2021年10月27日にリリースされた、SKY-HI(スカイハイ)3年ぶりのオリジナルアルバム『八面六臂』。「BE:FIRST(ビーファースト)」を生み出したオーディション『THE FIRST』の主催や、CEOを務める会社「BMSG」の立ち上げなど、獅子奮迅の活躍を見せる彼がこのアルバムに込めたメッセージとは──。
SKY-HIの活動を追いかけつづけ、QJWebで『THE FIRST』のレポート連載を執筆してきたライターの坂井彩花が、“オリジナルアルバム”と“客演”という視点で『八面六臂』に迫ったレビューをお届けする。
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“死ぬこと・生きること・愛すること・戦うこと”を一周した3作品
オーディション『THE FIRST』の仕かけ人であり、BMSGの代表であるSKY-HI。ここ最近ではBE:FIRSTの産みの親として世間から注目されることも増えたが、本人は現役バリバリのアーティストである。
そんな彼が3年ぶりにリリースしたオリジナルアルバムが『八面六臂』だ。テーマは「ジャンル無⽤、ルール無⽤、あるのは⾳楽への愛のみ」。各楽曲の個性が強く、オムニバスアルバムになっても不思議でない一枚なのだが、SKY-HIの感情の動きを緻密に追ったようなコンセプティブな作品へと仕上がっている。今回は大きく分けてふたつの角度から、『八面六臂』を読み解いていきたい。
まずひとつ目は、『八面六臂』が“オリジナルアルバム”という視点だ。そもそもSKY-HIは、オリジナルアルバムを手がける際、前もってコンセプトを決めていることのほうが多い。1stアルバム『TRICKSTER』においては各曲の波があり、試行錯誤の痕跡を感じさせる出来であるものの、2ndアルバム『カタルシス』、3rdアルバム『OLIVE』、4thアルバム『JAPRISON』では、トータルで筋の通ったコンセプトアルバムとなっている。
気持ちの浄化へ願いを宿し、まっすぐに死を見つめ語った『カタルシス』。生と向き合うことに、誰かへの愛を見出した『OLIVE』。日本の息苦しい閉塞感を歌いながら、日本のラップのかっこよさを誇示した『JAPRISON』。3作のコンセプティブなアルバムを通し、SKY-HIは表現をする上で軸にしていた“死ぬこと・生きること・愛すること・戦うこと”を一周して見せたのだ。
『JAPRISON』の一歩先へ
その流れを経て、リリースされたのが『八面六臂』である。タイトルにダブルミーニングな側面を持たせていたり、どんなに時間がないなかでもコンセプト先行で制作へ向かっていたりした彼が、勢いでタイトルをつけ「その時々で、⼀緒に⾳楽を創りたいと思う相⼿と創り上げた」と語るのだから、今までと違うアプローチを取っていることは明白だろう。
しかし、だからといって前作と分断されているわけではないのが『八面六臂』のおもしろいところ。SKY-HIは『JAPRISON』を通して、従来の“アーティストはかくあるべし”から抜け出す必要があると訴えていた。「こういうのがウケるから」で曲を書いたり、誰かの理想像を演じたりするのは、本当に目指すべき世界なのかとリスナーに問うていた。
『八面六臂』に至っては、そういったしがらみから「ひと足お先に」と抜け出た印象がある。『JAPRISON』における「23:59」や「White Lily」のような“リスナーが求めているから”を起点とした楽曲はないし、多彩な客演はそれぞれの関係性を交えながら“SKY-HIとはどんな人か”を色濃く描いている。本当によいと思う曲を作り、取り繕わない自分を音楽で鳴らす、という難しくもシンプルなことを『八面六臂』では成し遂げているのだ。
それを成し得たのは、自分と向き合い自分をさらけ出すことを彼が選んだからなのだろう。SKY-HIは『JAPRISON』の最後に「New Verse」を置き(「Marble (Rerecfor JAPRISON)」以降の楽曲はボーナストラック的な位置づけ)、“弱い自分も愛していこう”と新しいスタートを切っている。傷ついていないふりをして、虚勢を張って生きていくのではなく、フラットな精神で今の自分がやりたいことを遂行する未来を選択した。だからこそ、結果的に『八面六臂』は感情の流れが乗った純度の高いものになったのではないだろうか。
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