シンガーソングライター・ギタリストの君島大空が、11月11日にセカンドEP『縫層(ほうそう)』をリリースした。
2019年には『フジロックフェスティバル』に出演し、耳の早い音楽ファンからはすでに注目されている彼のまわりには、今、2020年代の音楽シーンを語る上で外せなくなるであろう気鋭の音楽家たちが集まっている。
それは、古くはティン・パン・アレーのような、90年代で言えばBOREDOMS、テン年代であればceroのまわりで起こっていたようなネットワークの広がり方に見えるという。ぜひリアルタイムで君島大空の音楽に触れ、彼が更新する“オルタナティブ”の目撃者になってほしい。
目次
衝撃的だった、君島大空が描く新世代のギター・サウンド
2019年の『フジロックフェスティバル』2日目、深夜。一時は中止も検討されるほどの叩きつけるような豪雨のなか、私は広大なフジの会場内から少し外に出たところに設置されたルーキーステージで、あるミュージシャンの登場を待ちわびていた。
1995年生まれのシンガーソングライター・ギタリストの君島大空――バンドを引き連れて登場した彼のギターが、その雨を引き裂くかのように、またある瞬間には溶け合うように鳴らされたとき、寒気とは異なる、興奮が入り混じった震えが身体中を駆け巡ったのである。
雨粒の向こう側にうっすらと霞んで見える痩身の彼のもとから、新たな世代のギター・サウンドが立ち上がっていくのが見えたのだ。

破壊的なダイナミズムと繊細な声が織り成す『縫層』
2020年11月11日、セカンドEPとなる『縫層』をリリースした君島大空。EPには多重録音を駆使したメランコリックで幻想的なポップスから、「合奏形態」と呼ばれるバンド形態での活動を反映したノイジーでテクニカルなアッパー・チューンまで全7曲を収録されている。

メタルをルーツにするという彼のギタリストとしての確かな演奏技術に加え、選び取る音色の多彩さ、高い構築性・創造性に裏打ちされたプログレッシブな曲展開といった部分に大いに驚かされる作品だ。
特に「笑止」という曲は、ギタリストとしての魅力とコンポーザーとしてのスケールの大きさを実感できるプログレ・メタル~ポスト・ロックサウンドで、約3分とコンパクトながら破格のダイナミズムを獲得しているのが特徴である。
また、初期の七尾旅人を彷彿とさせる、囁くように発せられる繊細で中性的なボーカルスタイルも魅力。時にブレイクビーツ/カットアップ&コラージュ的に楽曲と混ざり合い、それが欠かせない要素となっている。『縫層』全体がアグレッシブかつ重厚、ヒリヒリとした質感のサウンドになっているが、声の叙情性にグッと耳を惹き寄せられるのも大きなポイントと言えよう。
ギタリストから広がっていった活動
ここで、音楽家としての君島大空の活動を簡単に振り返っておこう。2014年、ギタリストとして音楽活動を本格的にスタートさせた彼は、坂口喜咲、高井息吹、タグチハナといったシンガーのライブサポートを担う傍ら、自身で作詞・作曲・演奏まで手がけた音源群をSoundCloudに断続的にアップ。
以降、ほかアーティストへの楽曲提供や映画音楽の制作に乗り出す一方で、弾き語りライブなどソロとしての活動を活発化させ、2019年3月には、作詞・作曲・アレンジ・演奏・歌唱までほぼひとりでこなしたデビューEP『午後の反射光』をリリース。
時を同じくして合奏形態でのライブも行うようになり、この形態で2019年の『フジロック』にも出演。2020年には、地上波の音楽番組『Love music』でも合奏形態でパフォーマンスを披露し、飛躍的に注目度を高めた。その絶好のタイミングでリリースされたのが、今回のセカンドEP『縫層』なのである。
抽象的・点描的なイメージをまとう歌詞も含め、基本的にはベッドルームミュージック/パーソナルな肌触りが感じられる君島大空のサウンドであるが、本作ではその個性を活かしながら、より開放的で幅広く受け入れられる懐の深さを獲得している。
そこに寄与しているのが、レコーディングにも参加している合奏形態のメンバーである。J-POP/J-ROCKのど真ん中からアンダーグラウンド/インディペンデントなシーン、さらに、ジャズやクラシックといったジャンルでも活躍する実力派のプレイヤーたちが、君島のもとに一堂に会しているのだ。
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