Spotify『聴漫才』全22組分を聴いて紹介したい9本
Spotifyでまたとんでもないコンテンツがスタートしてしまった。その名も『聴漫才(ちょうまんざい)』。
アインシュタイン、アキナ、囲碁将棋、金属バット、コマンダンテ、霜降り明星、ジャルジャル、すゑひろがりず、ダイアン、滝音、チュートリアル、Dr.ハインリッヒ、トレンディエンジェル、とろサーモン、ニッポンの社長、NON STYLE、ミキ、見取り図、ミルクボーイ、ゆにばーす、ロングコートダディ、笑い飯という総勢22組の吉本興業所属芸人たちがそれぞれ約30分の「漫才一発撮り」を配信するというもの。まさにお笑いTHE FIRST TAKE。
このコンテンツの最も恐るべきところは、冒頭で出囃子代わりにトニーフランク(元:馬と魚)が歌う聴漫才のテーマ曲が流れる以外には「芸人の声しか聴こえない」という部分。第三者の笑い声などが一切ない異常なまでの臨場感で行われる漫才は、誇張でもなんでもなく「耳元で自分のためだけに漫才をしてくれている」ような気分になる。
また、時間の使い方は芸人ごとにまるで異なり、本ネタをミックスさせたベストアルバムのような構成を惜しげもなくぶつけてくるコンビもいれば、構成ほぼ無視のアドリブ多めで勝負するコンビもいる。この『聴漫才』という前代未聞の材料をどの角度から調理するのか、芸人それぞれの「色」が見えてくるのがとてもおもしろい。
この『聴漫才』は芸人それぞれの「おもしろさ」に対する関わり方の違いが見えてくる革新的な試みだと感じた。そして先日、ようやく全組分を聴き終えることができたので、中でも特に好きだった『聴漫才』をいくつか紹介したい。
『聴漫才』9組ピックアップ
見取り図
『引っ越し』を軸に賞レースや劇場で見る漫才からギアを数段落として、「聴かせる」ことに特化したテンポがとても心地よい。ネタとしてキッチリ構成されたものを感じさせつつも、ラジオのようなフリートーク感もある素晴らしい聴漫才だった。「道頓堀の尿道プラグ物件」の語呂のよさは異常。
ロングコートダディ
『地域の祭り』『旅行』『影追い』現実とファンタジーの境目がわからなくなる意味のわからない話をしているのに頭の中に映像が思い浮かんでしまう堂前透の話術と、ツッコミを超えて本気で堂前の話を楽しみリスナーと意識を共有しているような兎の絶妙な相づちによって、気がついたときにはふたりの世界観の虜になってしまう。
滝音
『趣味の話』からどんどん展開が派生していき「ババァバーバーバー」「低嶺の草」「若若女女」「キモミルフィーユ」「阿吽の呼吸困難」と、どういう生活をしていたら思いつくのかと思うさすけの生み出すベイビーワードと、それに1ミリも負けてない秋定遼太郎のサイコボケが、マシンガンのように降り注ぐテンポのよさが抜群に気持ちいい。最初から最後まで恐ろしいまでにキッチリとネタをやるプロフェッショナルさと、途中「台本にないこと言ってる」と秋定がさすけを詰めるアドリブのくだりでのギャップも最高。
ニッポンの社長
『旅行先で一番おいしかった食べ物』だけで30分やり切る胆力は異常としか言いようがない。ケツの妄想力は一度引きずり込まれると抜け出せないブラックホールのような吸引力がある。
囲碁将棋
『なぞなぞ』『人生のピーク』、そして『M-1グランプリ2018』準決勝で披露し伝説となった『Dragon Ash』を披露。大衆に伝わることを完全に無視した刺さる人間を確実に刺しにいくような漫才は本当にクールでロックだと改めて思った。
金属バット
「クオリティの高さでダサいことしてる」「酔ったときに見るCCB」案の定オープニング曲をイジり倒す期待を裏切らない始まり、ネズミとゴキブリの話を軸にアドリブと本ネタがカオスに入り混じる漫才に脳が溶けそうになった。
とろサーモン
『ヒーローインタビュー』と『朝の番組MC』をミックスさせた漫才を披露。一番の聴きどころは13分あたりからの10秒を超える「無」。自分のイヤホンが故障したのかと思った。笑えるだけでなく、精神がヒリつくような展開力はとろサーモンでしか味わえない快感があった。
霜降り明星
『アンパンマン』を軸に、せいやが尺を度外視したボケを連発し粗品がアドリブ的にツッコんでいくスタイルは、ラジオ『霜降り明星のオールナイトニッポン0(ZERO)』で2時間まるまる「ポケットいっぱいの秘密」を披露した回を思い出した。一番好きなくだりは、敵の攻撃にただひとりシェルターに入って助かり「できるだけ飲み水やメシを独り占めしたい」と発言したジャムおじさんに対し粗品が「逆ゼフ」(『ONE PIECE』のキャラクター)とツッコんだところ。あと本編とは関係ないのだが、Spotifyの自動文字起こし機能での「せいや」が「性や」になっていて爆笑した。
ミルクボーイ
『コーンフレーク』『最中』『アレ』『叔父』と、ミルクボーイグレイテスト・ヒッツを惜しげもなく披露してくれている。キッチリとネタをやりつつ「オトン」のアフタートークを聴けるのはかなりの特別感があった。また、駒場孝が内海崇を最後まで泳がせている理由や、内海がどういうモチベーションで駒場の話を考えてるのかなど、このネタにおけるモチベーションの話も明らかになった貴重な聴漫才だった。
30分という長尺、そして音声のみ。上がり切ったハードルを軽々と超えていく芸人たちのすごさを改めて見せつけられた。ぜひ普段の漫才とは違う新しい感覚を味わってほしい。
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