☆幻の地下ライブ「あじわいライブ」☆
それからいろいろなライブに出ることになった。
「あじわいライブ」というライブがあって、武蔵小山の、インドカレー屋の二階でやっていた。
主催の清水狸さんという芸人が、
「さぁはじまりました!あじわいライブ!」
とはじめるが、
もう、普通にカレー屋の二階だった。
インドカレー屋の二階を、ライブ会場だと言い張って、みんなでライブを開催するのだ。
みんな必死だった。なぜならカレーの匂いがずっとしているから。
終始カレーの匂いがずっとしているそのライブは、ウケるウケないの前に、ずっとカレーの匂いが会場に漂って、頭のかたすみには必ずカレーがつきまとう。そんな中お笑いなんかやるもんだから、まったくウケない。
ライブが終わるころには、演者もお客も全員、カレーのことで頭がいっぱいになった。早くカレーが食べたい。お笑いなんかよりカレーだ、カレー!!
とんでもないライブだった。
また芸人の中には、袖から客席を見て、
『ネタをちゃんと見ているお客さん』
と、
『カレーのことしか考えてないお客さん』
その区別が、
わかるようになった猛者もいた。
その猛者に聞いては、
「えっ?あの人カレーのこと考えてるんですか?!あんなに笑ってるのに?!」
「そうだよ、ほら!!あっちなんかほら!カレーのことしか考えてないよ!ほら!!」
「ほんとだ〜!」
そういうやりとりが、楽しみになっていた。
そんなあじわいライブの中で、強烈に記憶に残っているのが、「二階堂旅人」という芸人だ。
お笑いライブの尺は、1ネタ4、5分が暗黙の了解で、あじわいライブもそんな感じだった。
しかし、二階堂旅人さん。
彼は、何を思ったか、いつも、「20分強」やるのだ。
どんなあじわいライブでも「20分強」。
僕はいつも楽しみだった。彼だけが、カレーの匂いがぷーんとするこのあじわいライブで、
「20分強」というネタをやってのけるからだ。
とても世界観の強い一人コントをするのだが、
桐野安生さんという芸人と、袖から
「すごいなあ、二階堂さんは!カレーのことなど考えてない、あの顔!!」
「桐野さん、あのお客さん見てください。まるで二階堂さんとは違いますよ、カレーの顔ですよ」
「二階堂さんを見習ってほしいもんだね。」
そんな会話をしていた。
そんな二階堂さんが、伝説になった日がある。
ある日、あじわいライブに遅れて行くと
会場に爆笑の渦が巻き起こっていた。
「え?!」
僕はびっくりした。
あじわいライブでは聞いたことがない笑いの声量だったからだ。
さらに、舞台を見て、驚いた。
「二階堂旅人」だった。
二階堂旅人が、ネタで爆笑をとっている。
すごいぞ、、、、!
僕は一目散に舞台袖に向かった。
ワクワクした。
「あじわいライブ」でこんなウケ量、聞いたことがない、、!
袖から見ると、二階堂旅人がネタをしている。
ピエロのような白塗りのメイク。全身黒ずくめの奇抜な衣装。
ネタは、パントマイムのネタのようで、ゆっくりと無言で動き、いつもの世界観をやっている。
、、、
面白いが、、ただそこでは笑いが起きてない。
、、??
よくわかんないでいると、隣にいた芸人が、
「まて!、、静かに見てろ、、!」
と、下↓を指さした。
??
二階堂さんは変わらず、無言でパッパッ!と動き続ける。
マイムなので、舞台がとても静かになる。。
「〜〜。」
ピエロメイクの二階堂さんが、無音で動く。。
「〜〜。。」
次の瞬間。
『カランコロンカラーン!』
『イラッタイ マテーー!!!』
舞台の床下から、
下のカレー屋のやりとりが聞こえてきた。
『イラッタイマテー!!』
『何名タマ デスカーー?!』
二階堂さんが無音でマイムをやっていると、
舞台が静寂すぎて、
下から、インド店員さんの声が、ハッキリと聞こえてきている。
『キーマカリー!フタトゥ!!』
『アリガト ゴザイマース!!』
「〜ーー。〜。」
ピエロが無音で動く。
『ナン、オカワリ ハイリマッターー!!』
下からカタコトの声。
「〜ー、〜。」
ピエロが動く。
『アリガトネー!!チキンカレーひとトゥー!!』
「〜。〜、、〜〜。。」
『カランコロンカラーン!』
『ハイ イラッタイマテーー!!!』
「〜、〜、〜、。。」
『チーズナン!フタトゥ??アリガトー!』
『アリガト ゴザイマース!』
「〜〜、〜〜。。。〜、」
『チキン カレー!オマチ〜〜!』
『アチュイカラ!キヲツケテネー!!』
「〜〜〜。〜、、、〜。」
『イラッタイマテー!!』
「〜ー。〜。〜〜」
『ゴアンナイ シマーース!!』
『ハーーイ!!』
ピエロの動きと、インドカリー店員。とんでもないコンボの応酬で、その偶然起きた奇跡みたいな、二度と起きないであろう出来事に、みんなで腹を抱えて笑った。
二階堂旅人さんはその日、20分強爆笑を取り続けて、一躍スターになった。
そんなあじわいライブも、数年前に終わりを迎えたらしい。
今はあんまり見かけなくなっていった、変なライブたち。
このあいだ、とある収録でメイク室に案内されて入ったら、Aマッソの加納ちゃんがいた。
隣に座ると、
「ういっス〜」
加納ちゃんはヘアメイクさんからメイクされながらでも、笑顔で挨拶してくれた。
座った僕に、ヘアメイクさんが、パタパタとメイクをしはじめる。
目を閉じて、
ふと、
Aマッソも、あの「あじわいライブ」によく出ていたことを思い出した。
あのカレー屋の二階で、一緒にお笑いをやっていたメンバーと、局のメイク室で会うのは、とても感慨深いものがあった。
何を思ったか、
となりの加納ちゃんめがけて、
「あじわいライブ〜。」
と、一言だけ言ってみた。
すると彼女は、化粧されながら閉じた目で、
しばらく黙ったのち、
「清水、狸 な〜。」
と、返してきた。
嬉しくなった。
「清水狸」さんは、あのライブの主催者だ。
続けて加納ちゃんが、
「桐野安生、な〜。」
と言ってきたので、
「二階堂旅人〜。」
と返した。
それからどちらからともなく、
「「カレー屋〜。」」
「「二階〜。」」
と、重なった。
それで吹き出してしまって、
「誰がわかんねん」と加納ちゃんが突っ込んで、メイクさん達はよくわからない顔をしていて、それも面白くて笑ってしまった。
加納ちゃんの中にも、まだ「あじわいライブ」が残っていたのだ。
変な、ライブだった。
僕はたぶん、「あじわいライブ」を一生忘れないだろう。たまに楽屋で、誰かがカレーを食べているときに、その匂いで必ず「あじわいライブ」のことを思い出すからだ。
今度、あじわいメンバーに会ったら、みんなもそうなのか聞いてみよう。
清水狸さんも、二階堂旅人さんも、現在も芸人をやられているようで、嬉しい。
またカレー臭に包まれた空間で、みんなで笑ってみたい。
そのあと、カレーのことしか考えられなくなって、そそくさと帰りたい。
カレーだ!カレー!!
お笑いなんかより、カレーだ!!カレー!!
さて、地下ライブの話はいったんここまでです。
次回があれば、
今は解散してしまった「ちょむ&マッキー」という漫才師。そのマッキーさんが開いた、
「3歳になる娘のゆずなちゃん。そのゆずなちゃんを、一番笑わせた奴が優勝」の、『ゆずな-1グランプリ』。
このライブのことを話そうかと思います。
ライブ開始と同時に、肝心のゆずなちゃんが泣き出してしまい、あわてた奥さんが、ゆずなちゃんを抱き抱えて会場から飛び出して、二度と戻ってこなかったライブです。
では!
今回はこのへんで!
ドロンさせていただきます!
では〜〜!
さよーならー!
またねー!!
またねー!!
バイバイー!ありがとー!
またねー!
ねー!
サバラ!!
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