パリの京大生に聞いた仏ラップ事情「HIPHOPは夢をつかむ最大の手段」

2020.1.21

文=川口ミリ


ラッパーの多くが旧植民地のアフリカ各国にルーツを持ち、そのルーツを自身の曲に落とし込む。そんな “多様性”を地で行くフランス語ラップについて、この取材記事を書いたのは2017年のこと。記事中で紹介したラッパーのうち、当時弱冠22歳で大人気だったMHDは今なんと殺人容疑で拘束中…。一方でMaître Gims、Boobaらは、変わらず第一線で活躍している。巷でじわじわ注目を集めるこの音楽ジャンルの入門編として、ぜひ読んでみて。

※本記事は、2017年1月7日に発売された『クイック・ジャパン』本誌vol.129掲載のコラムを転載したものです。


「俺はムスリムだけど、それが何?」

フランスで有数の治安が悪い街が、パリと空港の間にある。名をサン=ドニという。

平成生まれの京都大学院生・山下泰幸はパリ留学中、自身の研究テーマであるムスリムの日常を知りたいという理由で、移民1〜3世が多いサン=ドニにあえて居を構えた。

この郊外の街はHIPHOPの中心地だ。90年代の伝説的ラップグループ、SuprêmeNTM(シュプレームNTM)もここで生まれた。ラップ・フランセ=フランス語ラップの「今」を一時帰国中の山下に聞く。


――フランスで今、ラップは人気ですか?

山下 人気です。そもそもフランスはアメリカに次ぐ第2のHIPHOP市場だといわれています。90年代中頃が名実ともに最盛期で、続く不振の時期を経て、ここ数年で再び盛り上がってきた印象です。

――なぜでしょう?

山下 都市郊外の若者の苦しみや社会に対する怒りを代弁するような、政治的メッセージのある曲が増えてきたからだと思います。貧しく治安が悪い郊外の街から人気に火がついたラップ・フランセに「直接的な政治批判」は不可欠。だから逆に人気低迷期は、過激なだけのギャングスタラップやエレクトロラップなど商業的な曲が目立ちました。

――今はどんなジャンルのラップが流行っていますか?

山下 最近よくアフリカ系のアーティストが自身のルーツであるアフリカ音楽を採り入れた曲がヒットしています。こうした曲の人気が今ほど高まるのは史上初だと思います。

――興味深いですね。

山下 たとえばコンゴ系のMaître Gims(メートル・ギムス)。コンゴルンバに影響を受け、コンゴで話されるリンガラ語をリフレインに用いた曲「Sapés comme jamais」が大ヒットしました。あとはMHD(エムアッシュデ)。セネガルとギニアがルーツの21歳で、アフリカ音楽とトラップ(ハードコア・ラップの一種)のMIXの新ジャンル「アフロトラップ」を生み出し、一躍有名に。このブームを受け、知名度ナンバーワンの人気ラッパーBoobaもアフリカ色を出し始めています。

――ムスリムのラッパーは多いですか?

山下 大半のラッパーがムスリムです。しかも近年、信仰を前面に押し出すラッパーが増えています。リリックにアラビア語を用い、黒いひげをはやしてムスリムとひと目でわかる風貌にする。背景には欧米社会における、イスラム教に対する差別や偏見の高まりがあります。「俺はムスリムだけど、それが何?」という態度をとり、一方的な差別に抗議しているのだと思います。Kery James、Abd al Malik(アブドゥ・アル・マリク)、ALI、中でも個人的なイチオシはMédine(メディーヌ)です。ゴリゴリのムスリム的風貌と過激なリリックで、若者の怒りを煽っていると批判されることもあります。でも言動をよく見ると、ムスリムのイメージを改善しようと尽力していることがわかります。

――仏ラップの最新事情がよくわかりました。

山下 仏ラップを聴きはじめたのは留学中でした。サン=ドニでは、ストリート系の服を着て、ラップを聴いていない人はダサいとされるから(笑)。でもまじめな話、フランスの都市郊外の若者にとって、ラップはサッカーに並ぶ、夢をつかむための最大の手段。大切なカルチャーです。


ラップは80年代、ほぼ同時にフランスと日本に入り、真逆の浸透の仕方をした。日本では当初、東京のクールでリッチな若者が好むスノッブなカルチャーだったそうだ。一方は郊外から都市へ、一方は都市から郊外へ。

仏ラップ最初期の先駆者・Lionel Dは、ラップにおいては、リズムとフロウこそが「世界共通語」であり「新世紀におけるエスペラント」と言ったそう。フランス語がわからなくても、仏ラップ、ぜひ聴いてみてほしい。

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川口ミリ

(かわぐち・みり)編集・執筆。1987年生まれ。映画誌、ライフスタイル誌の編集部を経て、2016年からフリー。

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