“神”になろうとする男
ヴィンチェンツォとチャヨンがふたりで焼きいもを食べているのは、前回解説したとおり、状況が行き詰まっていることを表している。一方、「炭酸が飲みたい」というチャヨンの前に出されたサイダーはスカッとする象徴。一転して攻勢に出る合図だ。
ウサン法律事務所から証拠隠滅の報酬をもらって喜んでいる悪徳刑事たちのもとに現れ、あっという間に刑事ふたりを叩きのめすヴィンチェンツォ。悪党から奪った汚いカネは、寄付してきれいに変えてしまうのがヴィンチェンツォ流。刑事たちを高い場所から蹴落とそうとしたチャヨンが履いていた白いスニーカーは、ラグジュアリーストリートブランドOff-White(オフホワイト)のOut of Officeスニーカー。お値段はだいたい10万円ぐらい。さすが稼いでるね、チャヨン。
一方、悪徳弁護士のチェ・ミョンヒ(キム・ヨジン)は、ジュヌに「正体を隠して経営する理由はなんですか?」と率直に尋ねる。それ、気になってた! ジュヌの答えは3つ。「ゲームみたいでおもしろい」「刑務所に入りたくない」「存在が神のようだ」というもの。
「神は姿を見せることなく、あらゆる不幸を人間に与えて楽しんでいる。たまに幸福を与えて“人生は最高だ”と勘違いさせるのがおもしろい」
ジュヌが作ろうとしているのは「バベル・タワー」。旧約聖書では、人類が「バベルの塔」を作って神に挑戦しようとしたので、神の怒りに触れることになるが、ジュヌは神そのものになろうとしていたのだ。そして、同調するミョンヒ。このふたり、イカれてる……。
ヴィンチェンツォとチャヨンは「陰陽」?
ひととき、部屋でマッコリを酌み交わすヴィンチェンツォとチャヨン。ヴィンチェンツォがモックネックのニットを着て、髪を下ろしていると、異様に若返って大学生みたいに見える。
チャヨンはまっすぐ彼を見つめて、バベルの件が片づいたら韓国を去るのかと尋ねる。何も答えないヴィンチェンツォ。「出会いと同じように、別れもいきなりなんでしょ」とチャヨンがサバサバした様子で言うと、ヴィンチェンツォが微笑む。どちらも本心ではずっと一緒にいたいと思い始めているはずなのに、それを言葉にすることができない。ふたりにはやらなければいけないことがたくさんあるのだ。すべての感情を心の中に押し込めて、「乾杯」とグラスを重ねるふたりは、これまで見せたことのないようなイノセントな微笑みを浮かべていた。
その後、ふたりが片手を伸ばした同じようなポーズでテーブルに突っ伏すが、真上から見るとチャヨンとヴィンチェンツォがまるで「太極図」のようだった。太極図とは中国から生まれた思想「陰陽」を表した図で、韓国の国旗(太極旗)のデザインのもとにもなったもの。黒い服を着たチャヨンが陰(女性を表す)で、淡いグレーの服を着たヴィンチェンツォが陽(男性を表す)。陰は陽が必要で、その逆もまたしかり。陰と陽が調和することで、自然の秩序が保たれるのだ。
事務長(ユン・ビョンヒ)を通じてバベルグループの悪事を知ったクムガ・プラザの住民たちは、自分たちも一丸となってバベルと戦うことを決意する。“影のボス”をおびき出すため挑発しようとするチャヨン(「全人類を不愉快にさせられる」という自信がすごい)と住民たちが考案した作戦が、ネット番組『暴露TV』を始めること。
手作りのハトのお面を被ったヴィンチェンツォがカメラの前で「告発者1号のインザーギです」と言うと、ご丁寧に「インザーギ(ハト)」とテロップが出るのがおかしい。『暴露TV』のロゴにもハトの顔が使われていた。恐ろしいほどシリアスな出だしから、同じエピソードの中で、ここまで遠くまで来てしまうのが『ヴィンチェンツォ』の真骨頂だ。
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