年頃の娘とどう過ごす?“男の役割”から解放された父親芸人の育児論「ほんまに絶望していたときに…」

2024.4.25

文=於 ありさ 編集=高橋千里


サバンナの八木真澄とレイザーラモンHG。ふたりの共通点は、芸人でありながら2児の父親でもあるということ。サバンナ八木は10歳長男と7歳長女、レイザーラモンHGは16歳長男と13歳長女を育てている。

独創的なクリエイティビティが話題の『未確認生物図鑑』(ヨシモトブックス)を制作し、ラフォーレ原宿で『未確認生物の世界展』も開催中のふたりに、“父親芸人”としての苦悩や反省を聞いた。

サバンナ八木が息子に言われた「もう遊園地行きたくない」

おふたりとも2児の父親ですが、お子さんと関わるときに意識していることはありますか?

僕は東京に単身赴任していて、家族は大阪に住んでいるんですが、帰ったときは子供と一緒に楽しむっていうことを心がけています。

それは、お子さんから見ても楽しいでしょうね。

ただ、去年息子が「女王アリが欲しい」って言い出したときは困りました。女王アリって、そうそういるもんじゃないですよ。だから、2週間くらい、公園という公園に通って、グランドの端のほうとかを探し続けて……結果、見つかりませんでした。

お子さんは悲しんだのではないでしょうか?

それが、僕より先に飽きてしまっていたんですよね(笑)。最終的に「絶対獲りたい!」ってなったのは僕のほうで。

もはやそれは八木さんが楽しんでいるのでは?

本当にそうです。あと、子供は僕と一緒で生き物が好きなので、しながわ水族館の年パスを買ったんですけど、僕は「元取らなあかん!」って思っちゃって、何回も行ってます。

実際にそういうことは過去にもあったのでしょうか?

ひらパー(ひらかたパーク)の年パスも持っているんですけど、2月だけでもう5回も行ってて。

大雨のときも行くんですよね?

行くよ! 待ち時間少ないからお得やん!

(笑)

ひらパーに足しげく通う八木一家。元を取るため、2月だけで5回も……

でも、そうやってたくさん行かせているうちに、お化け屋敷を全然怖がらなくなってきて。最近は「もう遊園地行きたくない」って言い出してます(笑)。困りますよね、元取られへんから。

僕は、徹底的に自分自身の価値観を押しつけたいタイプなので、まだまだ連れて行きたいです。

お子さんに嫌がられない程度にしてくださいね……。

レイザーラモンHGは“マルセイユ推し”の娘と推し活

HGさんは、どのように過ごしていますか?

うちは娘と一緒に“推し活”しています。ちょっと前までは、BTSやNiziUのライブ配信を一緒に観たり、秋葉原にグッズを買いに行っていました。ただ、今はお笑いが好きみたいで……。

そうなん!?

今年の正月に時間があったんで、家族でお客さんとしてヨシモト∞ホールに行ったんです。そしたらマルセイユにハマっちゃって、今はマルセイユが出ているライブに一緒に行ったり、娘ひとりでも行っています。

大自然を満喫するHG一家。上の息子さんは高校生になったそう

HGさんとしては、娘さんがお笑いにハマることはうれしいのでしょうか?

うれしいですよ! 「芸人さんってすごいね」って言ってくれるようになって、とても誇らしいです。

それから、レイザーラモンの主催イベントにマルセイユが出てくれたときには「マルセイユさんが来てくれるなんてすごい!」って、僕への尊敬度が上がっていました(笑)。

それは楽屋に行って、マルセイユに会わせてあげたりするの?

いやいや、普通にお客さんとして行っているので、客席から観ているだけです。たまに本番中にイジられますけどね。「いや、HGさん来てますやん」って。

そりゃあ、後輩からしたらびっくりするもんな。

でも、客席で観るっていいですよ。お笑いって安いと2000円ぐらいで観られて、めっちゃ楽しませてくれますもん。

やっぱり生のお笑いは最高です! コスパフォー!!

よく「娘さんの彼氏が芸人だったらどうしますか?」みたいな質問に対し、否定的な方もいますが……。

別に娘も恋愛対象として見ているわけじゃなく、「マルセイユさんも早くいい人見つけて結婚してほしいな」って言ってるぐらいなので、気にしないですね。この職業がダメというのはないですし、芸人さんもいい人はたくさんいますよ。

たしかに、今の後輩たちはちゃんとしてるヤツらが多いもんな。

第一子出産後の過酷な半年間「炊飯器すらなかった」

もうパパ歴も長いですが、お子さんが生まれる前と後で感じたギャップはありますか?

僕は、ほんまになんにも考えてませんでした。アホみたいな話なんですけど、大阪のワンルームと東京の1DKの2拠点で暮らしていて、嫁が子供を産むってなっても「新幹線で(東京に)気軽に来たらいいやん」って言ってたくらい。

ええ……なかなか酷じゃないですか?

しかも、生まれたあとに知ったのですが、大阪で住んでいたワンルームが赤ちゃん禁止で。急いで引越しましたね。

それから炊飯器もなかったから、出産後半年くらいはずっと「こがらや」の出前を取ってたくらい。

え? 炊飯器がない?

うん。出産してからの情報が何もなくて。

普通は調べますよね。それに対して、奥さんと揉めたりは?

嫁もわかっていなかったんですよ。本来やったら、結婚したときに3LDKを借りて、子供部屋まで用意するのがベストやったと思うんですけど、そういうことをふたりとも知らんかった。常識がなかったんです。

お子さんが生まれると出費がかさむと思うのですが、さらにプラスしてお金がかかりそうですね。

そうなんですよ。引越しと出前のお金がかかったので。

え、でもそんなもんなんじゃないですか? HGは最初から3LDKに住むとか考えてた?

もちろん、結婚のタイミングでワンルームから引っ越しましたよ。

そうなんや! すごいな……!

大ケガをきっかけに「男は仕事・女は家庭」からの解放

HGさんは、お子さんが生まれる前後で感じたギャップはありましたか?

僕は2005年にブレイクして、結婚したのが2006年。そのときは絶好調だったので「男は外で働いて、奥さんは家に入って……」みたいな古い考えを持っていました。

それで、2008年に子供が生まれたんですけど、2009年に僕がプロレスの仕事で大ケガをしてしまって、一気に仕事がなくなったんです。

うわ〜、きついな……。

ほんまに絶望しました。そしたら、奥さんが「じゃあ私が働くわ」って言って、自分のツテでいろんな人に声かけて、プロデュース業をスタートさせて。

そこから才能に目覚めたんや!

そうなんですよ。今ではまつげエクステサロンとトリートメントサロンを都内に5店舗……。

5店舗!? すご!

でも、ケガをして絶望していたタイミングで「働くわ!」と言ってもらえたのは心強かったんじゃないでしょうか?

本当に。しかもさらに仕事がゼロになった僕に最初に仕事をくれたのが奥さんでした。プロデュース商品のパッケージのデザインをさせてもらったんです。そこから絵を描いたりする仕事が増えたんですよね。

そういう意味では「家族を支えるんだ!」って思っていたところから「自分も支えられているんだ」と思えるようにもなって、今はお互いに自由に仕事もできるようになりました。

奥さんすごいな、ほんと。

それに、生まれたタイミングで1年休んでいるので、子供と一緒にいる時間が増えたのも今思うとよかったですね。今もまだ一緒に遊んでくれるのは、あのときがあったからかなって。

たしかに、忙しいとなかなか一緒に過ごせないまま成長してしまいますもんね。

最初は本当に大変でしたよ。退院して間もないころ、パパとふたりになるとギャン泣きされて、ショックを受けました。一緒に過ごす時間って大切なんやって思いました。

今では子供の送り迎えをして、朝のジムに行ったあと仕事に行くという流れが僕のルーティンになっていますからね。

なんか、ほんまに理想的な家庭やな。奥さんもやし、HGもええパパしてるなと思うわ。

そうですか? 具体的にどういうところが?

いや、ほんまに! 理想のパパやで、マジで。僕は全然なんで。

具体的な話は出てこないんですね(笑)。

八木さんは、奥さんから「もっとこういうふうに協力して」と言われたりは?

うちは家事も育児も、ほぼ全部嫁がやっているのですが……もう僕は呆れられているので、何も言われません。

唯一言われたのは「私がもし、あんたより稼いだら、ビビるぐらい偉そうにするで」ってことくらい。

しかも、仕事のアドバイスもしてもらっているんですよね?

そう。番組やロケの前に相談したりして。営業のときのグッズも嫁に作ってもらってるし、もはや構成作家みたいになっています。

しかも、ロケがうまくいかなくて全然ダメだったときは「あんたはそれで呼ばれてんねんから、大丈夫やって」って励ましてもらってて。

メンタルケアまで!

めっちゃいいじゃないですか。そういう話を聞くと、八木さんってめちゃくちゃ奥さんのこと信頼されているなって思いますよ。

でも、何か才能がありそうですけどね、奥さん。物事を俯瞰で見る力があると思います。

たしかにな。いや、でもやっぱり子供が生まれてから思ったけど、女性は変わりますよ。強くなる。

普段から「ようやってくれてるな」とは思っていますけど、もっと感謝しなきゃなと思います。

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  • 『未確認生物図鑑』(ヨシモトブックス)

    八木がSNSで発信していた独創的な未知の生物のラフスケッチとひと言コメントをもとに、HGが描き上げた色鮮やかでチャーミングな100体の生物のイラストが、オールカラーで掲載されている。2024年4月2日から発売中

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  • 『未確認生物の世界展』

    2024年4月1日〜4月30日/11〜20時(30日は18時まで)
    ラフォーレ原宿「愛と狂気のマーケット」にて開催中

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於 ありさ

(おき・ありさ)ライター・インタビュアー。金融機関、編プロでの勤務を経て2018年よりフリーランスに。サンリオ・男性アイドル・テレビ・ラジオ・お笑い・サッカーが好き。マイメロディや推しに囲まれて暮らしている。

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