遅く起きた日曜日に、近所の喫茶店に初めて行ってみる(スズキナオ)

2020.7.5


6月の大阪はだいぶ活気が戻っているように思えた

あったあった。「パドレ」だ。この「パ!ド!レ!」って感じのひさしがいいんだ。いいなっていつも思ってたけど、ずっと通過するだけだった。

この店の前も幾度となく歩いてきた

こちらはさっきよりも広めの店内。窓が大きく、日が差して明るい。窓際の席に座らせてもらい、ホットコーヒーを注文。さっき飲んだばかりだが、なんせ1日に最低5杯は必要らしいからな。

「パドレ」のホットコーヒーも一杯350円

窓から外を見ると、通りを挟んだ向こうの薬局の前に白衣を着た人がジョウロを持って出て、店先の植木に水をやっている。そして水をやり終わったと思ったら、ほどなくして薬局のシャッターが降ろされた。今日の最後のひと仕事だったのか。

コーヒーを運んできてくれたお店のママが「蒸し暑いねえ、今日は」と言う。「ですねえ。夜から雨が降るらしいですね」「うん。雨や言うてたねえ」と言葉を交わす。

私の他には客がいない時間で、店の奥に置かれたテレビ画面にはプロ野球の無観客試合が映し出されている。時計を見ると、もう16時近い。おやつを食べてもいいだろうと思い、メニューのなかからアイスクリームを追加で頼む。

アイスクリームは370円

なかなか量のあるバニラアイス。上にメロン味のシロップがかかっている。さっぱりしていてうまい。コーヒーとアイスを交互に味わう。最高だな。コーヒーの味、さっきの店より酸味が少しあるような、いや、ないような。わかんない。それにしてもコーヒーでもアイスクリームでも、パッと写真を撮ったときのおさまりがいい。絵になるというか。喫茶店を写したフォトジェニックな写真を見慣れているからか。それともそもそもコーヒーやデザートいうものたちの存在自体に愛嬌があるからだろうか。居酒屋で頼んだマグロぶつとか湯豆腐とかを写真に撮ってもこんなふうに思えないのにな。

お会計時に「喫茶店が好きなん? 写真撮って歩いてるの?」と話しかけられ、「ええ、ああ、まあ」と、モゴモゴしながら少しお話を聞いた。「パドレ」は開業から43年になるそうで、開店当初のこの辺りは、どの路地に折れても喫茶店が3軒並んでいるのが見えたほど喫茶店だらけの土地だったそう。それが時代が進むにつれてどんどんなくなり、今は「こことすぐ近くのもう1軒ぐらいやねぇ」と言う。「蒸し暑いから倒れんようになぁ。ほどほどにしときやぁ」と送り出されてみると、今日は徹底的に「喫茶めぐり」の人となり、せめてもう1軒ぐらいは行かねばと思い始めた。

とはいえ、ママの言うとおり、その近辺にはもう喫茶店が見つからず、だいぶ歩いて天神橋筋商店街までやってきてしまった。長くつづくアーケード街がいつも賑やかなこの辺り。4月、5月辺りは閑散としていたようだが、すでにだいぶ活気が戻っているように思える。

高橋克典のサインが飾られていた喫茶店


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スズキナオ

大阪在住のフリーライター。「デイリーポータルZ」「メシ通」等のWEBメディアで記事を書いている。酒とラーメンが好き。パリッコとの飲酒ユニット「酒の穴」としても活動中。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)など。

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