冷やし中華の「終わり」を見届ける
日曜日、起きてみるともう昼だ。片づけないといけない仕事もいくつかあるし、今日は家で過ごすことにするか。とはいえ、ずっと家の中っていうのもつまらないしなぁ、と、そこで近所の町中華巡りのことを思い出したのだ。洗面台の前に立つ。鏡に写っているのは寝ぼけた顔だが、マスクさえすれば半分は隠れる。よし、もうこのまま外に出よう。
「中華、中華……」と頭の中で繰り返しながら家の近くを歩き回る。どこにあったっけな、と考えるうちにひとつ思い出した店があり、そこへ向かうことにした。
「パーサイラーメン」という麺料理が名物の店で、だいぶ前に一度、食べに来たことがある。
カウンター前に数席、そしてふたつのテーブル席が設置された店内にはご常連らしき先客がちらほら。私はふたりがけのテーブル席に通してもらい、瓶ビールとパーサイラーメンを注文する。パーサイラーメンには「0辛」から「5辛」まで辛さのレベルがあり、「辛さはどうしますか?」とオーダー時に聞かれる。壁のメニュー表に「1辛…チョビッと辛いです」「2辛…通常提供中辛」「3辛…辛いのOK!! 激辛」と書いてあるのを見て、通常提供だという2辛にしてもらうことに。
キムチを食べつつビールを飲んでいると、テーブル席で食事をしていた家族連れがお会計をして出ていくところだ。久しぶりに来店したようで「お姉ちゃん、背え伸びたなー!」とお店の方が言っている。「久々に食べれてよかったー! また来ます」と去っていくお客さん。家族みんなで来れるようななじみの店があるっていいよな、と思う。
さあ来たぞ、パーサイラーメン。
ひと口すする。ああ、うまい! そしてめちゃくちゃ辛い! たまらない!
汗がタラタラと流れる。それを見たお店の方が「辛いでしょ! 大丈夫!? 『1辛』をおすすめすればよかったねえ。ごめんねぇ」と言ってくださる。「いや、おいしいです!」と、闘志を燃やす! しかし、舌も燃えそうだ!
近くに座っていたご常連さんが笑いながら「『2辛』でこれだけやったら、『3辛』ってどうなんのやろね」という。その方もまだ「2辛」までしか食べたことがないらしかった。
たまにビールで口の中を冷やしながら、なんとか食べ切った。辛い物が好きな人ならちょうどいいぐらいなのかもしれないが、私にとってはなかなかにハードであった。しかしおいしい。
食べ終えて放心したままぼーっと前方を眺めていると、店主が歩いてきて、前の壁に貼られていた「冷麺セット」と「冷やし中華」のメニューを剥がしている。「冷やし中華はじめました」は暑い季節の始まりを告げる定番のセリフだけど、こうやって「冷やし中華の終わり」を見届けられるというのは貴重なのではないだろうか。今、目の前で夏が終わった。
汗だくの私だけが夏を引きずったようにして外へ出た。帰宅して扇風機を浴びながらもうひと眠りする。気づけばもう夕方である。