「こんな時代だからこそ、もっと話したほうがいい」
この人生相談連載「赤信号を渡ってしまう夜に」では、俳優・東出昌大が「すねに傷のある僕にしか話せないこと」を読者から募集し、応答していく。
連載第3回では、「進路選択」と「推し活」の悩みに答える。
#1:「大人ってちょっとずつ、建前のルールを破る」
#2:「仲よくなりたい相手には、利益を与える必要がある」
#3:“推し活”に思うこと「でも、好きになっちゃったらしょうがない」
“インプットモード”に切り替えたい
ドキュメンタリー映画『WILL』の公開や、YouTubeがスタートしたり、いろいろありましたが、最近はいかがお過ごしですか?
たしかにいろいろ表には出たんですが、基本的に生活に変わりはなく、だらだらとやってます。『WILL』も撮ったのはだいぶ前ですし、YouTubeチャンネルも撮り溜めたものを随時公開してもらってるので。
これからはインプットの期間に切り替えていこうと思っていて。だから当面はYouTubeはもちろん、ほかの取材も可能な限りお断りしています。
この連載が東出さんのリアルタイムの声を聞ける貴重な場になるってことですね。
そうやって宣伝していただければ(笑)。さっそく相談を見ていきましょう。
好きなことを仕事にする苦しさ
Letter No.05
私は、春から大学生で福祉系を学べる学部に通います。大学で学んだことを生かして福祉職として人の手助けをする道も勿論あるのですが、自分自身お芝居や音楽が大好きなのでその関連でイベントを企画するお仕事にもとても興味があります。
でも「好きな仕事に就けたからといって、想像しているほど簡単な事でも甘い事でも無い」と思うと、好きな事を取るのか安定した職に就いた方がいいのか……。
東出さんならば、どうやって進路を決断しますか?
安定ってお金のことだと思うんですが、知っておいてほしいのは、お金って生きる上でそこまで重要ではない、ということです。生活水準を落として、お金を極力使わないようにすれば、この国ではまだ、食うに困るってことはそんなにないはず。だから、安定だけで職を決めるのはちょっともったいないかな。
そもそも安定した仕事ってないと思うんです。福祉の現場でも、今後AIの発達などで、人間にできる仕事は減っていくかもしれない。現段階では安定していても、数年後にはどうなっているかわからないですよね。だったら一回きりの人生、好きを仕事にしてみたほうが後悔は残らないかもしれない。
“安定”というものは、判断基準にできるほどたしかなものじゃない。
ひとつの指針にはなりますけどね。たしかに僕も若いころはこの先食っていけるんだろうかって不安に思っていたので、相談者の方の気持ちはわかります。
でも僕は、結果的にいつも楽しそうな方向に流れてきて、それでよかったなと思ってます。人生においてどっちが正解だったかなんて、絶対的に言えるものではないじゃないですか。生きることってリスクそのものだから。だったら楽しそうな方向に行ってみるのもいいんじゃないかな。
では、この方には「芝居や音楽関連のイベント企画」の仕事を勧めますか。
最終的には本人が決めることなんで、そこまでは言えないです。あと、相談者の方もわかってるとおり、文化芸術を仕事にするのは非常に難しいです。
まず、この業界はとにかく忙しいですよね。もちろん改善されてきているけど、仕事の性質上どうしても特殊な働き方が必要になります。
でも忙しさ以上に苦しいのは「私の好きな業界はこんなはずじゃない」と感じること。アパレル業界で働く友人がよく言うんですけど、好きなブランドに就職できた人ほど、理想と現実のギャップに絶望して辞めていく。むしろそのブランドを別に好きじゃないパタンナーのほうが長続きするらしい。
そういうギャップがあることを知った上で、進路選択をしてほしいです。好きなことを仕事にする場合は、「実際はそんなもんなんだな」って受け入れられることが重要になってくる。まぁ、まだ若い子だろうから、一度思いきってやってみてもいいかもしれませんね。
推し活が終わっても人生は続く
Letter No.06
推し活についての悩みです。東出さんは推し活のご経験ありますか?私は今とても楽しく推し活をしています。人生でほぼ初めてに近い推し活で、そのために仕事を頑張り、気持ちよく「行ってらっしゃい」をしてもらうため家族を巻き込みながら笑、日々楽しい推し活をしています。
推し活することで、毎日張り合いがあるし、仲間からはエネルギーをもらったり、なかにはマウントしてくる人もいたりでちょっと嫌な思いもしますが、なんとか楽しく活動できています。
ただひとつ考えているのは、推し活を辞める時がくることです。推しが仕事を辞めたり、表に出てこなくなったり、私自身の興味が薄れてきたりすると、私ってどうなっちゃうんだろう…って。こんなに楽しい日々はもう来ないかも…なんて思って、他にも興味のあることをしたり、自分なりに毎日を充実させるようにと思ってるのですが。
東出さん、楽しい毎日を知ってしまった私ですが、大人なのでいつか終わりが来るとはわかっているので、この先どんな覚悟をしておけばいいでしょうか。
「いつか終わりが来るとはわかっている」とおっしゃっている時点で、別れへの覚悟はある程度できてるんじゃないかな。推し活が生きる支えになっているなら、今は「終わり」を頭の片隅で感じながらも、全力で楽しめばいいと思います。死ぬまでの暇つぶしを本気でやるのが人生だから。
東出さんって推し活とか否定的なのかな、と思ってました。
基本的に、人が本気でやっていることは否定しないです。僕が最近イヤだなって思うのが、「◯◯カス」って言葉なんですよ。タバコ好きな人を「ヤニカス」って言ったり、パチンコ好きな人を「パチンカス」って言うじゃないですか。もしかしたら「推しカス」みたいな言葉もあるかもしれない。
でも、別に好きでやってるならいいと思うんです。「パチンコ、タバコ、推し活なんて無駄だよ。人生を棒に振るよ」なんて、よけいなお世話だと思う。
父が昔言ってたんですよ、「酒もタバコも女もやらず、百まで生きた馬鹿がいる」って。
有名な都々逸(どどいつ)ですが、それをお父さんから聞くとなると、インパクトがあります。
パチンコもタバコも推し活も、はたから見れば無駄なことかもしれない。けど、その人が生きるために大事なことだったら、まわりがとやかく言うことではない。自分の後悔のないように続ければいいんじゃないかな。
ただ、他者に依存しすぎると、やっぱりいつか自分が苦しくなるから、あくまでも「推し」の範囲は守れるといいですよね。
まぁそんなこと頭でわかってても、湧き上がってくる気持ちは抑えられない。恋愛ってそういうものじゃないですか。終わりに向けて覚悟しておくなんて、できない。
いつか終わりが来たとき、胸は張り裂け、心が千々に砕けるかもしれない。でも好きになっちゃったら、もうそれはしょうがない。なので、今は精いっぱい楽しんでください。まぁ、推し活が終わっても人生は続くから、そのときにまた生きがいを探せば、絶対に見つかるから大丈夫です。
ちなみに東出さんは推し活したことありますか?
ないですね。僕は人が悪いんで、あんまり他人のことを信用しないんです。特にエンタテインメント作品って、ものすごい編集やら加工やらを経て、お客さんに届くじゃないですか。
それは、音楽ライブや演劇といった“ライブ”でも同じで、感動させるためにさまざまな演出が行われている。たとえば、たくさんの照明を浴びて熱狂の中心にいる演者は、ある種の宗教的な存在にも見えてくる。
それこそがエンタテインメントのおもしろさなんだけど、同時に「この人は絶対に正しいんだ」って錯覚させる危うさも孕んでいる。僕はそこへの警戒心が強いタイプだから、推し活ができないんだと思う。
あと、圧倒的存在を崇拝したいというより、人の体温を感じたいタイプだから、誰かを推すっていう感覚がわからないのはあります。
人のぬくもり、みたいなことでしょうか。
いや、なんだろうな……。話が少しズレるかもしれないけど、最近は誰もが自撮りをするようになって、顔が似てきてるじゃないですか? いろんなフィルターをかけて、みんな同じようなキレイさを目指しているというか。だけど僕はその人が生きてきた証である、シミやシワこそが見たいんですよ。
画面の向こうや、ステージ上にいる演者を「すごいなぁ」と思うことはあっても、その人を信用することはない。僕はシミとかシワが見えるような距離感で接して、自分が感じたことしか信じない。そういう意味で、人の温度を感じたいってことですね。
東出の人生相談連載「赤信号を渡ってしまう夜に」は、月2回のペースで公開。2024年3月号は、近日公開予定の後編へ続く
本連載では、読者の皆様から引き続き人生相談を募集中! 東出さんに相談したいお悩みがある方は、どうぞ下のボタンをクリックしてお寄せください(※お答えできない場合もございます。あらかじめご了承ください)
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