関東優位の『キングオブコント2026』でジェラードンが見せた“原初のお笑い”の破壊力

文=奥森皐月 編集=高橋千里


年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、22歳・タレントの奥森皐月。今回は、10月17日に決勝戦が放送された『キングオブコント2026』を振り返る。

「敗者復活戦の導入」という初の試み

コント日本一を決める大会『キングオブコント2026』が10月17日に放送された。

『キングオブコント』は10月の決勝戦に向けて毎年夏に予選大会がある。今年は準決勝進出メンバーがそろった時点で、とある「大改革」が発表された。

それは19回目にして初の試み、敗者復活戦の導入である。

「『M-1グランプリ』と同じシステムになる」といってしまえば簡単だが、『キングオブコント』において敗者復活戦を開催することは不可能かと思われていた。

決勝と同日開催となればなおさらだ。漫才と違って、コントはセット・衣装・音響など準備するものが圧倒的に多い。

敗者復活戦を行うということは、敗者復活戦でのネタに加え、それぞれが決勝に勝ち上がったとき用のネタの準備をする必要がある。

そして、もし決勝の上位3組に残った場合はさらにもう1本ネタを披露する。つまり、敗者復活用・決勝用・決勝の決勝用の3本×10組分のネタを用意するわけだ。

しかし、勝ち上がれるのは1組のみ。用意した大半のセットや衣装は使われないまま終わる。

さすがにそんな大変なことはしないか……と思っていたが、敗者復活戦のMC中の会話を聞く限り、どうやら本当に用意していたらしい。

この表現が正しいかわからないが、とてもコスパが悪いと思う。それを百も承知の上で開催したのは、番組のコント愛と芸人さんへのリスペクトの表れだと受け取った。

敗者復活戦に進出した10組中6組が「トリオ」

2020年より『キングオブコント』は、『お笑いの日』内で放送されるようになった。

例年はコラボネタ企画や『ザ・ベストワン』などのあとに放送されていたが、今年は『キングオブコント』敗者復活戦→『芸人総選挙 お笑いの日ver.』→『キングオブコント』決勝戦という構成になり、決勝戦の放送枠は4時間に拡大された。

理由は不明だが、やけに『キングオブコント』に力を入れている。昨年大会が大好評だったから、もしくは昨年大会が大不評だったから、のどちらかの可能性が高そうだが、昨年大会も例年どおりの盛り上がりだった気がする。

なぜ今年はここまで気合いが入っていたのだろう。TBSの『キングオブコント』熱が急に高まったのだろうか。

(C)TBS

敗者復活戦に進出したのは、惜しくも決勝に届かなかった江戸川ジャンクジャンク、オフローズ、cacao、喫茶ムーン、しずる、生姜猫、スパイシーガーリック、そいつどいつ、ネルソンズ、破壊ありがとうの10組。10組中6組がトリオという、なかなか異例の並びだ。

『ロングコートダディのキングオブコントpodcast』にて「ふたりでできることがやり尽くされてきて、3人いないと新しいことができないのでは」という話が出ていたのだが、あながち事実なのではないかと思ってしまうほどの割合である。過半数がトリオ。トリオの時代、到来。

また半数以上が結成10年以下で、フレッシュな印象のあるメンバーがそろった。実力のある若手芸人さんが準決勝に残ることは多いが、決勝まで進めるのはほんのひと握り。

新しい風を吹かせるような芸人さんのネタが地上波でしっかりと見られる機会は少ないので、その意味で敗者復活戦を地上波で放送するのは素晴らしいと感じた。

芸人60名による審査に、敗者復活戦は大盛り上がり!

敗者復活戦の審査員は、準々決勝以上に進出した芸人さん60名。

『キングオブコント』といえば、2008年から2014年まで行われていた「芸人審査」と呼ばれる、ひな壇に座った100人の芸人さんによる審査だろう。いつか復活してほしいと心の隅で思っていたが、まさか敗者復活戦でその形式がよみがえるとは。

かまいたち濱家隆一さんとチョコレートプラネットのおふたりによるMCは、お笑い賞レースとしての緊張感もありながらお祭りのような盛り上がりもあって、観ていて楽しかった。

決勝と同じデザインなのに、すべてが赤色から青色に変更されたセットも、パラレルワールド感があっておもしろい。MCから審査員へのフリや、出場者と審査員のかけ合いなど、初期『キングオブコント』のような魅力をまた味わうことができて最高だった。

そしてなにより、敗者復活戦に出場した10組のネタすべてが本当におもしろかった。決勝に劣らない高いレベルのコントが連続して観られる幸せ。

先に「フレッシュなメンバー」とは書いたが、若手と真っ向から戦う、しずる・ネルソンズ・そいつどいつなどの先輩組がこれまたカッコよかった。

しずるが初めて『キングオブコント』決勝に進出したのは2009年。今回最年少だった生姜猫は、2009年当時は7歳だ。その2組が同じステージで戦うのは、『キングオブコント』ならではかもしれない。

個人的には、破壊ありがとうの『種』というネタが一番好きだった。

「モラの花」というパワーワードはもちろん、それぞれの絶妙なキャラクターと、これまでのコントにあまりなかった切り口がとてもいい。来年3月には単独ライブを7公演するとのことで楽しみだ。今後どんどんチケットの取れない単独になることだろう。

上位3組に残ったスパイシーガーリック、そいつどいつ、喫茶ムーンはそれぞれまったく系統の違うコントだったように思う。最終的には国民投票でスパイシーガーリックが復活したが、そいつどいつも喫茶ムーンも、次のネタを観たくなるおもしろさだった。

それでも、やはりスパイシーガーリックの『ビデオ判定』のネタは傑作だ。後半、ジョンさんの顔の寄りの映像がしばらく続いたあとに、片山(智勝)さんが着替えて別の役で出てくるところは非常にテレビコント的で、画面越しに見ているからこそのおもしろさがあった。

同様に、決勝で披露していた『ゾンビ』も、テレビで観ておもしろさが半減するどころか増幅するようなネタだと思う。来年以降も活躍が期待できるコンビだ。

決勝戦の審査員に加わった、ハナコ秋山とロングコートダディ堂前

今年から変わったことでいえば、決勝戦の審査員が新たに2名加わり、7人体制になった。

2021年より審査員を務める、東京03・飯塚悟志さん、バイきんぐ・小峠英二さん、ロバート秋山竜次さん、かまいたち山内健司さん、2024年から審査員に加わったシソンヌじろうさんは続投。

そして今年から新たに、ハナコ秋山寛貴さん、ロングコートダディ堂前透さんが加わった。

昨年までの審査員の最年少は山内さんだったが、ハナコ秋山さんはさらに10歳若い。審査員全体の平均年齢が下がるかたちとなった。

ハナコ秋山さんは『ABCお笑いグランプリ』で2年連続審査員を務めており、すでに審査員のイメージはあった。

一方の堂前さんは未知数だった。決勝に4回進出し、昨年ついに優勝できたため、最もファイナリストに近い目線で審査できる存在だと感じた。

ニッポンの社長や、や団は同時に決勝に進出したこともある、いわば戦友。そこをどのように審査するのか注目していた。

決勝進出経験組の中でも、ジェラードンとななまがりに注目

今大会のファイナリストは、相性はいいよね、蛙亭、元祖いちごちゃん、ザ・マミィ、ジェラードン、ダウ90000、ななまがり、ニッポンの社長、や団、ヤッホイ、スパイシーガーリックの11組。

決勝初進出は、『ツギクル芸人グランプリ』で優勝したばかりで勢いのある「相性はいいよね」、大会史上最多人数の8人組「ダウ90000」、ダークホース的立ち位置の「ヤッホイ」、そして敗者復活戦から勝ち上がった「スパイシーガーリック」の4組だ。

一方で、決勝進出回数最多タイの「ニッポンの社長」、5年連続決勝進出の「や団」、3年ぶりに決勝へ返り咲いた「蛙亭」という強豪も勝ち残った。

『M-1グランプリ』と違って芸歴制限のない『キングオブコント』は、ほとんどの組が優勝するまで出場し続ける。今年は、やはり過去に決勝進出経験のあるコンビ・トリオが強かった。

その中で特殊だったのは「ジェラードン」と「ななまがり」の2組だ。

ジェラードンは5年前に一度決勝に進出したが、そのあとトリオからコンビになった。グループ名こそそのままだが、コンビとして決勝に進出するのは今年が初めてだった。

ななまがりはいわゆる「返り咲き組」ではあるのだが、今回の決勝はなんと10年ぶり。これは『キングオブコント』の歴史でも最長のブランクらしい。

さまざまな大会でファイナリストになっているので忘れていたが、たしかにななまがりが『キングオブコント』決勝に出ていたのは10年前の1回だけだ。

VTRでの「10年で700本ネタを作った」というセリフには痺れた。あれだけ変なことをたくさんしているのにストイックなのが、ななまがりの魅力だ。

決勝で感じた「関東のお笑い」の優位性

今回の決勝大会を全編通して感じたことは「関東のお笑いが有力になってきている」ということだ。

決勝メンバーの11組中7組は“他事務所”と呼ばれる、吉本興業以外の事務所に所属している芸人さんだった。他事務所に所属する芸人さんのほとんどは東京を拠点としている。つまり「関東のお笑い」なのだ。

一方で2025年には、吉本興業初となるコントを中心とした常設劇場「YOSHIMOTO ROPPONGI THEATER(よしもと六本木シアター)」がオープンした。

大阪吉本の芸人さんの多くが東京に進出してきていることからも、賞レースに出場する若手(特にコント師)の活動拠点が関東に一極集中しているように感じる。

「関西のお笑い」といえば、やはりボケ・ツッコミがわかりやすく分かれているものをイメージする。今回の決勝戦では、その「ツッコミ」が存在しないネタが多かった。最終決戦に残ったジェラードン・蛙亭・ヤッホイの3組は、特に明確なツッコミのないネタだったと感じた。

ニワトリが先か卵が先かという話になるが、私はこの一因に審査員の刷新が影響しているのではないかと予想している。

2023年までは審査員長の立ち位置が松本人志さんだったが、それ以降現在までは飯塚悟志さんがその役割を担っている。明確に審査員長とはいわれていないが、座り順と芸歴から現状のトップは飯塚さんだ。

点数こそ各審査員で平等だが、放送後の反省会配信を見るに、複数のファイナリストが飯塚さんの点数やコメントを意識しているようだった。そのような背景も、より関東のお笑いが有利な状況を作り出しているような気がする。

同じく、反省会の配信でのニッポンの社長の辻クラシックさんのコメントが印象的だった。

「なぜ今年のコントは標準語でしゃべっていたのか?」という問いに対して、「今まで(決勝に)5回出て優勝できなかったのは関西弁が悪いのかな」「標準語の人ばっかりだった」と言っていたのだ。

もちろん、どこまで本心で言っているかはわからないが、やはり関東的なお笑いが優位になっている側面はあるのではないかと、これを見てまた感じた。

多様なお笑いが見せた「コント」の幅広さ

元祖いちごちゃんがトップバッターという狂気の出番順だったが、ありとあらゆるお笑いのかたちが見えるような素晴らしい大会だった。

特に、5分という限られた時間の中で8人それぞれの関係性を描いた洗練されたコントをダウ90000が披露し、その直後にふたりともが酔っ払いを演じた破壊力1000%のジェラードンが出てきたのには大笑いした。

革靴を耳にして舌を出してウサギになったアタック西本さんの強烈なルックスは、網膜に焼きついている。双方に同じ100点満点で点数をつけるというのは、あまりに酷な話だ。

でも、どれもこれもコントだという幅の広さを『キングオブコント』が見せてくれた。

審査の面では、堂前さんの点数のつけ方とコメントが特に素晴らしいと感じた。「“楽しい”と“おもしろい”は違う」「ケッショナイズ(決勝に向けて整える)」といった、印象的なフレーズを残しながら、きちんと自分なりの価値観を提示していた。

一見トガっていそうなヤッホイの泉さんも、反省会配信では堂前さんの審査コメントに対し「核心を突いていて、本当にありがたいことを言ってもらえた」と言っていた。

ファイナリスト当人に刺さる言葉をその場ですぐに出せるというのは、審査員として最も素晴らしい仕事のように思う。来年以降も堂前さんの審査を見てみたいと感じた。

個人的には、蛙亭のネタが2本とも最高だった。ふたりともクセのある役の演技の技術が凄まじく、そのかけ合わせの妙は蛙亭にしか生み出せないものだったと思う。2本目のネタは最後の最後まで裏切りがある、完成された素晴らしいコントだった。

しかし、その上でジェラードンは文句なしの優勝だったと思う。2本目のネタは特に“見た目がおもしろすぎる”という原初のお笑いに始まり、「今、君は何を思う!?」という強烈なフレーズも残した。

おもしろいのはもちろん、マネしたくなるようなフレーズや、記憶に残る景色を見せるコントは優勝する傾向にある。

「今、君は何を思う!?」が小学校で流行っている、という投稿をSNSで見かけてほっこりした。それこそがお笑いの魅力だろう。

『キングオブコント2026』ジェラードン
撮影=大野代樹(『キングオブコント採点&結果まとめ』より引用)

新しい『キングオブコント』は大正解

今後も敗者復活戦が継続するのかは不明だが、新たなかたちの『キングオブコント』は大正解だったのではないかと私は感じた。

年々おもしろい芸人さんとコントは増え続けているため、それを見られる場所が増えるのはありがたい。ついでに『キングオブコントの会』も復活してほしい。

新世代と常連組が切磋琢磨し、まだ見ぬお笑いが生まれる『キングオブコント』。来年以降も目が離せない。

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奥森皐月

(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入り。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」、『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動していた。現在は『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタ..