN JAM』では「Shape of You」ではなく、同様のリズムの曲に差し替えるかたちで配信されていた。曲や歌を中心にしたコーナーの配信は今後もケース・バイ・ケースだと考えられるが、可能な限り配信したいという制作側の心意気には拍手を送りたい。
深夜ラジオにとっては、番組内で流される曲も大事な要素。パーソナリティによっては、流れる曲の構成なども含めてひとつの番組だと考えている場合もある。過去から現在までに生歌の企画も多い。そこにこだわりを持って、「完璧な状態にできないならば配信しない」と考える番組が出てきても、それは尊重されるべきだと思う。
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