バグり始めた虎杖の死生観
初の殺しだけではなく、虎杖にとってもうひとつショッキングな事実が明らかになる。虎杖が両面宿儺(りょうめんすくな)を呪肉(呪力を解放、宿儺は虎杖の体に封じられたかたち)したことで、全国に散らばる宿儺の指が共振し、呪力を解放してしまっていたのだ。これにより、多くの命が失われてしまっている。
共振に気づいた伏黒恵(ふしぐろ・めぐみ)は、野薔薇に事実を明かしながら、虎杖を気遣って口止めする。ここでも野薔薇は「言わねぇよ レディの気遣いナメんな」と男前な一面を見せた。しかし、そんなレディの気遣いも虚しく、宿儺本人が虎杖にバラしてしまう。
「小僧!!オマエがいるから!!人が死ぬんだよ!!」
幼稚でサディスティックな性格の宿儺は、虎杖の落胆する姿を見て楽しもうとしたのだ。だが、意外にも虎杖の反応はイマイチ。返ってきた言葉は、「それ 伏黒に言うなよ」というものだった。
過去に伏黒は、虎杖の命を守るために宿儺のことも助けてしまっている。虎杖は、共振を知った伏黒が自分を責めると思い、宿儺に口止めしたのだ。虎杖と伏黒がお互いを思い、罪の意識をひとりで抱え込もうとし合うという構図だ。野薔薇の繊細な一面につづいて、虎杖と伏黒の友情が描かれた。素直に美しいシーンと捉えればいいのだろう。だが、どうしても虎杖の死生観が軽くなっていくのを感じてしまう。
虎杖は、理性を失ったほぼ化け物の改造人間を殺したときに、命の重さを感じている。そして前述のとおり、呪胎九相図の壊相を殺めた際も思い悩んでいる。だが、共振を知った際に虎杖は、多くの命が失われたことに思いを馳せることなく、瞬時に切り替えて伏黒を思いやっている。
伏黒のために罪を背負うのはカッコいいことだが、汚れてしまった自分が背負ったほうがよいと考えているようにも見える。改造人間、壊相と血塗を殺めた虎杖は、少しずつ少しずつ、他人の死への感情が軽くなっているのではないだろうか。
名シーンとして語られることの多い話だが、一概に「イイ話」ですませるわけにもいかない気がする。
五条悟の過去編開始!
アニメの最終回を収録した8巻の後半は、呪術高専の教師・五条悟(ごじょう・さとる)と、のちに呪霊軍団を率いることになる夏油傑(げとう・すぐる)の高校時代が描かれた。
作中の強さの天井であり、インフレの蓋のような役割の五条は、なんと当時からすでに「最強」を自負していた。といっても、無限の力を圧縮させて弾き飛ばす(ような感じ)の技・赫(あか)を使いこなせずにいるなど、まだまだ完成はされていない様子。それでも最強なのだからいかに五条のポテンシャルがぶっちぎっているのかがわかる。
一方の夏油も相当な実力者のようで、五条とは仲よくもありつつ、意見を違えると正面からやり合おうとするなど負けてはいない。当時から不真面目な五条に対し、正義を説き、優等生な姿を見せていた。
そんなふたりが任された任務は、呪詛師集団「Q」と盤星教「時の器の会」のふたつの団体から星漿体(せいしょうたい)と呼ばれる少女を護衛することだった。五条も夏油も気持ちいいくらいの無双っぷりを見せていて、直前までの虎杖・野薔薇vs壊相・血塗とは違ってライトな読み味だ。
とはいえ、ここに無職でギャンブル狂いの伏黒の父親が登場。さらに夏油の意識に変化が起きるなど、徐々に物語の根幹に話が食い込んでいく。
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