なぜ芸能人の政治発言は批判される?『バリバラ』三拍子の風刺漫才から考える、3つの成功例

2020.5.7


三拍子の「募ったけど募集はしていない」漫才

ネタのテーマは、桜を見る会に安倍晋三の地元支援者が多数参加していた問題。政府が招待状を出す前に、自身の事務所が招待決定を通知する文書を送っていたことが発覚するも、答弁で自身は人選に関わっていないとして「幅広く募っているとの認識で、募集しているとの認識ではなかった」と発言していた件だ。

三拍子は、いつもどおりのツカミを披露しながら、ボケの高倉がこう切り出したのだ。

高倉:こういった三拍子のツカミの自己紹介ネタ、思いついた方は、ぜひEテレまで送ってください。
久保:勝手に送らないでください。募集フォームとかないんですよ。募集していないんです。
高倉:いや、募ってはいますけど、募集はしていません。
久保:安倍首相か、お前は! 国会で質問されてたでしょう。「募ったけど、募集している認識はありません」と。聞いたことないですか?
高倉:聞いたことはあるけど、耳にしたことはない。
久保:同じだよ!

このような具合に言い換えをつづけることで、ネタが進行していく。どう考えても無理すぎる言い訳のおもしろさを抽出し、その構造をネタにして、笑いを取る作品に昇華した。

政治的な題材を選びながら、あくまで“おもしろい漫才”を披露して笑いを取ることが可能だと示した三拍子は、バラエティにおける社会風刺の可能性を大きく広げたといえるだろう。

長寿番組『生活笑百科』にヒントがある?

『バラエティー生活笑百科』公式サイトより

『バリバラ桜を見る会』は、日常のいざこざを題材にした漫才から法律相談につなげる、約35年つづく人気番組『バラエティー生活笑百科』(NHK)のスタイルを踏襲している。ヘイトスピーチをはじめとした人種差別や、中絶・避妊手術を強制した世紀の悪法であった旧優生保護法など、その後のトークにまつわるテーマでネタを披露し、スタジオでトークが進行するという仕組みだ。

ネタはコメディアンが担当するものの、トークでは社会問題の当事者が自身の経験や見解を語るため、爆笑問題・太田光が指摘するところの「自身に関する文脈で政治性を表すのは自然」であることにつながっている。

導入としてコメディアンがネタを披露したあとに、社会的な問題が語られる。これだけで、ぐっと視聴者の間口が広がる。司会者や評論家のトークにただリアクションするだけのパネラーを配置するよりも、よっぽど有用ではないだろうか。そして、このスタイルは、さまざまな番組で応用が可能なはず。

バラエティにおいて社会風刺後進国だった日本が変わるためには、これらの番組や表現方法がヒントになるのかもしれない。




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