ラジオがラジオであるために。緊急事態の今だからこそ見直すべきこと(五戸美樹)

2020.5.13

在宅生放送ができる番組のパターン

生放送で出演者が在宅放送をしている番組もあります。たとえば、ニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』。星野さんは家にいながら、スタジオにあるカメラでスタッフの動きを確認し、手元のタッチパネルで番組宛てのメールを見ながら話しています。

しかしこれは“超イレギュラー”なパターン。放送作家がスタンバイをやってくれていること、作家が中に入れるほど人員に余裕があること、作家が話せる人材であること、カメラやタッチパネルを入れる予算があること。こういった条件がすべてそろっていることで可能になっています。

たとえば、私が担当している文化放送『走れ!歌謡曲』は、スタッフがふたりしかいません。ディレクターがミキサー(音の調整)を兼ね、ADが作家を兼ねています。どちらかがスタンバイ業務をしたら、誰もメールを見る端末を開けなくなってしまいます。

スタッフが豊富にいても、在宅放送が難しい場合は多々あります。電話中継では音が悪いので、長い番組では時間がもちません。今はZoomやSkypeなど、ネット環境さえあれば生中継する方法は複数ありますが、感染者が出てからの対応ではテストする時間もありませんし、そもそも出演者の家のWi-Fi環境が整っていないとできません。

映像メディアは、多少音が飛んでも、映像が補完してくれます。音声メディアは、音が飛んだらもう聴いていられないくらい不快です。テレビとラジオは特性が全然違うのです。

ほかにも、たとえば出演者の家の近くで工事を行っている場合、うるさくて放送になりません。

顕在化した問題点

とはいえ、出演者がふたりいる番組は、どちらかは在宅でできるはずです。ふたりのうちひとりをテレワークにしている番組も増えてきましたが、まだまだふたりともスタジオに来ている番組も多いです。それに、収録番組なのに、平常時と同じ収録をしている番組もあります。メディアとして、在宅勤務をしようと呼びかける側であるにもかかわらず、です。

これは、予算の問題と、放送局の制度の問題と、上司の性格の問題、それらが複雑に関わっていると思います。

まず予算の問題。制作費が少ないとスタッフも少人数制になりますので、新しいことをする余裕がありません。また、報道の人員やギャラをカットしている局もあります。いわゆる「泊まりデスク」をひとりにする放送局も増えてきました(以前はふたり以上いるのが常識でした)。

これは大きな問題で、報道部から感染者が出たら、もうまったくシフトが回らない状況になります。

また、報道部の人材を、社員ではなく、外部に頼む局も多くあります。そのこと自体は問題ありませんが、ギャラを大幅にカットすると、一般的に、よい人材が集まらなくなります。ラジオの報道部員なのにマスクをしていない人がいるのです。これは報道予算のカットと無関係ではないと考えます。

予算が厳しいのは重々承知していますが、今こそラジオ報道を見直すタイミングではないでしょうか。ラジオがラジオであるために。

放送局の制度の問題。これはラジオに限りませんが、ハンコが必要な業務や、ノートの手書きで引き継ぎをしている番組が多過ぎるのです。素材の搬入も、会社に出向いて納品する方法しか認めていない局も多いです。素材の編集ですら、社屋の中でやることを規定している局もあります。

上司の性格の問題。これもラジオに限りませんが、上司がITに詳しくない場合、オンラインミーティングの方法がわからないからという理由で、対面の打ち合わせを求められます。我々外部の人間は、“切られる”ことを恐れますので、簡単には断れません。

こういったさまざまな問題を抱えたまま緊急事態を迎えてしまったラジオ局こそ、緊急事態であるような気がしてしまいますが、今こそ問題を解決する絶好の機会と捉え、ラジオ報道を見直し、引き継ぎの電子化を進め、年齢層の高いスタッフもITを活用することができるようになるはずです。

コロナとの戦いの長期化に向けて、今、動き出す時がきました。

▶︎【総力特集】アフターコロナ
『QJWeb』では、カルチャーのためにできることを考え、取材をし、必要な情報を伝えるため、「アフターコロナ:新型コロナウイルス感染拡大以降の世界を生きる」という特集を組み、関連記事を公開しています。



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