羽生の心に火をつけたライバルの存在
羽生は今季、北京五輪で94年ぶりとなる3連覇に挑む。実は北京は、出場する予定ではなかった大会だという。羽生は小学生のときから「オリンピック2連覇」が夢だった。はっきりと「19歳と23歳のオリンピックで金メダルを取ること」を目標としてきた。実際、平昌後の会見でも「夢は叶ったし、やるべきことはやれたという気持ちがある」と達成感を口にしている。ではなぜ、プランにはなかった3回目のオリンピック出場を目指すことにしたのか。それが、まだ誰も成功していない「4回転アクセル」を着氷させるためだ。
4回転(クワッド)アクセル。もう、この必殺技のようなワードだけでワクワクする。6種類あるフィギュアスケートのジャンプのうち、アクセルジャンプだけは踏み切る体の向きが違うためほかのジャンプより半回転多く回らなければならず、最高難度となっている。
トリプルアクセルが「3回転半」と言われたように、4回転アクセルも実際は4回転半。ほかの4回転ジャンプを武器にする選手はいても、4回転アクセルを跳べる選手はいない。以前、ロシアの名将と呼ばれたコーチは「現在の人間の身体能力では、私の生きているうちに4回転アクセルを成功させる選手は出ない」と言ったそうだ。
4回転ジャンプが主流になる前は、トリプルアクセルがフィギュアスケートの華だった。羽生結弦も恩師から「アクセルは王様のジャンプ」と教えられ、アクセルジャンプに強い思い入れを持っている。平昌五輪後、「まだスケートは辞めない」と語った羽生が口にしたのが「4回転アクセルを跳びたい」だった。
時期を同じくして、世界のフィギュアスケートがハイレベル化し、ネイサン・チェンという世界トップを脅かす存在が現れる。(アクセル以外の)4回転ジャンプを跳びまくるネイサン・チェンは、気づけば羽生結弦がノーミスの演技をしても点数では上回れない壁となっていた。
それが羽生結弦の心に火をつけたのは間違いない。北京への意欲を口にするようになると同時に、自身のプログラムのさらなる進化を求めるなかで、4回転アクセルを構成に組み込む決意をしたのも必然だった。
「皆さんが僕に懸けてくれている夢だから、叶えてあげたい」
そしてとうとう、北京五輪の代表選考を兼ねた昨年12月の全日本選手権でその時が訪れる。フリースケーティングの最初のジャンプで羽生は、4年間、いやそれ以上の時間をかけて取り組んできた4回転アクセルに試合で初めて挑戦したのだ。結果は、両足での着氷となり回転不足でトリプルアクセルと判定されたが、転倒せずに着氷した。以降の4回転サルコーや4回転トーループといった4回転ジャンプはミスなく決め、優勝で北京五輪出場を決めている。
北京への意気込みを聞かれるなかで羽生は、「4回転アクセルを跳んで金メダルを獲る」とはっきりと口にした。もちろん、失敗のリスクの大きい4回転アクセルを回避し、ほかの4回転ジャンプ中心に金を狙う構成にする道はあった。いや、むしろそのほうが現実的だ。
しかし、羽生が選んだのは4回転アクセル。それは、自身が北京を目指す決意をした根底にあったのが4回転アクセルを世界で初めて成功させたいという思いだったから。そして羽生はこうも言った。「(4回転アクセルは)自分のためでもあるんですけど、皆さんが僕に懸けてくれている夢だから、叶えてあげたいなって思いました」と。どこまで王子様なんだ。
人類が羽生結弦に託した夢、4回転アクセルをオリンピックという特別な舞台で決める。平昌以降、3度あった直接対決で一度も勝てていないネイサン・チェンに勝って五輪3連覇の偉業を達成する。これ以上の展開があるだろうか。ということは、主人公である羽生結弦は必ずこれをやってのけてみせるということだ。
4回転アクセルがリスクなら、あえて3度目のオリンピックに出るのもリスク。五輪を目前に控えたインタビューで羽生は「正直、すごくオリンピックが怖い」とも言っていた。そんなシチュエーションも、きっと前フリなんだろう。なんたって羽生結弦は主人公だから。そして、最高の物語を見せてくれるに違いない。
【関連】「このあと表彰式があるんですか?」宇野昌磨の“しょーま節”は北京でも発揮されるか
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