これ以上、何を望むことがあろうか――『男と女』53年ぶりの続篇に寄せて

2020.2.5

1966年、クロード・ルルーシュ監督による世界中を席巻した恋愛映画の金字塔『男と女』。そのエピローグともいえる続篇『男と女 人生最良の日々』が、2020年1月31日に日本で封切られた。
アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンが再び同じ役柄を演じ、53年前の記憶を散りばめながら、ふたりの“現在”が描かれる。そこに最高の映像と音楽が絡み合う――。「いったいこれ以上、何を望む」と思わずにはいられない、新しい名作が誕生した。

※本記事は、2019年12月25日に発売された『クイック・ジャパン』vol.147掲載のコラムを転載したものです。


長年の時を経て再会するふたり

でははじめに、音楽のことを。物憂げなツインボーカル。男はピエール・バルー、女のほうはニコール・クロワジールによる「♪ダバダバダ、ダバダバダ」(実際の発音表記は「バダバダダ」が近いか)というスキャット中心のフレンチ・ボサ。1966年、世界中を席巻したクロード・ルルーシュ監督の『男と女』の主題歌だ。作曲は(2018年に惜しく逝去した)彼の盟友フランシス・レイ。

作品自体も超有名で、カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールに輝き、アカデミー賞外国語(現・国際長編)映画賞と脚本賞も合わせて獲得した大傑作である。

で、この恋愛映画の金字塔のまさかの後日譚、長い時を経て生みだされた続篇が『男と女 人生最良の日々』なのであった。主演アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンが同じ役柄を演じてみせ、53年前の『男と女』の名シーンを脳内記憶のように散りばめながら、ふたりの“現在”の物語が描かれてゆくのだ。

『男と女 人生最良の日々』予告編

さて、タイトルでは「人生最良の日々」と謳っているが、元レーシングドライバーだったジャン・ルイは老人ホームに入っていて、もはや記憶を失いかけている。そんな父親の状態を見かねた息子は、かつての恋人アンヌを捜しだし「どうか一度、施設を訪ねてほしい」と申し出る。迷ったもののジャン・ルイの前に現れるアンヌ――時の重みを感じさせる、好シチュエーションがたまらない!

実はルルーシュ監督、これまでも「アンヌとジャン・ルイの物語」にはこだわっており、1977年、キャストを変えて西部劇に仕立て上げた『続・男と女』を発表、さらに1986年には(本作に先んじて)アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンを起用、正統な続篇『男と女Ⅱ』をすでに世に問うていた。

そうした流れのなかで辿り着いた今回のエピローグ。ゆえに物語の原点、1作目の場面の断片を織り交ぜつつ、再会したふたりの新たな軌跡が紡がれるのであった。

奇しくもこの“マッシュアップ”の手法、日本では山田洋次監督が新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』で採用していたが、山田監督88歳、ルルーシュ82歳、作風の違う巨星(レジェンド)たちが老年期に、接近するというおもしろさ! しかもルルーシュは自らの伝説的な短篇映画、1976年の『ランデヴー』も劇中に取り込んでいる。

ドライバー視点で1台のスポーツカーが夜明けのパリのメインストリートを疾走する最高の映像。そこにフランシス・レイ最後の美メロが絡む──いったいこれ以上、何を望むことがあろうか。


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  • 映画『男と女 人生最良の日々』

    1月31日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
    監督:クロード・ルルーシュ
    出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、スアド・アミドゥ、アントワーヌ・シレ 
    音楽:カロジェロ、フランシス・レイ
    配給:ツイン 宣伝プロデュース:サルーテ 
    (c)2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

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(とどろき・ゆきお)1963年東京都生まれ。映画評論家。近著(編著・執筆協力)に、『好き勝手 夏木陽介 スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督 塚本晋也』(ぱる出版)など。読む映画館 todorokiyukio...

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