アダム・ドライバーという時代――『デッド・ドント・ダイ』で表出した稀有な資質

2020.6.5

Abbot Genser / Focus Features (c) 2019 Image Eleven Productions Inc.
文=相田冬二 編集=森田真規


緊急事態宣言が解除された今、いよいよ映画館でも新作が封切られ始めている。6月5日公開作の中で注目すべきは、あのジム・ジャームッシュ監督が撮ったゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』だ。

主演ビル・マーレイもよいけれど、刮目したいのがジャームッシュとは『パターソン』でも組んだアダム・ドライバーである。スター・ウォーズ最終3部作でも好演を見せ、時代の寵児とも言える彼の魅力とは――。


合衆国が誇る名立たる映画作家群を総なめ

ジム・ジャームッシュ監督が彼ならではのアプローチで創り上げたユニーク極まりないゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』。アダム・ドライバーはここで主演ビル・マーレイの相棒役を務め、小さな田舎町で起きたゾンビ珍事件に対処する警官を独特の無表情のまま体現している。何が起きても動じない。という意味では、マーレイも相当な無表情ぶりなのだが、ドライバーの相貌は、かの喜劇王バスター・キートンがそう形容されたように「デッドパン(死んだ顔)」と呼ぶべき次元へと到達している。

主演ビル・マーレイとアダム・ドライバーの無表情対決にも注目したい
(c)2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.

「死者は死なない」と題された映画で、「生きている死者」たちを相手にする警官が、その「死者」たち以上に「死んだ顔」をしているーーこの究極の皮肉はジャームッシュが仕かけた演出というよりは、アダム・ドライバーという時代の寵児にもともと備わっている稀有な資質が表出した結果だろう。

『デッド・ドント・ダイ』予告編

世界人口的には『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』『スカイウォーカーの夜明け』のスター・ウォーズ最終3部作で悪役カイロ・レンを演じたことで記憶されているのかもしれないこの俳優は、その他のフィルモグラフィこそが壮観だ。

キャリアのすごさは、組んだ監督名を列挙するだけでよくわかる。ノア・バームバック(3本)、ジャームッシュ(2本)、マーティン・スコセッシ、スティーブン・ソダーバーグ、テリー・ギリアム、スパイク・リー。ここに初期の端役とはいえコーエン兄弟をプラスすれば、ほとんど合衆国が誇る映画作家群を総なめしつつある、と言って過言ではない。

とりわけ重要なのは、スコセッシの『沈黙-サイレンス-』とギリアムの『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』はいずれも監督の永年の夢がついに実現した念願作であるということ。さらにソダーバーグの『ローガン・ラッキー』は引退宣言後の沈黙の果ての帰還作であったこと。『ブラック・クランズマン』はスパイク・リーの気概が完全復活した力作(ドライバーもオスカーにノミネートされた)だったことだ。念願、帰還、復活。つまり、ここぞというとき、頼りにされる男がアダム・ドライバーというわけだ。

複雑化する現代アメリカで求められる“顔”


この記事の画像(全14枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

相田冬二

Written by

相田冬二

(あいだ・とうじ)ライター、ノベライザー、映画批評家。2020年4月30日、Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』をスタート。国内の稀有な演じ手を毎回ひとりずつ取り上げ、縦横無尽に語っている。ジャズ的な即興による言葉のセッションは6時間以上に及ぶことも。2020年10月、著作『舞台上..

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太