胎盤を食べる母ヤギの姿を見て考えたこと

2020.1.15

文=三浦咲恵


アムステルダム森林公園内のヤギ牧場で、産まれたばかりのヤギが何度も挑戦し、ふらふらしながらもついに立ち上がった。その横ではなんと、母ヤギが”己の胎盤”をむしゃむしゃと食べていた……。

オランダ在住のフォトグラファー・三浦咲恵さんがヤギの出産を通して、生命の誕生について考える。


アムステルダム、ヤギ、胎盤

プルプルで、ふわふわだった。干し草の香りが鼻に抜ける中、その頼りない4本の足で、小さな白い生き物は生まれて初めて自分の力で立とうとしていた。周りの人間たちが固唾を飲んで見守る中、彼は何度も何度も挑戦し、そしてついにある瞬間……立ったのだ。彼のつぶらで真っ直ぐな瞳を見て、私の心が静かに震えた。

ここはオランダ、アムステルダム森林公園内にあるヤギ牧場だ。

公園で昼寝をしたりボートを漕ぐのに飽きたら、いつでもヤギと戯れることができる。入場無料だしヤギはかわいいしなによりそこで作られているヤギ乳ソフトクリームが死ぬほど美味い。そんなわけで今回もヤギ乳ソフトに釣られてのん気にやってきた私は、予想外に冒頭のエモい場面に遭遇する。出産シーズンなのか、牧場には生後1週間以内の赤ちゃんヤギが大量にいたのだ。

その中にはまだ毛が赤く濡れてプルプルしている“さっき産まれました”な子もいてなんとも目頭が熱くなる。しかもその横には“さっき産みました”という母ヤギがいるではないか。局部から血が出たままだったのですぐにわかった。痛かっただろう、すごいな……(ブルブル)と出産経験がない私は尊敬の眼差しで母ヤギを見つめていた。が次の瞬間、母ヤギがむしゃむしゃ食べているものを見て息を飲むことになる。己の胎盤だった。

数分後に飼育員のおっちゃんに発見されて母ヤギはあっさり胎盤を取り上げられてしまうが、その光景はしばらく頭から離れなかった。青紫色のプルプルの胎盤……それを本能で食べようとする母親。それもそのはず、出産は“全治8カ月の大怪我”と比喩されるほど身体へのダメージが大きいものだ。少しでも早く回復する為、栄養たっぷりの胎盤を食べるのは理にかなっている。

ひと昔前までは日本でも当たり前のように食べられていた胎盤……一体どんな味なんだろうか……などとぼんやり考えていた2週間後、あっさりと私の妊娠が発覚する。そして追い打ち(?)をかけるように、オランダでは出産後「胎盤どうする(食べる)?」という質問が普通になされるくらい胎盤食が割とメジャーであると知った。夫は全力でイヤイヤ反応を示しているが、これはそういうフラグなのだろうか?

まぁでもひとまずは新しい生命の誕生を祝福しよう。あの母ヤギの如く、命がけの出産に挑もう。見ず知らずの子ヤギを見て泣きそうになった私は、自らの子供を見たときにどうなるのか今から楽しみだ。


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三浦咲恵

(みうら・さきえ)1988年生まれ、大分県出身の写真家。サンフランシスコと東京を経て、現在オランダ・アムステルダム在住。文章を書くのが好きです。 http://www.sakiemiura.com/

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