「Mステ出演待ったなし」と話題のアーティスト。マハラージャンの魅力は“小並感”にある

2020.11.9

文=荻原 梓


「正直、真部脩一以来の鬼才が日本の音楽業界に現れた」とライターの荻原をワクワクさせるのは、マハラージャンという謎多きアーティスト。巷では「Mステ出演待ったなし」と期待されているという。そんな彼の魅力は感情移入できる小並感にあると、楽曲「いいことがしたい」を中心に荻原は語る。

※本記事は、2020年10月24日に発売された『クイック・ジャパン』vol.152掲載のコラムを転載したものです。


鋭く斬る、けれどもクスッと笑える「気分の良い風刺」

モエチュウという謎の人物によるソロプロジェクト、マハラージャンをご存知だろうか。これまでふたつのEPを配信限定で発表し、その風変わりな歌詞と耳に残るメロディに病みつきになる人が続出。中東系(?)の人物が写る奇妙なアートワークも相まって徐々に話題が沸騰中だ。先日新曲を追加して晴れて初のCDをリリース。巷ではいま「Mステ出演待ったなし」と期待されている。

マハラージャンの魅力は、なんと言ってもその歌詞である。思わずくすりとしてしまうような表現や、それを歌にするか!というような日常の些細な出来事を切り取る絶妙なセンスのフレーズが、小気味良いギターリフを織り交ぜたダンサブルかつファンキーなサウンドに乗り、一度聴いたら頭から離れない。正直、真部脩一(ex. 相対性理論、進行方向別通行区分)以来の鬼才が日本の音楽業界に現れたとワクワクしているところだ。

彼の既存曲で出色の出来は、やはり表題曲の「いいことがしたい」である。本人いわく自分のリアルを詰め込んだというこの曲は、ゴミ拾いや人助けなどして評判になりたいという願望をそのまま口にする。しかし、表向きの自分は品性を疑われるようなダメな自分。そのどうしようもない“小並感”につい感情移入してしまうのだ。

思えば「いい人に見られたい」という欲望は、世相を鋭く捉えているようにも思う。日常生活を“加工”し自分の綺麗な部分だけをアピールし合うSNS社会。いわばダメな自分の裏返しとして、皆が“いいこと”をして見栄を張り合うこの世の中。そんなみっともない心の内を明け透けなく歌えてしまうその人間臭さに共感する。

もちろんそれ以外の曲も面白い。格差社会に一石を投じる「権力ちょうだい」や、解釈の変更を繰り返す政権への皮肉ともとれる「ちがう」 、まさに現在の人びとの承認欲求を斬ったような「自意識過剰」 、企業戦士の悲哀ともとれる「単純な作業」など、どれもこれもとにかく風刺が効いている。重要なのはそれらが辛辣な表現でなく、ちょっと笑えるくらいのニュアンスにとどめているところ。なのでだれもが気分良く聴ける作りになっている。

また一方で「eden」 のようなド直球の名曲も作ることができる。その作曲センスをもってすれば、作家として活動したとしても充分にそのソングライティングの才能は発揮されるはず。人気歌手への楽曲提供による化学反応なども期待大。間違いなく今後要注目の存在だ。




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荻原 梓

(おぎわら・あずさ)日本の音楽を追いつづける88年生まれのライター。『クイック・ジャパン』、『リアルサウンド』、『ライブドアニュース』、『オトトイ』、『ケティック』などで記事を執筆。

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