SF界からも注目の漫画家・道満晴明!宇宙の果てで描くダイバーシティとは?

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2020.1.19

バビロンまでは何光年?

文=宮田文久 編集=森田真規


成人マンガと一般マンガのあわいで長らく活躍し、そのユニークな想像力で今やSF界からも注目を集める漫画家・道満晴明。2019年9月に発売された彼の最新作『バビロンまでは何光年?』は、宇宙の果てを舞台に個性あふれる3人組がポンコツ宇宙船で旅する物語だ。そこで描かれているのは荒唐無稽なお話に見えながらも、私たちが過ごすしまりのない日常と地続きかと思ってしまう“何か”がある。この不思議なスケールのSF彷徨記のガイドとなるようなレビューをお届けします。

このくだらない日常は、きっと宇宙の果てにつながっている

とことんくだらないのに、やがて痛切な詩情が強く胸を打つ。道満晴明の最新作『バビロンまでは何光年?』は、氏のマンガの魅力を改めて私たちに伝えてくれる。

消滅した地球最後の生き残りにして、記憶のほとんどを失っているバブ。たまに見せるジト目が愛らしい2.5頭身キャラ・ホッパー。そして機械生命体ジャンクヒープ。彼ら3人組はポンコツ宇宙船に乗って、星から星へと彷徨(ほうこう)する。

氏の他の多くの作品と同じく連作短編で描かれる3人組の道中は、ときに脱力感にあふれたエピソードで、ときにスラップスティックな描写で、フッと笑わせてくれる。

エロ目的で降り立った星では乳首から陰核まで徒歩10分かかる巨大生物に翻弄され、回転寿司を食おうとすれば、宇宙一の長さを誇るレーンに乗って、119万年前に握られたネタがやってくる。宇宙船が故障すれば、狭い修理箇所のためにバブは首だけにされて歩き出すし、バブは途中から男にも女にもなる。そうしたたいがいの無茶は、ナノマシンが解決してくれる。

そんな珍道中は、いつしか宇宙の神秘にたどり着く。

そして神秘は、旅の途中で描かれてきたような、あるいは読者である私たちが過ごすしまりのない日常と、隣り合わせになっている。だから、グッと胸に刺さるのだ。

成人マンガと一般マンガのあわいで、長らく人々の心を掴んできた氏の世界は、おそらくはグズグズ、ダラダラとした日々への賛歌であるし、そこで描かれているキャラクターたちは、世の中がダイバーシティと言い出すずっと前から、それぞれに奇妙な生や欲望を抱えたままで、ゆるゆると並存していた。

『よりぬき水爆さん』に収録された、氏の若いころの日々を描くエッセイマンガ「日なたの窓に憧れて」では、氏と周囲の人物の見た目は、珍妙なフリークスのようになることさえあった。そのフリークスが、池袋や秋葉原をフラフラと徘徊する様子は、『バビロンまでは何光年?』の宇宙と、きっと地続きになっている。

ページに描かれたよくわからない生き物たちの姿を見れば、実は身に覚えがあるはずなのだ。まともに生きているふりをして、実はグニャグニャとして不定形な私たちの現身(うつしみ)。それがやがて、宇宙の果てで、大切なものに気づくとしたら――。

SF界からも注目を浴びる氏の想像力は、こうしていつだって、読む者の胸に火を灯してくれる。この日常からバビロンまでは、あと何光年なのだろう、と。


道満晴明『バビロンまでは何光年?』 630 円(税別) 秋田書店


宮田文久

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