『囲碁将棋の情熱スリーポイント』で実現したハガキ職人の“究極の夢”【過剰なラジオ投稿企画3選】
ラジオといえば、パーソナリティの歯に衣着せぬトークが大きな魅力のひとつだが、それに負けないおもしろさを発揮しているのがコーナーである。リスナーから届く投稿によって、しゃべり手だけでは生み出せない化学反応が起こり、番組を予想もつかない方向に連れていってくれる。
常連投稿者は「ハガキ職人」(今ならメール職人)と呼ばれる。『ビートたけしのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)から生まれた言葉だが、当時は「ハガキ作家」という言い方もされていた。「職人」や「作家」という単語からもわかるように、投稿者は番組の重要な部分を担う作り手でもあるのだ。ネタコーナー全開の芸人ラジオはもちろんのこと、一般層向けのワイド番組でも、リスナーからのツッコミや近況報告、人生相談などは大事な構成要素のひとつで、ラジオから切っても切り離せない。
番組と投稿者の不思議な共犯関係によって、ラジオ界では日々さまざまな出来事が発生しているが、時には行き過ぎた珍事につながることもある。『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)などの著者である村上謙三久氏が、そんな過剰な投稿企画を独断と偏見で3つピックアップ。2回目となる今回は、『囲碁将棋の情熱スリーポイント』で実現したハガキ職人の“究極の夢”を紹介する。
“居抜き番組”として始まった『囲碁将棋の情熱スリーポイント』
現行の番組でリスナーとの強い結びつきを感じずにはいられないのが、お笑い芸人特化ラジオアプリ『GERA』で放送している『囲碁将棋の情熱スリーポイント』である。2020年10月スタートで、毎週火曜日更新。半年分はアーカイブが公開されている。方向性はまったく違うが、この番組には『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)と同じ匂いがする。
文田大介と根建太一が長文の“ふつおた”を読みながらフリートークをする……と内容だけ書くと至って普通の番組なのだが、建てつけがおかしい。何せ“居抜き番組”なのである。“ミスターバスケットボール”の異名を持ち、日本代表としても活躍して、現在は指導者になっている佐古賢一がパーソナリティの番組が終わったため、そこに居抜きで担当することになった、というテイなのである。だから『情熱スリーポイント』というタイトルなのだ。
野暮なことなのだが一応説明すると、これはすべて真っ赤な嘘。それでもその設定どおり、番組は初回から前番組を引き継いでいるかたちでスタートし、募集もしていないのにメールも紹介された。そのメールはすべてパーソナリティと作家が書いた自作自演だったことがのちに明かされる。
リスナーと文田&根建が常に語る「佐古目撃情報」
「フリートーク」もこのラジオはなかなかおかしい。芸人ラジオのフリートークといえば、テレビやライブに出演したときの裏話やプライベートの話が中心となるが、この番組において囲碁将棋はほとんどそれに触れない。基本的には雑談で、ただおもしろいことを話しつづけているだけ。
そこで読まれるふつおたも、嘘や妄想まみれなのだけれど、“普通のお便り”のかたちは崩さず、最後も「囲碁将棋のおふたりは○○ですか?」という一般的なラジオ番組に届くメールのような質問形で終わる。ただただ、おもしろさにだけ特化している。
興味深いのは、初回同様いまだにパーソナリティが名前を伏せて自分の番組に投稿しつづけているところ。リスナーからは嘘情報として「佐古目撃情報」を募集しているが、同じテーマで文田と根建も目撃情報を常に語っている。つまり、リスナーと同一線上に並んでおもしろさを比べられる状況に自分たちを置いているのだ。
「自分のメールしか読まれない回が作られる」という希有な特典
長々と番組の説明を書いてしまったが、過剰な投稿企画の紹介はここから。番組初のイベントとなる『囲碁将棋の『情熱スリーポイント対抗試合』一試合目~エースシューターの襲来~』が2021年6月に開催された。内容は囲碁将棋、番組構成作家のふたり、シューターと呼ばれるハガキ職人4人が大喜利で対戦するというもの。パーソナリティ、スタッフ、リスナーが横一線でおもしろさを争うという珍しい形式だった。
優勝したのはラジオネーム「HU」。コミュニケーションが苦手ということで、顔出しなしのリモート参加だったこのシューターが優勝した事実からも、真剣勝負っぷりが伝わってくる。優勝者に与えられたのは賞金でも賞品でもなく、「自分のメールしか読まれない回が作られる」という希有な特典だった。囲碁将棋のふたりは賞金を考えていたようだが、構成作家からこのアイデアが出てきたらしい。
同月に更新された第35回がHU回となった(現在は非公開)。序盤の佐古目撃情報に始まり、ふつおたもすべてHUのもので、最終的に合計8通のメールが約30分間の番組内で紹介された。イベントの特典だということは冒頭では明かされず、ネタ紹介時にはあくまで偶然、HUのメールがつづいているという心憎い演出もされた。
ネタを書く立場からすれば、当然、プレッシャーや不安もあるだろう。だが、それを差し引いても、自分のメールだけでひとつの番組が成立するのはハガキ職人にとって言わば究極の夢。通常の芸人ラジオでは2~3通連続で紹介されるのが限界で、あり得ない事態だ。しかも生放送にあるような短文のリアクションメールは一切含まず、読まれたのはすべて練りに練った長文。
そこからパーソナリティのふたりのトークが生まれていく様は、まさにハガキ職人が誰も味わったことのない至福の時間だったに違いない。リスナーと対等に戦うこの番組らしい共犯関係の結晶がこの回だった。
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次回は、『さよなら絶望放送』で起こった前代未聞の事件を紹介する。
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