映画版の公開(今年冬の予定)を待ちながら『ジャンプ』大好きライター・さわだが『呪術廻戦』(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)の既刊を1巻ずつ振り返っていく企画である。だが当面は、作者・芥見下々の復調を願いながら、連載再開を待ちながら、『呪術廻戦』の魅力を隅々まで味わっていくモードに切り替えたい。今回は7巻、「呪胎九相図」を中心に考察する。(以下考察は、7巻までのネタバレを含みます)。
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日本神話のようなスケール
バトルシーンの迫力、気の利いたセリフ回し、多彩なキャラクターデザイン、『呪術廻戦』の人気の理由を数え上げたらキリがない。でも僕が一番、ああこれこれ、となるのが、登場人物の背景の掘り下げ方だ。
7巻で登場した呪いと人間のハーフ「呪胎九相図」(じゅたいくそうず)は、特に印象深い。日本神話のようなスケールを持ちながら、徐々に徐々に人間味のほうに焦点が当たるよう描かれていくもんだから、悲しみが濃くなっていった。
「呪胎九相図」は、歪んだ愛から生まれた説
「呪胎九相図」とは、150年前に生まれた呪物(呪いが宿った物体)のことだ。明治の初期、呪霊の子を孕んでしまった特異体質の女性が、常軌を逸した親類からの非難に遭い、呪術師・加茂憲倫(かも・のりとし)が開いた寺に駆け込んだ。呪霊と人間の間に生まれた子供に好奇心を燃やした加茂は、九度の懐妊と堕胎を繰り返させ、9人の胎児が生まれた。その胎児が呪物へと転じ、「呪胎九相図」と呼ばれるようになる。
なんともおぞましい、古くから伝わる日本神話のような背景を持つ呪胎九相図。特級に分類される呪力の起源については、「母の恨みか それとも──」と記されている。恨みだとすれば、自分を非難した親類に対する怒りか、あるいは、呪霊との子供を作らされた加茂への怒りだろう。
だが、「──」を推測するならば、恨みの反対にある「愛」という言葉が入るはずだ。懐妊の方法は「記録に残っていない」とされており、加茂がどのように女性と呪霊を交わらせ、どのように子を孕ませたのかはわからない。想像するに女性は、親類から非難を浴びた自分を唯一受け入れてくれた加茂に恋心を抱き、言われるがままに、呪霊の子を孕んだのだろう。歪んだ愛の形が、「呪胎九相図」なのだ。
和風ダークファンタジーの真骨頂、ジャパニーズホラー映画を一本撮れてしまいそうな闇深い設定だ。もちろん、「女性による歪んだ愛」というのは僕の解釈であって真相はまったくの別かもしれない。が、そういう想像の余白を残す感じがまた、ジャパニーズホラーっぽい。
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