番組初期からつづく人気企画の基礎を作った男
ところで「世に広めたいゲームをただプレゼンするだけ」という趣旨で3年前に始まった「ゲーマーの異常な愛情」だが、そもそもは収録合間の雑談として水口健司ディレクターに僕がおすすめのソフトを紹介していたことに端を発する。
僕が『勇者30 SECOND』(※)というゲームがいかにおもしろいかを早口でまくしたてる様子を見た水口ディレクターが「これ、このまま企画になるんじゃねえの?」と提案、その場で「芸人が笑いを捨ててまじめにゲームを語る」というコンセプトが固まった。
※『勇者30 SECOND』
魔王が破滅の呪文を唱え終わるまでのたった30秒間でレベル上げやアイテムの購入を行い、ボスを倒さなければいけない超速アクションRPG。
そしてその数週間後に開かれた「ゲーム愛」を審査する若手芸人オーディションを見事突破したのが、この企画最初のプレゼンターでもあるヤマグチクエストというひとりの無名芸人であった。
まあ厳密に言うと酒井健太率いる酒井軍団構成員の柿本たいきという無名芸人も合格していたのだが、こちらは
“『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』が好きなんですけどぉ
僕、昔からマジで右と左がわからなくてぇ
遊ぶときは右手に赤いテープを左手に青いテープを貼ってもらって
道に迷ったときはお父さんに「赤!赤!次は青!」って指示されないと
操作できなかったんですよねぇ! ”
という、笑っていいのかどうかも微妙な「リアル右も左もわからない人」エピソードの強さだけで合格したオチ要員なので、今回は割愛させていただく。
話は戻ってヤマグチクエストだが、彼が合格した理由はオーディションに持ってくるゲームのチョイスがとにかく抜群だったからにほかならない。『moon』(※1)や『リンダキューブ』(※2)など、ゲーマーなら誰でも知っているけど普段ゲームをやらない人にはまったくわからないソフト選びが圧倒的にうまかった。
※1 『moon』
ラブデリックが開発した「アンチRPG」をテーマにしたRPG作品。勇者に殺されたアニマルや街の住人を救うことでラブを集めていく。
※2 『リンダキューブ』
巨大隕石の落下で8年後に消滅する星を舞台にしたハンティングRPG。プレイヤーは「箱舟計画」遂行のため動物の雄雌を各1匹ずつ集めていく。
素人には「へえ! こんな作品があるんだ!」という驚きを、ゲーマーには「そうそう! これを紹介してほしかったんだよ!」あるいは「アルピーってこんなことも知らねえのかよ、常識だろ」と優越感を与えられるラインナップ。この絶妙な塩梅こそが企画の肝だと僕は思っている。初期から現在までつづく人気コーナー「ゲーマーの異常な愛情」の形を作り上げたのはヤマグチクエストと言っても過言ではない。
そんな『勇者ああああ』の立役者のひとりでもあるヤマグチだが、2018年3月を最後に番組には一切出演していない。理由としては本人がさまざまなメディアでインタビューに応じているが、「スマホを盗まれたのがきっかけで個人情報やらデマやらをネットに流出させられて病んでしまったから」である。とはいえ今はすっかり回復しゲーム系の配信番組やコラムの執筆などで活躍しているので安心してほしい。
この2年間「ヤマグチクエストさんはもう番組に出ないんですか?」と死ぬほど聞かれた。MCであるアルコ&ピースも僕たちスタッフも彼に対して迷惑をかけられたなんて思いはひとつもない。だけどゲームタレントとしてせっかく再出発を始めたばかりの彼をわざわざ呼び出して過去のゴシップをほじくり返すのもなんだか意地悪な気がする。アルコ&ピースは弱者ではなく権力者をいじり倒しているときが一番輝く。「じゃあいじらなきゃいいじゃん」って思うかもしれないが、さんざんいろんな人への悪口で笑いを取ってきた番組として「身内にだけ優しい」なんてカッコ悪すぎる。
近い将来ヤマグチクエストが成長してしょうもないゴシップじゃビクともしないぐらいのゲームタレントになったらこちらから「すいません! 番組に出てください!」とオファーをかけにいくだろう。そのときフルスイングでいじれるように僕のスマホには騒動時のあれこれがスクリーンショットとして保存されている。
だから僕もスマホを盗まれないように気をつけないと、である 。