マンガ大賞2021受賞『葬送のフリーレン』は現代の神話である

2021.4.15

荻原魚雷 半隠居遅報 第17回

文=荻原魚雷 編集=森山裕之


文筆家・荻原魚雷が「これほど続きが気になる漫画を読むのは久し振りだ」と断言する『週刊少年サンデー』で連載中の『葬送のフリーレン』。「マンガ大賞2021」の大賞も受賞し、いま最も注目される漫画作品のひとつだ。

「まだ話半ばだが、この作品を読んでいる子供たち、青少年もいずれは大人になる。おそらく人生の節目節目に読み返したくなる漫画になるだろう」

現代の神話『葬送のフリーレン』の魅力とは何か。


あのときの言葉にはこんな意味があったのか。あの行為にはそんな思いが込められていたのか

50年ちょっとの半生振り返れば、後悔先に立たず……みたいなことの繰り返しだ。時が経つのは早い。やろうと思っていたことの半分もできない。いつだって大事なことに気づくのが遅い。

山田鐘人原作、アベツカサ作画『葬送のフリーレン』(少年サンデーコミックス、現在4巻)が「マンガ大賞2021」の大賞を受賞した。よい作品がちゃんと売れて評価される漫画界は健全である。

同作品の連載開始は2020年4月28日だから、もうすぐ1年になる。この漫画、ストーリーもいいが、繊細さと勢いのよさを両立しているアベツカサさんの絵も素晴らしい。3年前の小学館の新人コミック大賞の佳作(少年部門)を受賞し、『葬送のフリーレン』が初連載——とくに単行本のカラー頁は驚嘆の画力である。毎回しばらく見入ってしまう。

『葬送のフリーレン』1巻(原作・山田鐘人 作画・アベツカサ/小学館)

フリーレンは長命のエルフの名前。勇者と共に魔王との戦いに勝利し、それから数十年の月日が流れる。

第1話のタイトルは「冒険の終わり」。人の感情の機微に疎いフリーレンが、かつて勇者一行と遊歴した場所を再訪し、過去の自分が気づかなかったことに気づく(気づかないままのこともある)。一応、フリーレンの旅の目的は魔法の収集ということになっている。しかし集めている魔法は生活感あふれるちまちましたものばかり。1000年以上の時を生きるエルフの暇つぶしともいえる。

寄り道や遠回りを苦にしないフリーレンの旅の仕方——非効率な暮らしぶりもこの作品の魅力だ。

あのときの言葉にはこんな意味があったのか。あの行為にはそんな思いが込められていたのか。物語の随所にそうした「時間差理解」が描かれている。

フリーレンは強大な魔力を持つが、常にそれを抑えている。敵に自分の力を把握させない。能ある鷹はなんとやらということわざがあるが、自分の力を誇示しすぎると無駄な争いに巻き込まれる。そういう意味でもいろいろ示唆に富んだ漫画だ。

いま作品を読んでいる子供たちも人生の節目節目に読み返したくなる漫画になるだろう


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荻原魚雷

(おぎはら・ぎょらい)1969年三重県鈴鹿市生まれ。1989年からライターとして書評やコラムを執筆。著書に『本と怠け者』(ちくま文庫)、『閑な読書人』(晶文社)、『古書古書話』(本の雑誌社)、編著に『吉行淳之介 ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)、梅崎春生『怠惰の美徳』(中公文庫)などがある。毎日新聞..

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