今年のM-1は関東勢力が強く、吉本以外の芸人が多い。この要素は結果にどう出るのか。お笑いを愛するライター・釣木文恵は「史上4組目の関東からのチャンピオンなるか?」を軸に決勝進出組に注目、それぞれの歩んで来た道を振り返る。
9組のうち6組が関東芸人
関東芸人がM-1に出場するということは、いわば、漫才の総本山に殴り込みをかけているようなものなのです。道場破りです。
『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』塙宣之/集英社
ナイツ塙が言うように、関東芸人は『M-1グランプリ』では弱いとされている。過去15回のM-1の歴史の中で、優勝したのは 2004年のアンタッチャブル、2007年のサンドウィッチマン、2015年のトレンディエンジェルの3組のみ。
そんななか、とうとう関東から4組目のチャンピオンが生まれる最大のチャンスがやってきた。今年のM-1は、決勝進出者9組のうち、実に6組が関東芸人なのだ。
25歳と49歳の初進出。ぺこぱにつづくか、非吉本3組
2019年のM-1では、決勝には吉本興業所属の芸人が9組、吉本以外の事務所に所属する、いわゆる非吉本芸人はぺこぱ1組だけだった。けれど今回は9組中3組が非吉本。
なかでも一番注目されているのは、ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)所属、錦鯉だろう。「M-1ラストイヤーのときには56歳」「歯が8本ない」「タカアンドトシと同期」「今年に入って仕事が増えたため、持続化給付金がもらえない」「同じアパートの後輩芸人に300円を借りる」など、地下芸人界の中でもとりわけインパクトのあるトピックだらけだった長谷川まさのりと、その長谷川に冷静にツッコみつづける渡辺隆のコンビ。昨年の敗者復活戦以降じわじわと露出を増やし、準決勝では圧巻の大トリを務めてとうとう大爆発した。
まわりからこよなく愛される彼ら。錦鯉の名前が呼ばれた瞬間、渡辺は本人たち以上に大きく手を上げて喜びを表した金属バット友保(隼平)と抱き合い、そのうしろではぺこぱ松陰寺(太勇)がぐっと小さくガッツポーズをしていた。長谷川の愛されキャラが20日夜、いよいよ全国区になりそうだ。
今回の決勝進出者で最年少コンビの東京ホテイソン。結成3年目の2017年から3年連続準決勝に駒を進め、とうとう今年決勝に。早い段階から注目されていたこともあって「やっと決勝!」感があるが、実はボケのショーゴが26歳、ツッコミのたけるは錦鯉・長谷川と同じ歳の父を持つ25歳という若さだ。これは2018年、霜降り明星が優勝したときと同じ年齢。決勝進出発表会見ではその2018年、強いひと言でツッコむスタイルが霜降り明星に似ていると批判を受け、「悔しくて辞めようかなと思ったが、腐らずにやれた」と涙ぐんだショーゴ。以来、彼らは毎年確実に自分たちのネタを進化させ、誰にも似ていない唯一無二の漫才を作ってきた。それがこの結果につながった。
「腐らずにつづけてきた」のがホテイソンなら、腐りつづけてきたのがウエストランドだ。2012年、賞レース形式の『THE MANZAI』で注目されたものの、以来長らく賞レースの決勝には縁がなかったふたり。しかし井口(浩之)の妬み嫉み愚痴を磨きつづけ、「腐り芸」を極めた。2019年のM-1以降、「人を傷つけない笑い」という言葉がよく聞かれるようになったが、彼らはそのカウンターとして堂々と戦ってくれるに違いない。井口の盟友、三四郎・小宮浩信は彼らよりひと足早くテレビの人気者になった。その三四郎がラストイヤーを迎え、準々決勝で散った年に、ウエストランドが初の決勝進出を決めたのもどこかドラマチックだ。井口の横でどっしりと構えた河本(太)のふてぶてしさ、何事にも動じない雰囲気がどう受け止められるか、点数発表の場も楽しみだ。
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