『愛がなんだ』や『花束みたいな恋をした』に連なる“等身大のラブストーリー”
ここまでに何度か「等身大」という言葉を用いてきた。若い男女の関係を見つめた本作は、ジャンルとしては“恋愛映画”に分類されるものだ。過去と現在とを往還しながら、優実と直哉の出会い、恋の始まり、すれ違い、衝突、そして恋の終わりまでが赤裸々に綴られている。まさに“等身大のラブストーリー”だ。
この“等身大のラブストーリー”を謳った映画作品は、世界中にごまんとある。もちろん、生活する国や地域によって習慣は異なり、習慣が異なれば「等身大」の意味も変わってくるであろうことを念のために付記しておく。そして、これを日本に限定してみると、ここ数年、この系譜に連なる作品が多くの観客に支持されていたことに思い当たる。
2019年には、盲目的な片思いの沼にハマる女性の姿を描いた『愛がなんだ』があり、2021年には『花束みたいな恋をした』が「あるある」な男女の姿を描いた作品として広く受け入れられた。『愛がなんだ』のヒロイン・テルコ(岸井ゆきの)と同じような経験をしたことのある方は、激しく共感しているようだったし、数々の趣味の一致をきっかけに運命的な恋に落ちる麦(菅田将暉)と絹(有村架純)の日々に迫った『花束みたいな恋をした』は、カルチャー好きにはあまりにも“わかってしまう”映画だったと思う。
特に後者は、“理想と現実のギャップに翻弄される若者”の物語でもあり、演劇青年の永田(山﨑賢人)と彼を支える沙希(松岡茉優)の関係に肉薄した『劇場』(2020年)なども、毛色は違うが“等身大のラブストーリー”といえるものだっただろう。
それにこの2022年には『ちょっと思い出しただけ』もあり、ケガでダンスの道を諦めた照生(池松壮亮)とタクシー運転手の葉(伊藤沙莉)の関係は「等身大」で、別れてしまった男女がかつての楽しかった時間を回想するスタイルは、『花束みたいな恋をした』と重なるものでもあった。
これこそが真の“等身大のラブストーリー”!?
前述した一連の作品に触れるたび、「これは自分のことを描いている」「私の映画だ……」などと思ってきたのだが、『わたし達はおとな』に出会った今、これこそが真の“等身大のラブストーリー”なのではないかと感じている。
先述した“真のリアリズム”や“理想と現実のギャップ”、ひと組のカップル(とその周辺の者たち)をまるでドキュメンタリーのように凝視し、あまりにも赤裸々に映し出している点ももちろんだが、それだけではない。最も注目すべき点は、優実と直哉のディスコミュニケーションにある。
このふたりは先に挙げたどのカップルたちよりも、一見、まっすぐに向き合っているかのように見え、真摯に言葉を交わしているかに思える。だが、相手への気遣いによって飲み込んだ本音や、うわべだけのその場しのぎの振る舞いは、やがてコミュニケーションを損なわせてしまうものだ。優実と直哉はこれを積み重ねてしまうのである。
このカップルはよくしゃべる。しかし、相手に配慮しながら何かを伝えるためには、たくさんの言葉が必要で、時には遠回りもしなければならない。そしてこれを受け取る側は、たくさんの言葉が遠回りをして自分のもとへと届くまでにこぼれ落ちた、相手の“心の声”に耳を傾けるべきだろう。「思いやり」の“エッセンス”ではなく、その“ポーズ”ばかりを重視してディスコミュニケーションに陥ってしまうのは、とてもイマドキなのではないだろうか。
幸福な結果が待っていようと、そうでなかろうと、私たちの平凡な日常はエンタメ映画のようにおもしろおかしいものではなく、概して残酷なものであることを、おそらく誰もが身をもって知っている。それを繰り返すうちに、私たちは「大人」になっていく“はず”なのだろう。そんな日常の一部を切り取ったかのように恋人同士の関係をリアリスティックに描いた本作こそ、やはり真の“等身大のラブストーリー”なのである。
【関連】映画『はな恋』を観て「〇〇が好きなんじゃなくて〇〇を好きな自分が好きなだけだろ」と、下衆な文脈で言いたくなった(トリプルファイヤー吉田靖直)
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映画『わたし達はおとな』(PG12)
2022年6月10日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開
監督・脚本:加藤拓也
出演:木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ、森田想、桜田通、山崎紘菜、片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太、鈴木勝大、山脇辰哉、上村侑、中山求一郎、諫早幸作、伊藤風喜、鳥谷宏之、平原テツ
配給:ラビットハウス
(c)2022「わたし達はおとな」製作委員会関連リンク
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