何もないところに真紅のテントを建て、夜ごとその中で芝居を行い、興行が終われば釘一本も残さず立ち去っていく。不世出の劇作家・唐十郎の遺した「劇団唐組」は、唐が亡くなってから1年が経つ今も、「紅テント」を引っ提げて全国で公演を打っている。
時代にそぐわない、非効率的なスタイルで活動する「唐組」だが、近年は20〜30代の観客が増えており、劇団員にも若手が目立つ。そんな“今”の唐組を見届けるべく、昨年(2024年)のルポに続き、筆者は再びテントを訪れた。
今年4月に岡山県の河川敷で行われた公演の模様をレポートする。
岡山の河川敷に現れた、唐組の紅テント
岡山市の中心部を流れる一級河川・旭川は、沿岸に岡山城や桜並木といった観光スポットを持つ、岡山市民の憩いの場だ。その一角で毎年行われている『岡山河畔芸術祭』のプログラムのひとつとして、劇団唐組の公演が行われている。
今春かけられている演目は『紙芝居の絵の町で』。
2006年に初演された作品で、失われた紙芝居絵を追ってさまざまな人物が入り乱れる。戦中・戦後に育った唐の記憶を反映したかのような紙芝居というノスタルジックなモチーフに、介護、詐欺、労働といった現在形の問題が絡む予見的な作品だ。詩的なセリフと夢の論理のような展開を特徴とする唐の戯曲は、一度や二度観ても内容が理解できないが、今作は人物配置が明快で、初めて観るのにも適した作品かもしれない。
皮切りとなった神戸公演を終えた劇団は、そのままトラックに資材を積み込み、この岡山の地へやってきた。そして4日かけて紅テントを設営し、本番の日を迎える。







本番の日といっても、上演までにはまだまだ仕事がある。
テントの中に客が座るための平台とゴザを敷き、照明や音響のチェックをしつつ、各々セリフを読み合わせたり上演に向けた準備を進める。テント設営だけではなく音響、照明、客の誘導まで、すべて舞台に上がる役者が担う唐組では、座長代理の久保井研が「演じている時間は数%」というように、芝居よりも芝居の環境作りに費やす時間のほうが遥かに長い。
それが既存の劇場制度から離れ、紅テントにこだわる唐組の「運動」の内実だ。
岡山での2日間の公演も、当日券を含め多くの観客が集まり、紅テントの中で芝居を観るという経験を共有した。終盤で舞台の幕が開かれ、外の世界とつながる唐組名物「屋台崩し」では、旭川にかかる橋の上をちょうど路面電車がゆっくりと走っていくという、奇跡的な瞬間も見られた。
芝居の世界に現実が貫入するとともに、現実から見れば日常の中に突然芝居の世界が現れるというこの屋台崩しは、まさに唐の言う表現の「遠征と襲来」を象徴している。









現在、公演は折り返し地点を迎え、残すところ東京・花園神社、茨城・水戸芸術館、長野・長野市城山公園の3カ所となっている。特に茨城は13年ぶりの公演となる。
唐組の役者が疾走する姿をぜひ生で目撃してほしい。
劇団唐組 第75回公演『紙芝居の絵の町で』

【今後の公演場所・公演日程】
・東京都 花園神社:2025年5月31日(土)・6月1日(日)、5日(木)〜8日(日)
・茨城県 水戸芸術館 広場 特設紅テント:2025年6月14日(土)・15日(日)
・長野県 長野市城山公園 ふれあい広場:2025年6月21日(土)・22日(日)
時間:18時30分開場/19時開演
※当日券は午後2時より受付にて発行