「有吉弘行結婚」。このニュースを10年前の自分に聞かせたらどんな反応をするだろうと思った。おそらく事実を受け入れられずに、口から大量のゲロを吐くと思う。
『内村プロデュース』(テレビ朝日)の「家庭訪問すごろく」、『リンカーン』(TBS)の説教先生、『ゴッドタン』(テレビ東京)の「M女オーディション」をレコーダーが壊れるまでエンドレスリピートし、有吉弘行の著書『お前なんかもう死んでいる プロ一発屋に学ぶ50の法則』(双葉社)『嫌われない毒舌のすすめ』(ベストセラーズ)を愛読し、「人を傷つける笑いこそすべて」とこじらせにこじらせまくった自分にとって「有吉弘行」と「結婚」というワードがあまりにもかけ離れていたからだ。
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「毒」と「薬」の絶妙なバランス
人間誰しもが持っているドロドロとした闇の玉を吐き出し、完膚なきまでに相手を叩きのめすストロングスタイル、いわゆる「毒舌」という芸風は、有吉弘行という芸人の代名詞とも言えるのかもしれない。喜怒哀楽でいえば「怒」の芸人。前述したとおり10年前の自分もそんな認識だった。が、そんなものは彼のほんの一部に過ぎないということをここ数年見ていて強く思った。
『有吉の壁』(日本テレビ)で後輩のネタに手を叩いて爆笑する姿。『有吉ぃぃeeeee!』(テレビ東京)でタカアンドトシやアンガールズ田中卓志とゲームをする姿。『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)でフランスパンにマヨネーズをぶっかけて食べる姿。『ドラゴンクエストウォーク』、ドラマ『ザ・ボーイズ』、映画『Dope/ドープ!!』、映画『日本統一』、マンガ『Dr.STONE』(集英社)、アニメ『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』などハマっているものについて語る姿。NiziUやビリー・アイリッシュを大熱唱する姿。「喜」「楽」の部分を見せる有吉に、とてつもなく惹かれる自分がいる。
興味のなかったジャンルでも、彼の語り口で魅力を伝えられるとそのコンテンツに俄然興味が湧いてくる。「今日は電車じゃなく徒歩で帰ろうかな」という気分になる。今まで毒に全振りされていたそのトーク力が楽しいこと、おもしろいことに向けられたとき、こんなにも心動かされるのかと改めてそのすごさを見せつけられた。
その一方で、「あのころの有吉弘行」を随所に感じられるのが本当にうれしい。少しでも間違えばいつでも刺してやるからな、というオーラが1ミリも消えてないというのを実感できるからだ。
直近で言えば、4月7日放送の『有吉の壁』にて、パンチングマシーンのネタをしていたチョコレートプラネット松尾駿に打った強烈なボディーブローの衝撃は今でも忘れられない。絶妙な「毒」と「薬」のバランス、それこそ有吉が我々の心を掴んで離さない理由だと思った。
有吉弘行、間違いなく今が一番おもしろい
そしてもうひとつ、有吉弘行の最大の魅力とは「顔」なのではないかと思う。「天使」とまで称された幼少期の写真を見てもわかるとおり、異次元の愛嬌を誇るベビーフェイスは御年46歳を迎えた今でも1ミリも変わっていない。いや、大人の色気が加わり、むしろその愛くるしさは増しているとさえ感じる。どんなゲスな言葉を放とうが、次の瞬間にあの顔を見ると、文字どおり「すべて」を受け入れてしまう魔力がある。
近所の陽気なおじさんの明るさと、いつ刺されるかわからない怖さ、そして子供のような笑顔、これらすべてを兼ね備えた今の有吉弘行。間違いなく今が一番おもしろい。
一部では、結婚することにより「毒がなくなるのではないか」と懸念されているが、もはやそんなことはどうでもいい。オードリーの大ファンで知られるヒップホップユニットCreepy NutsのDJ松永が、若林正恭の著書『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(文藝春秋)の巻末にてこんなコメントを残していた。
「あなた(若林)がこれから何をやろうと、何をやめようと、何に悩もうと、何に悩まなくなろうと、何がどう変わろうと、ただ生きてるあなたが常に俺や色んな人を生かします。あなたに何か背負わせたいんじゃないです。常にその時のあなたで良いです。もし俺がこれからのあなたに求めることがあるとしたら、それはただ一つだけ。若林さん、健康でいてくれれば良いです」
「有吉弘行結婚」のニュースを知ったとき、自分はこのコメントを思い出していた。松永にとっての若林がそうであるように、自分にとっても「有吉弘行という男の存在そのものが最高におもしろい」。そんなフェーズに突入している。
これからどう変わろうが、変わるまいが、毒を吐こうが、吐くまいが、愛妻家キャラになろうが、なるまいが、ただ健康でいてくれればいい。そしてテレビで、ラジオで好きなようにふざけ、好きなように笑い、好きなようにボコボコにしてくれればそれでいい。
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