さらば青春の光は、すべての「最悪」を逆手に取って「最高」に変える

2022.2.23
さらば青春の光

文=かんそう 編集=鈴木 梢


最近、YouTuberのヒカルがとある中堅芸人に激怒している動画を公開した。それを受けて、数名の芸人たちが「犯人は自分です」と謝罪するコメントを出している。中でも、さらば青春の光がYouTubeで公開した嘘の謝罪動画は大きな話題となり、たった1週間で400万再生を記録。事実ではない謝罪動画がなぜここまでヒットするのか、その背景にはさらば青春の光のふたりが持つ特異性があった。

青年漫画の主人公感

先日『さらば青春の光Official Youtube Channel』で、YouTuberヒカルと中堅芸人の騒動の犯人を、東ブクロに仕立て上げた嘘の謝罪動画をアップされた。たった1週間で400万再生を超えたのを見て、改めてさらば青春の光というコンビの、すべての「最悪」を逆手に取って「最高」に変える力のすごさを感じた。

たとえば東ブクロがスキャンダルを起こしてツイッターを削除したことを受けて始まった「東ブクロが正体を隠してTwitterをして年末までにツイート内容でフォロワーを何人増やせるか」という企画。2021年6月にスタートしてから実に200日もの期間を「仕込み」に使っており、その間けっしてバレることなく匿名アカウントを貫きつづけ、最後には爆発した。

結果としてフォロワー数は目標に至らなかったのだが、その全容がアップされた動画は2本で計150万再生以上を叩き出した。数々の困難に直面し、そのたびに「もうさすがに今回はダメか」と思うのだが、そんなピンチをものともせずチャンス(利益)に変えていくふたりにはどこか「青年漫画の主人公感」すらある。

森田哲矢の異才さ

さらば青春の光を語る上でまず、森田哲矢という男の「異才」に触れなくてはならない。ネタはもちろん、さらば青春の光のすべての手綱を握る、いわば悪魔の策略家。前述した「最悪」を「最高」に変えているのは間違いなくこの男の手腕によるものだ。何気ない日常を切り取り、歪め、誇張し、濃縮する。さらばのネタを観ていると、なぜこんな小さい違和感をここまで広げることができるのかと、本当に同じ人間の目線なのかと震え上がることがある。

2019年の単独ライブ『大三元』で初下ろしされ、先日テレビ番組『お笑い実力刃』(テレビ朝日)でも披露された『終電逃させ屋』はその最たるもので、「駅でケンカを演じて、野次馬に終電を逃させ、タクシーやカラオケ屋を斡旋し、代金の一部を受け取るビジネス」などほかの誰が思いつくだろうか。恐るべきはそのディテール。冷静に考えてみればこんな仕事は成立するはずがないのだが、最終的に見ている人間に「あるかもしれない」と思わせるだけの説得力があった。

東ブクロの奇才さ

そして、森田の作り出す世界を何倍もの深さにするのが、東ブクロという男。そのポテンシャルは『お笑い実力刃』で見取り図・盛山晋太郎に「台本の渡し甲斐がある」と言わしめるほどだが、東ブクロが東ブクロたるゆえんはどんな珍妙で奇天烈なキャラをやろうが「演技に見えない」ということ。「小学生」だろうが「芸術家」だろうが「爆弾魔の父」だろうが、その人間が完全に憑依していると同時に、確かにその中に「東ブクロ」が燦然と輝いている。声のトーン、表情、動き、そのすべてが作り込まれていないのに洗練されており、わかりやすい言葉でいえば、何をしていても「様になっている」のだ。これは、菅田将暉の演技を観ている感覚に近い。

コントだけではない。件の謝罪動画も、ほかではない東ブクロだからこそ、ここまでの大バズリを記録したのだと思う。森田のムチャ振りにすぐさま対応できる柔軟性、してもいないことを一切笑うことなく淡々と謝罪できるメンタリティ、最終的に「チャンネル登録者数100万人以上の方、私たちの動画に出ていただければ、私謝らせていただきます」と追い打ちをかけられるアドリブ力、すべての罪を背負うその姿には東ブクロという芸人のすごさが詰まっていた。もはやこの騒動は東ブクロのために起きた事件だとすら思った。

これに限らず、『さらば青春の光がTaダ、Baカ、Saワギ』(TBSラジオ)で「勝ち抜き!東ブクロの嫁決定戦」で女性リスナーを集めた結果、偶然「ガチセフレ」が召喚されるなど、東ブクロには計算ではけっして起こり得ない天が、いや地獄の王が味方しているとしか思えないハプニングがたびたび起こる。まさに「持ってる」としか言いようがない。こういう男を「奇才」と呼ぶのだろう。

金とバズの匂いがする場所に、誰よりも早く飛びつくフットワークの軽さと、緻密な計画、それを最後までやりきる胆力、今の私にはさらば青春の光、いやザ・森東が「ルパン一味」にしか見えない。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。