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稲田俊輔『だいたい15分! 本格インドカレー』のレシピを作ってみてわかった 鯖缶カレーの驚きの味わい深さ

2020.12.21
柴田書店 南インドカレー 

文=辻本 力 編集=森山裕之


『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』は、家庭で手軽に本格インドカレーを作れるように編まれたレシピ集だ。著者は、人気南インド料理店「エリックサウス」の総料理長を務める稲田俊輔。よって、レシピも南インド系のカレーが中心になる。

もし、あなたがインドカレーやスパイス料理が好きで、自分でも作ってみたいと思っているなら、迷わず本書を読むべきだ。あとは数種類のスパイスと、簡単な調理器具さえあれば、素晴らしきスパイス生活は約束されたも同然である。

南インドカレーの衝撃

日本で従来の洋食の延長線上にある「カレーライス」ではなく、スパイシーで本格的なインドカレーが手軽に食べられるようになったのは、戦後の高度経済成長期を経て、80年代のバブル景気に突入して以降のことだろう。海外旅行がポピュラーになり、外国の料理への関心が高まり、それまで知られていなかったアジア料理が輸入され、エスニック料理ブームが起こったことが大きかった。

それ以前にも、本格的なインド料理を売りにする店はあることはあったが、銀座の「ナイルレストラン」(1949年開業)、阿佐ヶ谷にオープンしたのちに九段に移転した「アジャンタ」(1954年開業)など、東京都内にわずかに存在するのみだった。それが今や、「カレー+ナン」の組み合わせによる北インド料理が、どんな地方都市に行っても食べられるほどの浸透を見せて久しい。

※このへんの話は、日本におけるカレーの歴史に迫った森枝卓士の名著『カレーライスと日本人』(講談社現代新書、1989年)が文庫で復刊(講談社学術文庫、2015年)された際に加筆された「補遺」に詳しい。なお、1979年生まれの筆者にとっては、長らく「本格的なインドカレー=北インド料理」というイメージが強かった。

その後、「カレー+ナン」だけが本格インド料理ではない、ということを私たちは知ることになる。いわゆる「南インドカレー」の存在が、徐々に食メディアを賑わし始めたのだ。ちなみに筆者は、グルメ雑誌『dancyu』の2006年7月号「『カレー』命」特集でその存在を知り、以降いろいろ食べ歩いたり、まねしてスパイスからカレーを作ってみるようになったクチである。

それまで知っていたカレーは、玉ねぎをあめ色になるまで炒めたり、煮込むことで味を凝縮させたりと「長時間」「濃厚な味」というベクトルだったが、南インド系は真逆だった。さっと炒めて煮るだけと調理時間が短く、汁はシャバシャバ。なのに抜群に旨い。スパイスの香りの鮮烈さは、ちょっとした衝撃だった。さまざまな野菜のおかずが盛られ、それを混ぜ合わせることで、また新たな味へとアクセスできるのも魅力的だった。こうした要素だけを見ても、南インド料理の存在がなかったら、現在日本全国で進行中のスパイスカレーブームもなかったのでは?なんてことも考えたりする。

エリックサウスとの出会い

さて、「エリックサウス」の話である。初めて同店に行ったときはビックリし、すごく興奮したことを覚えている。今では姉妹店を含め計8店を構えるが、当時はまだ東京駅八重洲地下街にある最初の店(2011年開店)しかなかった。さまざまなカレーやおかずが載った南インド料理のミールス(定食)は、ちょっと高級な料理という印象があったのだが、ここはスタンドカレー屋的な気軽さで入れて、ランチ・ミールスが1000円程度で食べられる上に味は本格的でめちゃめちゃ旨い……。以降、仕事で東京駅付近を通るときや、実家に帰省する際に高速バス(八重洲発)に乗ることがあれば、ここぞとばかりに立ち寄ったものだ。

そんな店の総料理長が手がけるレシピ本ともなれば、期待するなというのが無理な話である。しかし、レシピ本は作ってナンボ。実際に読みながら料理を作ってみなければ、その良し悪しは判断できない。どんなに写真が旨そうでも、なんか味薄いなー、使い勝手悪いなー、みたいなことも珍しくない。まあ、冒頭ですでに絶賛してしまっているので、いい本であることはバレてしまっているわけだが、以降実際に作ってみての感想を綴ってみたい。

まずは「基本のミックススパイス」「基本のマサラ」から

タイトルで「15分!」「本格」と謳っていることからも窺えるように、本書のモットーは「簡単」「早い」「本格的」ということになるだろうか。カレー作り初心者の「第一歩」として優しい設計になっているのはもちろんのこと、多少かじっている人間には、「こんなにシンプルな材料とレシピで、ここまで本格的な味が出せるのか!」という驚きを与えてくれるに違いない。

まず最初に紹介されるのが、「基本のミックススパイス」と「基本のマサラ」のレシピだ。

前者は、カレー作りにおける基本のスパイスであるコリアンダー、クミン、ターメリック、赤唐辛子のパウダーをミックスしたもの。割合は、甘口・中辛(甘め)・中辛(辛め)・辛口の4パターンあるので、好みのものを選ぼう。私は辛党なので辛口をチョイス。

『南インド料理店総料理長が教えるだいたい15分!本格インドカレー』書影レビュー
我が家のスパイスいろいろ。とりあえずかき集めてみたが、この本のレシピでは、こんなになくても問題なし

後者は、みじん切りにした玉ねぎ、すり下ろしたニンニク&ショウガ(共にチューブ可)、塩をフライパンでさっと炒め蒸し、トマトの水煮缶と「基本のスパイスミックス」を加えて作ったペーストで、言うなれば「カレーのもと」みたいなもの。ざっくりと言えば、これで具材を炒め、水なりココナッツミルクなりで伸ばせばカレーの完成だ。「基本のマサラ」を使用せず、マスタードシードなどのホールスパイス(粉末にされていない粒状のスパイス)を加熱し油に香りを移したあと、具材を「基本のスパイスミックス」と一緒に炒めるパターンのレシピもあるが、ひとまずこれさえあればいろいろと作れる。

「簡単」「でも旨い」の極致、鯖缶カレー

「基本のマサラ」ができたら、ぜひ最初に作ってみてほしいのが缶詰を使用したカレーだ。

使うのは鯖缶、ツナ缶、鮭缶などの魚系。いずれも普通に家に常備されていることの多い食材だ。これらを使うのは、魚を具材に使うことがポピュラーな南インド料理の発想から生まれたレシピだからだろう。日本人なら多くが食べ慣れているであろうこのおなじみの味が、「基本のマサラ」と合わさった時に大化けする様を、まずは体感してみてほしい。

たとえば、最も簡単な「鯖缶シンプルカレー」は、基本のマサラ+水+鯖缶をさっと煮たら即完成という超絶インスタントっぷりにド肝を抜かれる一品だが、缶汁ごと使うからか、実に深い味わいを実現している。鯖缶すごい。

『南インド料理店総料理長が教えるだいたい15分!本格インドカレー』書影レビュー
鯖缶シンプルカレー

なお、鯖缶カレーに魅了された方は、ぜひ「鯖缶のミーンプットゥ」と「鯖缶のミーンコランブ」にもチャレンジしてみてほしい。これらは「基本のマサラ」を使わないレシピで、他にマスタードシード、フェンネルシードといったホールスパイスや、南インド料理でおなじみの酸味調味料タマリンドなどが別途必要になるが、「え……ここ店か?」と自分の料理の腕が数段上がったかのような錯覚に襲われること請け合いである。

『南インド料理店総料理長が教えるだいたい15分!本格インドカレー』書影レビュー
鯖缶のミーンプットゥ
『南インド料理店総料理長が教えるだいたい15分!本格インドカレー』書影レビュー
鯖缶のミーンコランブをターメリックライスで。つけ合せは、くたくたブロッコリーマシヤル(後述)

レトルトカレーでビリヤニ!?

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辻本 力

(つじもと・ちから)ライター・編集者。文化施設「水戸芸術館」を経て、2010年、生活と想像力をめぐる“ある種の”ライフスタイル・マガジン『生活考察』を創刊。文芸・カルチャー・ビジネス系の媒体を中心にいろいろと執筆中。編著に『コロナ禍日記』(タバブックス)。『生活考察』編集日記

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