私たちも目撃したものを通して作品を「創っている」
たとえば岩井秀人が「さとしさんはタンポポのような人だと思っています。なので、女性らしさではなく、普段のさとしさんのさとしさんらしさを大切に演じてほしい」ということを口にしたとき。松本穂香が「人間ならざるもの」を迫真の佇まいでダイナミックに響かせたとき。老人に扮したユースケ・サンタマリアの語りが、音楽が流れることで口調もろとも一変したとき。橋本さとしがセリフの読み間違いをすることで、極めて人間的な豊かさが派生したとき。

すべて、「立ち会えた」という歓びがみなぎった。これが演劇を体験するということなのではないか。大道具もなければ小道具もない。衣装も美術もない。しかし、それが芝居たり得ていたのは、3人の演技者の本気のみならず、私たち観客の本気の眼差しと想像、さらに言えば「組み立て力」があったからだ。
最低限の簡素なフォームの先に、それぞれオリジナルな人物が「立ち上がってくる」様を体感し、幻視する。それが私たちの「組み立て力」である。この力は、生のパフォーマンスが観る者の心に直接語りかけることによってしか、作動しない。

どんなに完成されているように見える演劇も、たとえば映画などの映像メディアに比べたら、そこにはないものを補完し、隙間を埋める作業が観客に必要とされる。演劇の観客には備わっているこの「組み立て力」が、裏側に見せかけて、実は堂々と演劇の表側を紡いだ岩井秀人の企みによって、鮮やかに作動した夜だった。
役者たちがその場で芝居を「創る」のと同じ純度で、私たちも目撃したものを通して作品を「創っている」のだ。
コロナに配慮した、通常と異なる演劇空間だったからこそ、芝居というものに向き合う意味があった。客席数は制限されていた。しかし、生身の人間が演じ、生身の人間がそうして受け取った表現を「組み立てる」演劇は、やはり、私たちが生きる上で必要な、脳の潤いであり、みずみずしい刺激なのだと痛感した。
こんなときだからこそ、私たちは自分の心で「組み立てる」ことを、欲している。

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岩井秀人(WARE)プロデュース 第3回『いきなり本読み!』
2020年8月1日(土)、2日(日) ※イベント終了
場所:本多劇場
出演:進行・演出/岩井秀人
出演(8月1日):ユースケ・サンタマリア、松本穂香、橋本さとし
出演(8月2日):荒川良々、黒木華、古舘寛治
主催:株式会社WARE※8月17日(月)から9月6日(日)までチケット販売プラットフォーム・ZAIKOで本公演が配信されています。
詳しくは下記をご覧ください。
第3回「いきなり本読み!」|ローチケ[ローソンチケット] 演劇チケット情報・販売・予約関連リンク
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