「祖母の死」も「珪藻土マット」も。<日常>を等価に表現するヤバTの到達点
4thフルアルバム『You need the Tank-top』がオリコンアルバムウィークリーランキング1位を獲得し、10月3日からは1日2部公演(2021年公演に関しては未定)の全国ツアーをスタートしたヤバイTシャツ屋さん。
メジャーデビュー当時から彼らを追いつづけ、10月24日発売の『クイック・ジャパン』vol.152ではヤバイTシャツ屋さん表紙巻頭特集のインタビューを行ったライターの兵庫慎司が、彼らのニューアルバムへの思いとリリックに込められた日常への視点を解説する。
「生き残れるか消え去るかの分岐点」というメンバーの自覚
ニューアルバム『You need the Tank-top』のリリースを発表したYouTubeの生配信ライブで、「CD予約者全員に直筆サインをつける」ことを発表、その結果43000枚もの予約が入り、その段階で自身過去最高セールスになることが決定(よってメンバー3人は1日1500枚ノルマで約1カ月の間、サインを書きつづけた)、リリース後はオリコンとビルボード・ジャパンでウィークリー1位を獲得。
そして、現在のこの新型コロナウイルス禍にあって、当然開催が危ぶまれた、全35本・半年間にわたるアルバムのリリースツアーは「入場者数が著しく減少するものの、代わりにその日に2回ライブをやる」という無茶な方法で決行することを決め、10月3日の秋田Club SWINDLEを皮切りに全国を回り始めているヤバイTシャツ屋さん。
実はヤバTの3人は、最近バンドとしての勢いが落ちていると意識しており、ゆえにこのアルバムは今後生き残れるか消え去るかの分岐点になる、という覚悟で臨んだことを、『クイック・ジャパン』vol.152(10月24日発売)のインタビューで、それぞれが明かしている。
このアルバムの先行シングルである『うなぎのぼり』のリリース日が3月18日だったこともあって、コロナ禍の影響でそれ以前の作品よりもセールスが下がったこと、3月28・29日に予定していた志摩スペイン村での自身最大規模の野外ワンマンをストップせざるを得なかったこと。
という、新型コロナウイルス禍という不運による足踏みはあったが、3人が危機感を持ったのはそれより前からだ、という。
幅を広げずコアに絞り“それらしいことを歌う”に抗う
曰く、去年おととしまでは何をやってもうまくいくような感じだったが、そうではなくなった。バンドの状態が、良くも悪くも落ち着き始めた。SNSに投稿したときの、ファンのリアクションの量や広まり方の速度から、それが伺えるようになった──。
3人が3人共そう話すのを訊いて、正直、意外だった。キャパも本数もどんどん拡大しても、ツアーは全カ所ソールドアウトだし、どこのフェスに行っても出演アクトの中でトップクラスの集客力を誇っているのが今のヤバTなので、そんなふうな「勢いが落ちた」印象は、僕はまったく抱いていなかったのだ。要は彼らのほうがよっぽど冷静に、客観的に、シビアに、自分たちの状況を解析しているということだ。
で、前述のように、このアルバムでそんな「シビアな勝負に出て見事勝利した」という意味合いだけでなく、『You need the Tank-top』は、ヤバイTシャツ屋さんにとって、ある種の到達点といえる作品になっていることが、聴くとわかる。で、それ、大きく言うとふたつある。
メジャーからの4作目である、つまり「そろそろいろいろやりたくなる」時期であるにもかかわらず、幅を広げるどころかむしろギュッとコアに絞り、「自分たちが鳴らしたいもの」と「ファンが欲しいもの」のど真ん中だけを撃ち抜くような、捨て曲なしの超高性能なパンクロックアルバムになっていることが、まずひとつ。
そしてもうひとつは、「強く思ったこと=歌いたいこと」であり、その「歌いたいこと」の間に優劣をつけないバンドである、というヤバイTシャツ屋さんの特性が、最もクリアに、隅から隅まで表れたアルバムになっていることだ。
「ネコ飼いたい」とか「喜志駅周辺なんもない」などの「そんなこと歌にしてどうする」ということをテーマにする、それがヤバイTシャツ屋さんの大きな個性のひとつだが、そもそもこやまたくやは、なぜそういうことを歌にするのか。英語で歌うとか、なんかそれらしい、かっこいいことを歌うとかが、イヤだったからだ。
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