『孤独のグルメ』と『深夜食堂』
近年のエポックは、なんといっても松重豊主演『孤独のグルメ』(12年/テレビ東京)と小林薫主演『深夜食堂』(09年/TBSなど)の大ヒットだろう。前者はシリーズ化されて大晦日の特番を務めるほどになり、アジア各国で人気が沸騰した後者はNetflixオリジナルシリーズとして制作された新作が世界190カ国に配信された。
両作はグルメドラマのブームを巻き起こすとともに、「深夜ドラマの視聴者といえば若者」という固定概念を覆すことにも貢献。それまでの深夜ドラマは、いかにも若者が好みそうな恋愛ドラマや過激な設定のドラマが多かったが、『孤独のグルメ』と『深夜食堂』の成功以降、40代、50代までもターゲットに入れた落ち着いたテイストの深夜ドラマも制作されるようになった。
西島秀俊、内野聖陽主演で料理を軸に中年同性愛カップルの日常を描いた『きのう何食べた?』(19年/テレビ東京)もその流れのひとつ。ヒットメーカー安達奈緒子脚本による丁寧なドラマ作りとともに、プライムタイムのドラマで主演を張っているふたりが主演したことで、プライムタイムのドラマと深夜ドラマの垣根がなくなりつつあることを感じさせた。
2020年1月期では、野木亜紀子脚本で「レンタルおじさん」をモチーフにしながら複雑な関係の家族の愛情を描いた『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京)、グルメドラマと趣味ドラマと人情ドラマをバランスよくかけ合わせた『絶メシロード』(テレビ東京)という傑作が誕生。また、野心的な作品をラインナップするNHK「よるドラ」枠からは、前田敦子主演でRPGの形を借りながらワンオペ育児の壮絶さを描いた『伝説のお母さん』という話題作が生まれた。
4月期は、松重豊が猫の家政婦を演じる『きょうの猫村さん』(テレビ東京)、千葉雄大扮する光源氏が現代にやってきてOLと同居するラブコメディー『いいね!光源氏くん』(NHK)、乃木坂46主演で話題作の実写化に挑む『映像研には手を出すな!』(MBS)、安達祐実が本人役で登場して部屋のモノを捨てていく『捨ててよ、安達さん。』(テレビ東京)などの注目作が並ぶ。
新しいものの見方や価値観を提示
これまでのコミック原作ドラマ、アイドル主演ドラマ、恋愛ドラマ、アクションドラマ、グルメドラマに加え、ホームドラマ、日常系ドラマ、趣味ドラマ、ライフスタイルドラマなどの深夜ドラマとしては新しいジャンルの作品が生まれつづけている。近年の深夜ドラマが面白いと断言できる理由は、このような作品のスタイルやテーマの多様性にあると言える。時代の変化にいち早く応えたテーマ、モチーフの設定、新しいものの見方や価値観を提示できるのが深夜ドラマの特徴なのである。
『テセウスの船』、『恋はつづくよどこまでも』(共にTBS/2020年1月期)のような日本中を巻き込む大ヒット作にはならないまでも、ひっそり、じんわりと話題作を生みつづける深夜ドラマ。今後、どのような作品が放送されるのか、楽しみでならない。